あおぞら財団

中国の環境活動

china 令和2年度 2021年1月

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李力氏(北京市環友科学技術研究センター)の環境レポート
~楚源高新科技集团有限公司 副总经理としての活動について~

インタビュー担当:前田光飛

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劉科氏 (湖南省創意環境科技伝播センター)の環境レポート
―調査に基づく情報発信で知る権利と市民参加を促す―

インタビュー担当:松本幸太郎

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方応君氏 (蘇州工業園区グリーン江南公衆環境センター)の環境レポート
―「健康に生きる」権利を守りたい―

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呂妍氏 (北京天下渓教育相談センター)の環境レポート
―天下の渓流「人と草原プロジェクト」―

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楊緯和氏(北京書和路上文化メディア株式会社)の環境レポート

―野生動物保護の活動について―

インタビュー担当:吉川ほのか

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李力氏(北京市環友科学技術研究センター)の環境レポート
~楚源高新科技集团有限公司 副总经理としての活動について~

インタビュー担当:前田光飛

1.李力氏(北京市環友科学技術研究センター)の紹介

中国の60以上のNGOの顧問を務める。東アジア環境情報発伝所ネットワークの中国代表。環境教育には20年以上従事した。
本インタビューでは、主に、汚染企業に副社長として就任し、企業の内部から業務改善を監督し、排出基準を遵守させたという実践について伺っている。
SOHUに公益リーダーとして表彰され、2014-15年度のグリーン中国人にも選出されている。
<環友科学技術研究センター> http://www.envirofriends.ngo.cn/

2.インタビュー内容
(1)はじめに

李力さんは湖北省楚源高新科技集团有限公司(以下:楚源集団)という、汚染企業だった企業の副社長として、「環境に優しい生産」「グリーン発展業務」における権限を与えられ、会社が環境規定を遵守しつつ、生産活動を行えるように監督をしている。彼女は企業に対して一方的なアドバイス、指示を与えるのではない。副社長として企業統治に参加し、ともに企業の環境汚染の改善を進める道を選んだ。そして、彼女は楚源集団と3年間、年収たった1元で招聘に応じている(後述)。
以下では、その3年間で「どのような環境汚染に対する措置がとられたのか」「具体的にどのような成果がえられたのか」さらには、「どうして年収が1元なのか」について紹介していく。

(2)楚源高新科技集团有限公司

楚源集団は、湖北省石首市に1982年に創立された。当該企業が位置している石首市は60万人の人口を有する県クラス(日本の行政区分とは異なる)の市で、蛇行する長江の南側の肥沃な土地が、西南の山々に囲まれており、鉛、亜鉛、銅などの鉱物資源も採掘されている。長江を境界線にして、石首市は武漢と隣接しているが、食事文化や方言などは湖南寄りである。
楚源集団は1983年の創業時、使われなくなった3,000平方メートルほどの解放軍の官舎を利用して工場を建てた。「石首県化学工業第二廠」という名の村営企業で、当時は化学樹脂製の瓶の蓋を主要産品とした。楊志成をトップに従業員は30人未満だった。1986年には「石首市科学試薬廠」に名称を変え、ベンゼン、トルエン、キシレンなど225種類の科学試薬を製造するようになった。1988年には石首市の市街地拡張計画に伴い、工場を郊外の張城垸鎮に区画された工業団地に移転した。
1992年4月には「香港建源公司」との合資企業、「湖北楚源精細化学工業有限公司」を設立し、2年後の1994年7月に株式有限公司になった。1996年には省政府の認可を受けて株式を増資し、さらに市クラスの国営企業、「有機化学工業廠」を吸収合併した。この時に増資した4000万元はすべて工場の拡張に充てられ、J酸などの染料、医薬品、食品添加物などの原料を生産するようになった。1998年11月には、全国高レベル新技術重点模範プロジェクトとして1.8億元を投資し、年産8000トンのH酸を生産するようになり、2003年には「中国化学工業優秀500企業」に選ばれた。
1988年の移転以降、現在も同地で操業しており、主に染料中間体と活性染料、有機化学工業原料、生物薬品などを製造・販売している。また染料中間体の品種は世界で最も豊富である。H酸の年産4万t、パラベースエステル(染料中間体)年産4万tは世界で1位、年産活性染料5万tは世界3位である。以上からわかるように楚源集団は非常に大規模な企業ということができ、必然的に会社が雇用する労働者の数や周辺地域に対するさまざまな面での影響も非常に大きい。具体的に言うならば、楚源集団が納める税は石首市税収全体の60~70%、5,000名以上の労働者を雇用し、その家族を含めると2万人以上になる。
しかし2016年3月、楚源公司は汚染物排出違反のために生産停止勧告を受け、環境保護局から3000万元以上の違反金を課された。当然、労働者たち、ひいてはその家族たちに影響が及び、その影響は会社の損失だけでは収まらない規模だった。当時、楚源集団の周辺住民らがこの企業に対して抱く印象は非常に複雑なものだった。というのも、環境汚染が起きれば言うまでもなくその悪影響は周辺住民らに及ぶことになるが、この企業に雇用されている者も中には存在していた。この2016年3月の生産停止勧告を受けて、住民らの複雑な心情はさらに強まったに違いないであろう。

(3)生産停止勧告を受けて環境保護団体を招聘、調査を実施

2016年7月16日に掲載された新聞記事によると、楚源集団は株式の上場を目指すようになっていたが、環境保護部と湖北省環境保護庁の合同査察によって排出基準を超える排水の排出行為、及び環境影響評価制度等行政管理手続きの不履行を指摘され、排出基準違反については工場長と作業員を含む4名が行政勾留になった。
楚源集団本社とその子会社の湖北華麗染料工業有限公司に対して、2016年2月21日、合同査察がなされた。この査察では排水サンプルが2回採取された。これらを分析した結果、本社の排水のpH値は9.76,12以上、さらにアニリン(危険化学品リスト6.1毒害品に指定)が82.5mg/L、63.5mg/Lの値で検出された。さらに子会社の華麗公司の排水も、pH値が12以上、浮遊物濃度が114mg/Lを検出した。これに加えて、湖北省環境保護庁と荊州市環境保護局が3月6日と15日に行なった合同査察で、未登録の違法な排水管によって長江に汚水が排出されていることが明らかになり、ついに全面的な操業停止処分を受けることになった。以前にも、楚源集団が生産しているH酸の廃水は2006年まで国内の技術で処理することができず、COD20000mg/Lを超える200tの廃水を毎日希釈するだけで、長江に排出していた。2006年の第11期5ヵ年計画から、楚源集団は環境対策を重視するように経営方針を転換し、2.8億元を投資して環境対策をするはずであったが、上記のような結果になった。

