あおぞら財団 弁護士費用の敗訴者負担制度の導入に反対です

弁護士費用の敗訴者負担制度の導入に反対です

弁護士費用の敗訴者負担制度の導入に反対です

大阪弁護士会所属 弁護士 村松昭夫

現在進められている司法改革の最大のポイントは、いうまでなく、司法を市民が利用しやすいようにすること、司法を身近な存在にすることです。好むと好まざるとに関わらず、世の中には様々ないさかい、紛争、利害対立等が存在しています。従って、社会システムを有効に機能させていくためには、それを一定のルールに従って解決していくことが求められています。とりわけ、利害が複雑に錯綜する現在社会では、そのことが不可欠になっています。

結局、司法は、世の中に存在する様々な紛争解決の方法のうちで、最も合理的な紛争解決手段、とりわけそれが十分に機能すれば最も民主的な手段として、人類の知恵として創設され、発展してきたものではないかと思います。だからこそ、今回の司法改革でも、その機能強化が叫ばれ、そのためには、市民が利用しやすい裁判にすることが改革の最大のポイントとして取り組まれてきたのではないかと思っています。

さらに言えば、私は、その時の市民とは社会経済的弱者を念頭に置くことが不可欠であると思います。なぜなら、社会経済的強者は、もともと様々な紛争解決の手段を持っています。そのことは今更言うまでもないことです。例えば、私は、公害裁判に取り組んだ経験を持っていますが、多くの公害裁判では、大企業は、被害を表に出さない、場合によっては隠すために、住民への懐柔工作、行政への働きかけなど司法以外でのあらゆる手段を駆使して紛争を解決しようとしました。ところが、被害住民は、裁判以外には自らの被害救済をはかるすべがなく、最後の手段として裁判に踏み切ったのです。そのことは、多かれ少なかれ、社会経済的弱者が権利侵害を受けた場合には共通しています。従って、市民、とりわけこうした社会経済的弱者が利用しやすい司法に改革することがどうしても必要なのです。そして、社会経済的弱者が利用しやすい司法こそが、実は広く市民が利用しやすい司法になっていく唯一の道なのです。

従って、弁護士費用の敗訴者負担制度を導入するかどうかの議論の基本的な立脚点も、敗訴者負担制度を導入することが、市民とりわけ社会経済的弱者の司法へのアクセスをより容易にするかどうかにあります。もちろん、現在の制度が、明らかに構造的に不合理で、不公平であるというのであれば、敗訴者負担制度を導入する必要性はあると思いますが、この問題は、理論上はどちらが正しいというようなものではなく、結局、現状を踏まえて、前述の立脚点、すなわち、市民の司法アクセスが容易になるかどうかの視点から、いわば政策的な問題として検討すべき問題であろうと思います。

ところが、アクセス検討会の議事録を読むと、委員の中には、「裁判が多くなることは良いとはいえない」「敗訴者負担は、司法アクセスを促進するものではないが、公平・乱訴防止のために必要である」などの発言に代表されるように、およそ議論の出発点、司法改革の出発点を見誤っているとしか言いようのない意見が見受けられます。裁判が多くなるのは良くないという意見は論外であり、司法アクセスを促進しないがと言って別の理由から導入を合理化しようとする議論も、アクセス検討会の役割そのものを全く見誤った意見であり、委員としての適格性を疑わざるを得ないものです。

そして、いうまでもなく、権利保護保険や訴訟救助が未発達な我が国の現状では、敗訴者負担制度の導入は、間違いなく司法アクセスを促進しないどころか、一層困難にします。とりわけ、社会経済的弱者は、私の経験でも、自らの弁護士費用を支払うのも大変である上に、敗訴した場合は、相手方の弁護士費用も支払わねばならないということになれば、圧倒的に泣き寝入りの道を選ぶのは確実です。従って、現状では、この制度の導入は間違いなく司法アクセスを困難にすることになります。
むしろ、公害環境事件などの行政訴訟に片面的な敗訴者負担制度を導入することこそが、今必要になっていると思います。

いずれにしても、アクセス検討会は、市民とりわけ社会的弱者の司法アクセスをどうしたら改善できるかを検討すべきであり、ましてや司法アクセスを萎縮させるような制度の導入は絶対に行わないようにすべきであり、このことを重ねて要望します。
以上

2003年8月6日