李力(中)、霍岱珊(右)、杨建初(右)
楚源集団は生産停止勧告を受けると、創始者である柳志成は全国の環境保護団体に招聘状を出した。それに応じたNGOが、李力さんの所属する環友科技研究センターである。実際に、李力さんにも何10回の電話と4回の招聘状、2名の副社長が自宅にやってきたこともあった。
これに応じたNGOは3度、会社を訪れてヒアリングを行う機会を設けた。その際、会社の汚染の状況のみならず、労働者からや石首市の市民や農民らからもヒアリングを行い、石首市の市政府・市環境保護局も訪問し、石首市の経済発展状況・環境保護の現状について調査を行うなど、非常に多角的に楚源集団の汚染の現状についての調査を行なった。(左の写真:実際にヒアリングを行なっているときの様子)。
それでは、楚源集団の汚染の現状について明らかになった後、具体的のどのような対策を講じていったのだろうか。以降に説明する。

(4)調査を踏まえて実施された対策

上記で示したような調査を通して明らかになった問題点を簡潔にまとめると以下の4点である。

(1)内部の問題
⇨染色業界自体が非常に汚染を発生させやすい業界であるということ

(2)工場の問題
⇨工場が古く、生産ラインの老朽化が深刻であったこと

(3)スタッフの限界
⇨労働者らの環境保護意識が弱く、環境保護と安全に関する知識

(4)業界交流の問題
⇨環境保護関連の業界内部での交流が不足しており、先進的な企業との長期的交流がないこと

これらの問題点に対してとられた改善方法は以下の5つである。

(1)環境保護知識の伝達
⇨環境保護に関する知識を持つNGOが企業を指導し、知識を伝える

(2)環境保護研修
⇨研修を通じて幹部と一般職員の環境保護意識を高め、専門性と積極性を養う

(3)先進技術の導入
⇨先進技術の導入により、コストとリスクを削減

(4)企業交流
⇨BASF(独)や吉林化学集団など、国内外の著名な企業との相互交流を深める

(5)実地研修
⇨経営幹部と工場のラインを視察し、生産現場で問題と改善策を見出す。


李力さんが楚源集団の社長と生産停止勧告以前にあったとき、その謝罪は口先だけのもので、環境問題について社長は正しい認識を持っていなかった。

彼女は、汚染企業を改善していくのには、それぞれの企業の現状に合った対策を取らなければならないと考えた。そのためには、楚源集団の場合はまず、企業のリーダーの意識を変えることが重要で、そして次に企業の最先端で働く労働者たちの環境への認識を改めることが必要であると考えた。
そのため、李力さんは、100名以上の企業幹部に対して研修を行った。

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また、李力さんは、汚染企業の環境改善の理想的なモデルとして、以下の3点を掲げている。

(1)認識度
⇨職員の環境保護意識の向上、及び企業の社会的責任と環境責任を積極的に引き受ける意識の向上

(2)転換度
⇨環境保護は企業の発展と対立するという意識の転換

(3)説得度
⇨環境保護の意識、態度、行動の3方面に置いて住民を説得する

私は特に、②の転換度という項目に対して、非常に懐疑的であった。環境保護を鑑みることは、企業が発展し続け上で大きな足枷になるのではないかと考えていた。しかしこの認識は誤っていた。今日に必要とされているのは「質の高い発展」である。つまりは環境汚染問題を鑑みず、ひたすら発展を目指すような方法は時代遅れとなり、そのような企業は確かに環境対策のコストはかからないものの、周囲の地域住民の健康被害に対する賠償や行政からの違反金、生産停止などが課される可能性がある。さらには環境汚染対策に成功すれば企業のイメージも向上する。短期的利益よりも長期的利益が重要なのだ。このような考えを背景に楚源集団の汚染問題の改善策がとられていった。

加えて、李力さんは以下にあげるような日常的な業務も徹底して行なった。

(1)事前措置
⇨環境保護設備と安全設備の完備

(2)現場監督
⇨現場監督による徹底的な管理

(3)適切なスタッフの配置
⇨緊急措置の意識と能力の向上

改善措置の現場
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抜きうち調査の様子
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李力さんは副社長として、完全なホワイトカラー的な仕事をこなすだけではなく、汚染問題が実際に発生している現場を把握することの重要性を理解し、実地でも環境汚染問題の改善に尽力した。

(5)成果

企業のリーダーや労働者の意識を変えていくといった企業の内面的な対策に加えて、現地での監督や抜きうち調査などの外面的な対策を通して、具体的にどのような成果が得られたのか。

4年間で計2860回に及ぶ現場監督によって、637の問題が明らかになり、その全てが解決したと李力さんはおっしゃった。具体的に、長江流域の湖北における排水基準を全ての排水ポイントにおいて遵守し、全ての指標(COD値、アンモニア窒素値、PH値、等)で国家基準を満たしており、さらには毎年排水排出量を約50万t、毎年排水処理コストを約1000万元削減するなど、あらゆる方面での成功を収めた。
また先述の通り、楚源集団が周辺地域や住民に与える影響は大きい。楚源集団は周辺地域と住民に対しても、これまでの汚染企業としての反省から、環境諮問委員会や周辺住民が工場の見学に参加し、直接楚源集団に意見を言うことができる機会を設け、さらに60歳以上の老人を対象に生活費を支給するなどの改善策をとった。それによって、周辺住民の楚源集団に対する印象は大きく良いものへと変わっていった。
工場を見学する際の順路図
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李力さんが最優先した、企業のリーダーの意識を変えることという点についても、前理事長から2度の謝罪を受けた。「私たちは汚染企業だ」「私のブレーン集団は間抜けだ」「環境保護と安全生産は楚源の2つの重要事項だ」。このような言葉を引き出したことを考えれば、李力さんの環境問題対策は数字上でも、また内面的にも成功したということができるだろう。
また、楚源集団が環境汚染問題に積極的に取り組むような企業に変化した様子は、その見た目からもはっきりと見て取れる。今の楚源集団の敷地内には下のような看板が多々建っている。

长江边的楚源监测2
看板の表記の訳
建物上青文字:環境監視測定/窓左側:科学モニター/窓右側:厳しい管理

 

长江边的楚源宣传栏
看板の表記の訳
▷重要な環境保護施設であるため、破壊行為を禁止する
▷違反者はその結果を自分で責任を負う

その成功は習近平国家主席の目にも止まり、楚源集団について以下のような言及があった。
「私は新華社の報道を見た。長江の石首河岸で『多くの苦労を重ねてきた』化学工場は、産業規模が世界第三位、当地の主要な納税企業であるが、主要な汚染排出源でもある。汚染問題は深刻で長年解決に苦しみ、周囲の大衆も言葉にならないほど苦しんだ。ここ2年、環境保護部門は本格的に厳しい検査を繰り返し、2700万元もの長江流域で『史上最大の環境保護処罰カード』を切り、企業に汚染が深刻で改善が困難な生産ラインを閉鎖させ、約1億元を投じて業界で最先端の汚染処理装置を設置させ、長年の汚染問題を解決するのみならず、企業にモデルチェンジとアップグレードによる一挙両得を促した」。

(6)年収1元とは?

楚源集団の環境汚染の状況は3年間の時間と8億人民元の費用を費やし、大きく改善された。この成功には非常に大きな努力と労力が費やされたに違いない。しかし、その対価として李力さんが受け取ったのは、1年でたったの1元だった。
これについて、李力さんは以下のようにおっしゃった。
「私自身、環境NGOとしてではなく企業の内部から環境保護を促し監督することには関心があり、楚源集団が好機となった。当然、企業が私に提示した額は多額なもので、初めはそのお金を環境NGO活動の経費に使おうと思った。しかし、一度多額な収入を受け取ってしまうと、私の発言権は弱くなり、環境汚染の改善の実現がより困難になってしまう。私の頭によぎったのは『恩を受けた人には甘くなる』という言葉である。もし、年収たったの1元で楚源集団の汚染問題が解決されるのならば、それによる価値は高収入を受け取ることと同じではないか」
楚源集団が李力さんに多額な金額を提示したことで、中には「生産停止になった汚染企業に利用されるだけだ」「表面的な環境改善を繕うために良い条件を与えられた」と揶揄する人も存在したが、李力さんは「本当の環境改善」を目標に、年収1元で楚源集団の環境汚染問題を大きく改善へと導いたのである。
李力さんは、楚源集団の環境汚染について4年前の状況を「刺眼」(中国語で「見るに堪えないような状態」)と表現した。しかし多大な努力によって大きく改善した今日の状況は「养眼」(中国語で「見ていて愉快である」)と言えるような状態であるとおっしゃった。李力さんと楚源集団の契約期限は既に過ぎてしまったが、彼女は新たに6年の契約にサインをした。彼女は今後の6年の目標について、現在の「养眼」の状態を維持し、さらには現在の水準を向上していくと述べた。そして、ゆくゆくは地球全体の利益のために、この楚源集団での経験を他の企業でも活かせるようにしていきたいと語られた。

(7)最後に

李力さんはあおぞら財団との関係について、以下のようにおっしゃった。
「非常に長きにわたる交流から多くの影響を受けている。初めてその交流があった際、自分にとって衝撃的なことが多く、強烈な印象を受けた。それは(かつて公害があったという西淀川区の)道が綺麗なこと、空気が澄んでいるなど、現在の日本に住む人にとっては当たり前のことが、私の目には新鮮に映った。あおぞら財団の公害被害者に対する支援や病院、老人介護施設、リハビリステーション活動にも感銘を受け、強い関心を持っている。一般人向けにも開放されている公害問題に関する資料館も、環境汚染問題の認知度を広めるのに非常に大きな役割を果たす。さらには大阪市の廃棄物焼却施設には子ども向けに用意された施設すらあり、これにはかなり驚かされた。先程の施設(公害資料館)なども含めて、中国での普及を目指していきたい。
また、私が日本での経験で特に印象的だったことがある。中国からPM2.5の測定器を持参し、中国と日本の都市部で測定値を比較したところ、日本の値は中国の値の1/40の値しか検出されず、バスから出る排気ガスのそばで測定しても中国の値の1/20しか検出されなかったことだ。
あおぞら財団のコーディネートによって、『NPO法人菜の花プロジェクトネットワーク』の代表の藤井絢子さんとも交流し、中国でも菜の花プロジェクトに似た活動を促すことができた。
あおぞら財団による日中交流が中国の環境NGOのプラットフォーム形成に担っている役割は非常に重要である。今後もこのような交流を続けていきたい」。
李力さんは、この10年間で中国の環境保護に関する状況は、大きく改善に向かっていると認識している。その背景には、中国で環境保護法が改正されたこと、また、水質、土壌、大気それぞれの方面で問題を抱えていたが、政府の企業に対する要求が徐々に高くなりつつあることが挙げられる。例えば、北京周辺で新しく企業を設立する際には今までよりも高いレベルの基準を満たさない限り、工場の運営許可が得られなくなったということも、この10年間でも大きな変化である。さらには、生活廃棄物の処理などについても中国国民の意識の変化が生じ始め、生活の場からも環境保護に対する意識が芽生えつつあると感じているということだった。

3.感想(インタビュー担当:前田光飛)

日本人が環境問題について考えるとなると、おそらく真っ先に連想するのは「オゾン層破壊」や「地球温暖化」などの地球全体で現在進行中の環境問題であろう。私自身も実際そうだった。
今回、李力さんの報告を通して、「身近な環境問題」により関心を寄せるべきだと感じた。特に楚源集団のように、周辺の地域住民に寄り添って環境問題の改善に取り組んでいくような姿勢には、より関心と敬意を寄せなければならない。企業と私たちのような一般人の相互の協力によってより効果的になる環境対策もあるということを学ぶことができた。
また、「年収1元」という言葉にも驚かされた。中国語で説明がされたとき、思わず自らの耳を疑うほどだった。しかし、この1という数字には、彼女が深刻になりつつある環境汚染に対して、どれほど情熱的に、誠実に向き合っているかが現れているように感じた。

劉科氏 (湖南省創意環境科技伝播センター)の環境レポート
―調査に基づく情報発信で知る権利と市民参加を促す―

インタビュー担当:松本幸太郎

1.劉科氏(湖南省創意環境科技伝播センター)の紹介

今は湖南省の創意環境技術伝播センターの責任者、中国の環境汚染調査に9年間従事している。
<湖南省創意環境科技伝播センター> https://www.weibo.com/cec86?is_all=1

2.インタビュー内容
(1)はじめに

劉科さんは湖南省の創意環境科技伝播センターの理事長として、また、湖南省長沙市政府が招聘した一江六河(一つの大河と六つの河川)の民間河長として、環境保護活動に取り組んでいる。河長とは、河川の管理や保護活動を行う責任者のことで、地方政府の指導者層によって指名される。
「私は劉科、創意環境科技伝播センター(以下:センター)の理事長として主に湖南省の環境保護活動に携わっています。私が環境保護に取り組むようになったきっかけは、私が趣味で撮影していた生態写真と関係があります。生態写真を撮りはじめたころ、故郷の美しい河川を撮るときには、いつも汚染された光景がレンズに写り混んでしまいました。そこで写真を用いて傷つけられた母なる河に声を与えるために、美しい河の流れを撮影し、また同時に汚染も記録することにしました。
ある日、河川一面にゴミが広がっている光景を撮影したところ、その写真が評価され新聞の一面に掲載されました。驚いたことに、そのわずか2日後、地元の政府関係者に誘われて再び現場に向かうと、ゴミが全て片付けられていたのです。この時、写真には環境を改善することができる影響力があると気づき、それ以来環境保護活動を続けています」。
創意環境科技伝播センターの活動方針は、一般市民の環境情報を知る権利や環境保護について意思疎通をする権利を促進することだ。現在は特に湖南省の重点汚染源に対する調査と環境保護への市民参加に重点を置き、湖南省の生態環境を保護することを主要な目標としている。具体的には、様々な企業による汚染実態の調査と、美しい環境や環境破壊の写真や映像の撮影、市民に対する環境教育、チャリティープロジェクトの工芸品のデザインなどを行なっている。

(2) 活動内容

劉科さんは湖南省及び中国各地の汚染状況を調査し、そうした汚染現場や美しい自然環境を写真撮影することで、社会に環境の実態を伝えている。
「私は生態写真家として、環境の代弁者となるような写真を撮影してきました。昨今の中国では、環境を知る権利と意思疎通の権利に関連して、ますます直感的な表現が求められており、良い写真は一般市民の環境に対する理解をさらに促すことができます」と劉科さんは言う。彼は環境に関する作品は共有されて初めて価値を持つと考え、基本的には自分で撮影した写真に署名やウォーターマークを加えることはない。
以下、湖南省及び中国の他の地域の環境や劉科さんの活動の実態を、彼が環境保護活動の一環で撮影した生態写真とともに紹介する。

・選鉱くずを溜めるダム
劉科さんの活動する湖南省において、非鉄金属の採掘、選鉱(鉱物を有用なものと無用なものに分ける作業)、精製といった工程からなる冶金業は重要な産業である。湖南省で年間生産額が1000億元を超えた初めての産業は冶金業で、湖南省は全国的にも重金属の産出量が多い。しかし選鉱でより分けた重金属の選鉱くず(ボタ)による汚染は直接、飲用水源の安全に影響を与えている。
中国では汚染調査のデータは自分たちで分析するためだけに使えて、それを公表することはできないため、湖南省の選鉱くずから流れ出す汚染物質にどのようなものが含まれるのか、それがどの程度の量なのか、どれほどの健康被害が発生しているのかは正確には判断できない。しかし世界各地には重金属汚染による健康被害の実例が多数存在する。
例えば、日本における鉱害の有名な事例の一つであるイタイイタイ病は鉱山から排出されたカドミウム汚染水によって引き起こされた。この病は、汚染水によって汚染された農作物を日常的に摂取していた地元住民(主に出産経験のある女性)が発症した。その症状の特徴は骨折しやすくなることで、重度の場合、「寝返りを打ったり笑ったりするだけでも骨折し、張り裂けるような激しい痛みに襲われる」。最悪の場合、「意識は正常なまま、痛みを訴えながら衰弱しきって死に至る」。
近年もペルーや米国で見られた鉛中毒の場合、「濃度が低くても、元気が出なかったり、関節が痛んだり、記憶力が低下したりする。中濃度の場合、とくに子どもではIQが低下し、そうなると一生回復しない。高濃度では、ひきつけや臓器機能不全を引き起こし、死に至る」。 また、「水銀、カドミウム、ヒ素などの有害物質は、腎臓など内臓器官への影響や知覚障害、言語障害、先天性疾患など様々な障害」を引き起こす。
なおこれらの有害物質は、選鉱くずから流れ出る汚染水に含まれる様々な有害物質の一部に過ぎず、他にも人体に与える影響が未確認の物質も含まれる。湖南省には選鉱くずを溜めるダムが3000近く存在するが、こうしたダムには硫化物やヒ化物を含む鉱物だけでなく、選鉱に使用する薬剤も溜まる。こうした薬剤の毒性も非常に高く、人や野生動植物の健康への影響が大きい。さらに、これらは人がいない山奥に作られるため管理が困難である。

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選鉱くずを貯めるダムの空中写真
このようなダムは中国南方でよく見られる。もしも決壊した場合、下流にある農村は甚大な汚染被害を受ける。

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ダムの現場
重金属を含む選鉱くずは未処理のまま垂れ流され、環境に大きな危害をもたらす。

・洞庭湖
湖南省には中国で2番目に大きい淡水湖である洞庭湖がある。洞庭湖は長江下流における重要な水源地であり、国際的にも重要な湿地でかつ希少な野鳥の生息地でもある。生物多様性が豊かで、国家一・二級保護野生植物が30数種、カラチョウザメ(中华鲟)、ハシナガチョウザメ(白鲟)、コウノトリ(东方白鹳)といった国家一級保護野生動物が13種、国家二級保護野生動物が35種存在し、国家重点保護野生動物のスナメリ(江豚:長江イルカ)やシフゾウ(麋鹿:シカ科の動物)の生息地でもある。
洞庭湖も選鉱くずによる汚染の影響を受けているが、それ以外にも「水中の窒素・リンが必要以上に増え、それらを栄養として利用する植物プランクトンが急速に増え、水中の酸素が不足し、魚類が死滅する」水質の富栄養化という問題も抱えている。洞庭湖の場合、COD(化学的酸素要求量)・アンモニア窒素・総リン・総窒素を増加させる主要な原因は農業で、その次が生活排水である。養殖業が水質に与える影響も甚大だ。真珠の養殖も、水質が富栄養化する肥料を使用して増産する方式を採っている。洞庭湖の一部では何年かおきに赤潮が発生している場所があり、富栄養化が最も深刻な場所では、水に粘り気があり、一面に悪臭が漂い、どこにも生きている魚や鳥がいない光景が広がっている。
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中国で2番目に大きい淡水湖である洞庭湖の空中写真。夏季に撮影。

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洞庭湖の湖畔で行われている真珠の養殖(写真は約1㎢)。

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洞庭湖の湖畔に投棄された薬剤の容器。付近の養豚場で使用された抗生物質やワクチンの容器が未処理のまま土中・水中に遺棄される。

・華北地方の平原
劉科さんは河川だけでなく平原においても汚染調査を実施し環境保全にも取り組んでいるが、調査に協力的でない企業は非常に多い。中国の民間企業は生き残りが厳しく、また民間の企業家たちは全体的に十分に知識があるとは言えないため、汚染管理の普及には大きな抵抗がある。最近では暴力で抵抗してくる例は多くないものの、多くの場合、積極的には協力せず、まともに相手にされない。
中国北方の多くの場所では、汚染源の周辺に隠れるものはないので、歩いて調査すると企業にすぐ発見されてしまう。また空中写真では汚染の詳細や汚染量が検査できない時もある。そこで平原地帯では、調査員の安全を保証するためにも、深夜に調査研究する必要がある。

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夜間に実施した皮革工場周辺の現地調査(華北地方)。

製品製造の過程で排出される六価クロムやホルムアルデヒドは発がん性物質で、そうした汚染物質は穴に埋められるので掘り起こして調査する。
「臭いがきつく3時間も続けて掘っていると吐き気がする」(劉科さん)

・長江のスナメリ
劉科さんは2017年から長江のスナメリ(イルカの一種)の保護にも取り組んでいる。この時、調査で見つかったスナメリの数は1012頭だったが、それから2019年までの2年間で、50頭近くが不自然死した。スナメリ保護は未だに初歩的なものにとどまっており、現在でも電気ショックや密猟と戦っているほどだ。そこで、最前線でスナメリ保護の巡視活動をしているボランティアが、快速艇やその他備品を買えるのに一般市民からの支援を得られるようにするため、センターではたくさんのスナメリの工芸品をデザインして彼らに提供している。2021年1月1日からは、長江の重要水域において10年間の禁漁措置がとられることになった。漁師の船が接収されるほど禁漁措置は徹底されているので、将来、スナメリの生息地に一定の改善が見られるだろう。しかし措置の結果、魚の生息数が回復した場合、それに伴い密猟も増加することが予想されるので、やはり今後も民間からの参加・監督が必要だ。

スナメリをモチーフにした工芸品の数々

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蓋の持ち手にスナメリをあしらった茶器

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悲しみや水中のゴミを彩り豊かな色で表現した作品

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母と子の二匹のスナメリの筆置き。

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「卓上のペット」として可愛がることもできる文鎮。

・環境教育
センターでは、子ども達が自然に対する理解を深められるように、環境教育を実施している。子どもたちを連れて川沿いを歩いたり、川の流れを体験させたり、汚染指数を測定したり、川に住む生物を観察したり、河岸の建設などの観点から川の健康状態を総合的に評価したりする。他にもセンターでは、環境保護は決して難しいものではなく、誰でも簡単に参加することができることを強調している。例えば食事から揚げ物を減らすことで、調理中に発生する油を含んだ煙が減り、大気汚染の減少に貢献できることや、野生動物や自然環境に対して敬意の念を持ち尊重することで、それらを保護できることを教えている。

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生物多様性が豊かな湿地における環境教育。湿地には子どもたちが普段の生活では見られないような野鳥が豊富にいる。

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河川で採取したサンプルの水質を子どもと一緒に調べる環境教育。COD(化学的酸素要求量)・アンモニア窒素・総リン・PH値といった調査項目がある。

(3) この10年の中国の状況の変化

ここ10年間で起きた中国の環境問題に関連する大きな変化のうち、代表的なものはやはり2015年から施行された新環境保護法だろう。この法律によって、環境保護に関する市民運動が承認され、強制力を持つ環境情報の公開申請や、公益訴訟を行えるようになったほか、通報の有効性が向上した。他にも「地域全体に関する汚染物質の総量規制や罰金の上限の撤廃、是正まで毎日加算される制裁金、企業責任者の勾留」といった厳しい制限や罰則が新たに制定された。
環境NGOと地方政府の関係はよりポジティブなものに変化した。3、4年前は、環境保護を優先したいNGOと工業の発展を優先したい地方政府の間で対立があったが、最近では環境保護の重要性を理解する官僚が増えたため、汚染が改善されない場合、環境責任者が責任を厳しく追求されるようになった。そのため、政府関係者も積極的に汚染対策に取り組むようになり、モニタリングの面では環境NGOの役割を認めるようになった。そうして環境NGOが汚染を当局に通報し、当局の人間が現場に赴き調査するという役割分担ができつつある。

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河川ツアーに参加する市副区長、副党書記その他関係者

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政府が招聘したフォーラムで活動を紹介。
考え方を伝えることによって信頼関係を築く。

(4) 今後の課題

センターは環境教育に力を入れているが市民の環境理解には課題もある。現在、NGOは汚染企業の商品は使わないように提唱しているが、一般市民にとっては買いたい商品が環境に優しいのかどうかはわかりづらく、ボイコットへの市民参加はまだ容易ではない。また「公害」という概念に対する認知も遅れている。10年前、中国の農村地帯にはいくつもの「癌の村」「鉛中毒の村」「骨の病気の村」があった。湖南省にも石門県に「癌の村」と呼ばれる鶴山村がある。ここではヒ素の硫化鉱物である雄黄(石黄)を採掘し、高品質なものは日本にも輸出していた。低品質なものは自分たちで使用し三酸化二ヒ素を焼成していた。その結果村の水と土壌には汚染物質が蓄積され、村人の多くが癌になった。しかし、このような重篤な公害被害があっても、近年政府メディアは基本的に報道しなくなったので、市民は基本的に公害を知らないか、知っていてもおおっぴらに話すことはできない。このように中国では「公害」問題を積極的に大衆に知らしめようとはしない姿勢が見られる。

なお中国ではもともと「公害は資本主義の病だ」という政治宣伝がされていた。例えば中国共産党の機関紙「人民日報」では、1972年に次のような概要の記事が掲載されている。
「資本主義国家において生産手段を持つ資本家は、それを最大限に利用し利益を絞り出すことだけを考え、多くの人々が被害を被るかどうかは考慮しないため公害が起きる。一方、社会主義社会では生産リソースを持っているのは国家と人民で、生産は人民の利益のために行われるため公害は起きない」
このような主張は、1978年の市場経済への移行を図る改革開放政策以後も続いた。中国において「公害」問題が顕在化した1990年代以降はこうした考えが主張されることは減ったものの、現在でも「公害」問題を積極的に大衆に知らしめようとはしない姿勢にこの思想の影響を見ることができる。

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居民委員会で社区(コミュニティ)の人たちどのようにごみの分類・水質保護をするのかを説明。

近年、飲用水の水源と河川の水環境の保護は極めて大きく進歩した。多額の資金が投入され、多くの法律やルールが整備された。移転や閉鎖、組織し直された企業も多い。しかし一方で、河川を保護するため河川での砂利の採取が禁止されたことを受けて、砂利の製造が鉱山で行われるようになり、採石や採掘が山林の生態系を破壊する状況が極めて厳しくなっている。こうした砂利はコンクリートの原料として使用されるため需要が大きく(コンクリートはセメントに砂利やその他の材料を加えて作るが、中国が2011年から2013年までの3年間で使用したセメントの量は、米国が20世紀全体を通して使用したセメントの量を上回る)、盗掘や違法採掘が行われることも多いが、山奥で砂利の採取を行う小企業を管理・監督することは困難だ。

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生態系を破壊する採石場。

(5) 日本の環境再生の経験を伝え、市民に環境情報を知る権利を伝える

劉科さんは過去にあおぞら財団に招聘されて日本で講演したことがある。その際の経験が彼の活動にどのように活かされているかについて、彼は以下のように述べた。
「私は中国に帰った後、あおぞら財団のお話を共有する会を開催しています。市民は西淀川の変化にとても驚きますが、私は彼女らに対して『努力するとやり遂げられる』と話します。その場にいる多くの人たちは難しいと感じているのかもしれません。しかし私はカメラで環境の変化を絶え間なく記録して、その変化を絶えることなく市民に知らせることで、彼らに環境を知ってもらい、自分たちが環境について『知る権利』を持っていることを理解してもらっています。時間はかかるかもしれませんが、センターでは、市民が自発的に環境を維持・保護するように教育することで環境を維持・保護する手助けをしています。」

3. 感想(インタビュー担当:松本幸太郎)

今回、劉科さんをインタビューする中で、中国の環境問題やそれに対する政府、地元企業、社会の姿勢といった多くの物事を学ぶことができたと思う。劉科さんのお話で特に印象的だったのは、汚染水を垂れ流す選鉱くずのダムと、夜の闇に隠れながら行う調査だ。まず選鉱くずのダムは極めて大きな問題だと感じた。レポート中にも記述したが重金属を含む汚染水は付近の住民や野生動植物に甚大な健康被害をもたらしかねない。夜間調査のお話は、「環境保護活動」というなんとなく平和的な響きを感じるこの言葉が、実は「環境破壊との戦い」という意味を持つのだということを私に教えてくれた。
劉科さんは「私が根絶したいのは汚染であって汚染企業ではないのです」と繰り返し言った。このように単に汚染企業を悪とみなすのではなく、クリーンな運営ができるように支援することによって、環境保護はさらに速やかに進展させることができるだろうと思う。

 

方応君氏 (蘇州工業園区グリーン江南公衆環境センター)の環境レポート
―「健康に生きる」権利を守りたい―

インタビュー担当:河村大成

1.方応君氏 (蘇州工業園区グリーン江南公衆環境センター)

蘇州工業園区のグリーン江南公衆環境センターの責任者、自然の友の終身会員。企業管理に長年従事し、環境保護に6年間従事し、07年に環境保護に関わる活動でNGOに参加した。
<蘇州工業園区グリーン江南公衆環境センター> http://www.pecc.cc//

2.インタビュー内容
(1)環境NGO「緑色江南」設立までの経緯

2012年、方応君さんが住んでいた地域で、米国のデジタル製品の下請け企業が大気汚染を引き起こす有害物質を排出していた。方応君さんらは企業に改善するように訴えるも叶わなかったため、地元の環境保護局に駆け込んだが門前払いを食らった。しかし、自分たちの健康問題に大きく関わるこの汚染問題を放置しておくわけにはいかず、汚染状況を自身らの手で記録し、それを環境保護局に報告することで、問題の解決を図ることができた。方応君さんは、環境問題が散在していた中国において、自分たちだけでなく他の人々の「健康に生きる」権利も守りたいとの思いから、自ら環境NGO「緑色江南」を立ち上げた。

(2)緑色江南の活動

緑色江南は、2012年の3月22日(世界水の日)に設立され、これまでに中国国内の数百件もの環境問題を解決してきた。企業のグリーン生産を促進し、太湖流域の水資源を保護することを目的に、産業汚染源のモニタリングをしている。産業汚染は、水質汚染・大気汚染・土壌汚染の三分野からなる。産業汚染源モニタリングは、方応君さんら自らが汚染源に赴き、汚染状況を観察・記録する。その記録を現地の環境保護部門に告発し、企業処罰や行政の補助等による汚染処理によって環境問題が解決していく。
緑色江南が本拠地を構えているのは江蘇州の蘇州だが、現地調査で訪れるのは、南は温州(浙江省)、北は遼寧、東は上海、西は安徽までさまざまだ(図1)。

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数万kmもの道のりを自身で運転して現地調査に行くこともある。調査は、昼夜や季節を問わず、さらには1年の3分の1以上の日々を野外での調査に費やすため、忍耐と根気を必要とする。
緑色江南が現地政府に告発した排出基準を違反した企業は、2016年には668社、2017年には921社、2018年には1579社、2019年には5064社、2020年には5004社にまで上る(表1)。緑色江南が告発した企業は増加傾向にあるが、違法を犯す企業は全体として減少している実感があるそうだ。

表 1 緑色江南が現地政府に告発した排出基準を違反した企業数

告発した排出基準違反企業数

告発企業のうち、環境保護局から回答があった件数

告発企業のうち、処罰が下された企業数

2016

668

176

20社余り

2017

921

274

30社余り

2018

1579

1133

191社余り

2019

5064

1812

181社余り

2020

5004

1105

56社余り

2012年の緑色江南設立からこれまでに、200本以上の調査報告書を各地の政府環境保護部門に提出した。その結果、総額5億元(約80億円)以上の財源が、環境汚染の処理改善のために用いられた。
緑色江南の公式ウェブサイトには、37本の報告書が掲載されている。(図2)

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図2 緑色江南ウェブサイトに掲載された

報告書一覧 http://www.pecc.cc

(3)報告例

以下に、緑色江南がこれまでに公開してきた報告書の中から一つを取り上げ、緑色江南がどのようなプロセスで環境汚染問題の解決を図っているのかを紹介する。

魚と蟹の大量死 ―原因と責任の所在を追求する―

報告書『宿州工业园污水处理厂空转 ! 谁来为洪泽湖鱼蟹死亡担责?』(2018年9月)より

背景
2018年8月25日の早朝、安徽省の新濉河、老濉河、新汴河から洪水が押し寄せ、基準値を超えた大量の原因不明の汚水が江蘇省の洪沢湖に流れ込んだ。洪沢湖では、江蘇省泗洪県臨淮鎮の養殖漁業家の約1万6000haの漁業地で、養殖中の魚と蟹が大量死した。魚や蟹の収穫期に養殖漁業家の人々は収穫を失うことになり、総額3億元近くの損害を被った。漁業家は多くの借金を抱え、この汚染によりこの村の人々は貧困状態に陥ることになった。また、この汚染は飲料水の安全性にも深刻な影響を与えた。
同年9月6日、安徽省環境保護庁は、この洪水及び汚水は暴風雨と自然洪水が引き起こしたものであり、洪沢湖上流の河川流域に存在する経済開発区では汚水処理が正常に行われており、産業排水や生活排水が原因ではないとした。
被害状況の把握
同年9月14日、緑色江南は江蘇省泗洪県臨淮鎮の二河村を訪問し、現地調査を行った。養殖漁業家の劉慶友さんは「うちは12ha余りもの漁業面積がやられてしまい、魚や蟹は全滅した。汚水による損害は10万元以上だった」と話した(写真1)。

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写真 1
劉さん(左)に話を伺う方応君さん(右)

蒋後有さんは「この汚水事件は突然のことで、どの漁民もこの汚水に全く備えることが出来なかった。8月26日に、湖が醤油の如く漆黒と化した。湖からは化学的で鼻をつくような異臭がし、養殖場の水や草は死んでしまった。うちは80haの水域を有しており、損失は100万元前後にもなった。死んだ蟹を掬い上げるのに、5、6日を費やした(写真2)。4000〜5000匹の蟹とケツギョが死滅した。今年は銀行から25万元を借りたが、どうやって返せばいいか分からない。」と語った。
泗洪県の臨淮鎮政府人民代表大会主席の蔡亜氏は、汚染事件の政府側の対応について次のように説明してくれた。この事件について、公安部門はすでに立件しており、江蘇省の環境保護部は監督を始めた。省の環境保護庁と宿遷市の環境保護局は8月26日に、第三者検査機関に水の検査を委託し、調査が進められているところだ。隣接する県市と積極的に協議を行っているが、結果はまだ出ていない。水質には汚染が認められたが、最終的な原因はいまだに判明していない。また、死んだ魚や蟹は密封保存されている。この原因不明な汚水に関して、被害を被った養殖の面積は極めて大きく、江蘇省・安徽省両政府は現在事態を協議中だが、責任の所在を定めることが難しい。この事件の汚水は生活汚水の可能性と産業汚水の可能性があるが、安徽省政府は産業汚水が原因ではないとしている。

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写真 2 大量死した蟹を掬い上げた蒋さん

汚染源の調査
原因不明の汚染水の発生源を追跡するために、緑色江南は安徽省の新汴河と新濉河の現地調査を実施した。洪沢湖から約40km上流の団結水門で、宿州市水利局団結水門の水量調節責任を示す立て看板を発見した。その看板には、責任を負う単位は宿州市水利団結水門管理所であると記載されており、水門の所属は安徽省宿州市の泗県であることが分かる。しかし一方で、隣に立つもう一つの看板には、団結水門が位置している地域は、江蘇省宿遷市の泗洪県の管轄であることが示されている(表2)(写真3)
緑色江南が訪れた時点で水門は閉鎖されており、水位が約7mであることを確認した。貯水面には、大量の生臭い藍藻が漂っていた(写真4)。水門の下流側には大量の枯れ草が地面に横たわっており、また砂利が散在していた。それは、事件発生日の8月25日の早朝にこの水門が開いた時、砂利が混じった大量の排水が川底を勢いよく流れたことを伝えていた。

表 2

団結水門の管理

団結水門が所在する地域の管轄

安徽省 宿州市 泗県

江蘇省 宿遷市 泗洪県

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写真 3 団結水門の立て看板

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写真 4 団結水門の貯水面

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写真 5 水門下流側の様子

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写真 6 枯河水門の様子

団結水門の北西約15km昇ったところにある新濉河の枯河水門では、少量の放水が行われていた。貯水池の水質は良好で、汚染物質は見つからなかった(写真6)。
団結水門から上流へ10km昇った泗県は、耕地面積が約77万ha、森林面積が25万ha、水の貯蔵量も多く、農業環境が整っている。小麦、とうもろこし、ピーナッツ、さつまいも、牛肉、羊肉、豚肉などの生産量は省トップクラスである。産業発展の初期段階では、機械電子や省エネ環境保全、農産品加工、紡績服装の4分野を主導産業とし、14㎢もの面積を誇る経済開発区を形成した(写真7)。
洪沢湖上流60km以上昇ったところに位置する泗県第二中学校の斜め向かいにある泗県汚水処理場の処理水は、川に放流される(写真8)。

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写真 7 泗県の工業マップ

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写真 8 泗県汚水処理場の排水口

2018年6月28日、中国環境保全ネットは、「泗県の水環境の特別監督指導に関する通知」を発表した。この通知は、汚水処理場の主な問題を次のように指摘している。
(1)泗县区域内に流れる唐河と沱河の支流の水質が悪い。水質汚染の防止管理が不十分で、悪化が継続する傾向にある。
(2)河長制の責任が満足に実行されていない。一部の河川には、枯れた水や草、浮遊物が存在し、自然浄化できず、水質汚染を作り出している。
(3)大部分の郷鎮の汚水処理場は建設済みであるものの、正常に機能しておらず、汚水処理率が低くなっている。さらに、汚水処理場の排水口が規則に則っておらず、監視装置が設置されていない。
(4)沱湖自然保护区内の河川の堤防では育てられており、本来堤防で育っていた植物が育たなくなり、水質汚染の原因になる可能性がある。

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写真 9

石梁河の地下水門の様子汚水処理場の排水放流水域である石梁河を調査したところ、汚水処理場の下流約4kmの地点に地下水門を発見した。この地下水門の南には、新汴河があった。調査時、石梁河の地下水門は閉鎖され、貯水域の水は濁り、異臭を放っており、大量の藍藻とゴミが漂っていた(写真9)。周辺住民によると、石梁河が高水位に達した時、石梁河の汚水は地下水門を通って新汴河に放流されるそうだ。
石梁河の地下水門から上流に約30km昇ったところにある霊璧県には、工業団地があり、機械や衣料品をはじめ、農作物や電子機器、建築資材加工などの生産を行っている。この地域にも③と同様に汚水処理場が存在し、処理水は処理場東側の羅河に排出されている(写真10)。
霊璧県の霊璧調節水門のそばの新しい橋の上で、緑色江南は地元のトウモロコシ農家に8月26日の水門排水の状況について話を伺った(写真11)。「霊璧調節水門が開き排水が始まり、新汴河は黄色く濁った。川の水面には魚が浮かび上がり、最大で数10kgの魚もあった。多くの農民が集まり、魚を掬い上げた。ある1日では、数100kgもの魚を掬い上げた。川の水は農民の村のトウモロコシ畑を浸水させてしまったため、今年の収穫はない」

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写真 10 霊璧県の工業マップ

 

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写真 11 トウモロコシ農家に話を聞く方応君さん

霊璧県から80km離れたところにある宿州市は、靴や衣服、木材、食品、建築資材、クラウドコンピューティング、バイオ医学薬学などの分野を筆頭に、産業が行われている(写真12)。
宿州市南部の汚水処理場の排水口からは、大量の排水が運糧河に流れている(写真13)。運糧河は最終的に新汴河に接続する。
2018年9月18日、中国環境ニュースは宿州市の汚水処理場について次のように報道した。2018年7月の調査では、宿州市が業務を怠っていることが分かった。汚水処理場は稼働しているものの、排水管が未完成で、管轄地区の生活排水が適切に収集されていなかった。
これは、2018年9月6日、安徽省の環境保護庁発表の、宿州市内の工業用排水や生活排水が未処理のまま新汴河には流れていないという事実と矛盾する。宿州市東南部は開発地区だが、ここの処理されていない汚水はどこに流れていたのだろうか。宿州市の工業団地が水質汚染の原因の1つであるかもしれないという事実が浮き彫りになった。緑色江南は8月末の上流水門の洪水が、下流で産業排水を含んでいたかと尋ねて回っていると、釣り人の多くが浸水していた期間そこは水が濁って臭いを発しており、汚水が含まれていた可能性を示唆した。

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写真12(左) 宿州市の工業マップ

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写真13(右) 宿州の汚水処理場の
排水口

宿州調節水門から北に約50km離れたところで、緑色江南は宿州市と徐州市内の新濉河と黄橋水門の現地調査を行った。黄橋水門の下流側の川の水は、赤黒く濁っており、流れる水は刺激臭を放っていた(写真14)。黄橋水門の貯水域では、水は比較的澄んでおり、独特な臭いはしなかった(写真15)。

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写真 15 黄橋水門の貯水域の様子

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写真 14 黄橋水門の下流側の様子

調査結果
緑色江南は、汚染物質が間接的に新汴河に流れ込んでいることを発見した
緑色江南は、安徽省の新汴河と新濉河の両岸の環境を現地調査した。安徽省の環境保護庁は、「新汴河は、宿州市内の工業排水や生活排水が未処理のまま流れたという事実はない」と発表していたが、緑色江南は汚水が直接新濉河や新汴河に流れたわけではなく、間接的に新濉河と新汴河に流入していたことを確認した。
新汴河の両岸にある汚水処理場からの排水は、新汴河に接続する支流に流れる。支流の水質環境の管理が十分にされておらず、支流では水が濁り、異臭を放ち、水面には異物が漂流する水域が存在した。よって、洪水発生により、これらの汚水が下流部の宿州に流れ込むこととなった。
水質審査のモニタリングデータが不足しており、一般市民の知る権利が保証されていない
緑色江南が、安徽省の新濉河と新汴河の周辺地域における水質のモニタリングデータを検索したところ、霊壁県人民政府と宿州市の環境保護局の水質モニタリングデータ情報が見つかったが、公開されているのは不十分な情報で、完全に開示されているわけではない。これでは一般市民の知る権利を保証することはできない。監督機関の監督が不十分であると言える。

提案
蔚藍地図(アプリ)にて、異臭のする濁った川について報告した
緑色江南は現場で発見した異臭のする濁った川について、蔚藍地図(アプリ)で報告を行った。関連する水利部門が注目してくれることを望む。
連携協議の実施により、養殖漁業家の経済的損失を減らす
泗洪県の臨鎮政府の人民代表大会主席の蔡亜氏は、上流の安徽省は汚水に工業排水は含まれていないと主張しているが、地域の放水調整協力規定によって、最低でも6時間前に下流地域に通知をさせることが急務であると述べた。下流地域が放水(洪水)に適切に備えることができれば、農民の経済的損失を大幅に減らすことができる。
共同防止機能制度が機能不全に陥った時、どこが責任を負うべきか
河川の治水管理責任については、淮河水利委員会が洪水防止を担う主な組織である。中華人民共和国洪水防止法(2016年改正)によれば、淮河流域の洪水防止計画は、国家洪水制御本部によって策定され、国務院が批准する。各地域の洪水防止指揮機構と洪水防止を担う部門や単位は、ともに洪水防止計画を準備する必要がある。
今回の事件では、安徽省上流の放水が、下流地域に速やかに通達されず、流域をまたぐ責任部門は、緊急対応処置を迅速に開始できなかった。地域間で処置計画をまとめなければ、今回のような事件が今後も繰り返されるだろう。
責任の所在を明らかにする法的根拠を作る
今回の放水により、大量の原因不明の汚水が江蘇省の泗洪県臨淮鎮に流れ込み、魚と蟹の養殖漁業家に多大な経済的損失をもたらした。2018年9月19日、環境保護部は、宿州市の汚水処理場が正常に機能していなかったと発表した。大量の産業排水の流れる先が不明確であり、責任を負うのはどこなのか、はっきりさせなければならない。
被災後の補償をする
泗洪県の臨淮鎮政府の人民代表大会主席の蔡亜は最後に緑色江南にこのように伝えた。今年の蟹の品質は非常に良く、養殖漁業家は豊作を期待していた。巨大な損失を抱えることになるなど想像もしていなかった。漁業家への被害は現実として存在しており、泗洪県政府は現在、被災した漁業家の子どもの仕事や生活の安定のために、積極的に措置を講じているところだ。泗洪県政府は、地元の商業銀行と積極的に連携し、養殖漁業家への融資を拡大し、借金返済の延期や利息の減免などを行っている。

結論
今回の洪水汚水事件は、洪沢湖周辺の漁民と生態系に甚大な被害をもたらした。我々は、地域をまたぐ汚水処理における国家の環境政策について、改善すべき点を見出した。したがって、我々は全国の河川流域の関連する責任部門に迅速な法的改善(特に、組織協力のプロセスや責任の明確化)を求め、今後同様の事件が発生しないことを望む。

(4)多様な主体をリンクさせるために

緑色江南は、IPA(公衆環境研究中心)と共同で「蔚藍 生態チェーンシステム」を築き、そのシステムの中で環境保護行政・企業・一般市民・NGOなどの多様な主体をリンクさせ、相互的な信用関係を築き上げることで、環境保護の新たな形態を構築する試みを行っている。
「蔚藍生態チェーンシステム」は、「蔚藍地図」というアプリ(図3)を通して、多様な主体のリンクを実現させる。「蔚藍地図」は、環境ビッグデータプラットフォームを利用し、スマートフォン上で簡単に多様な主体をリンクさせることができる画期的なアプリだ。環境保護行政には、環境情報の非対称性によって発生する環境関連の苦情処理案件が減少し、行政資源の浪費を削減し、行政効率を向上させられるというメリットがある。
また、企業は汚染主体として適時に具体的な説明をすることによって、企業の信用を回復し、社会的なマイナス影響を低減させることができる。一方、一般市民は環境情報・行政の知る権利や参加権を得ることができ、企業―市民間の情報の非対称性によって生じる相互信頼の矛盾を効果的に解消することができる。
現在、アプリのダウンロード数は93万件を突破し、登録している企業は10万社に近い。これは一般市民と企業双方の環境に対する意識が高いことを表していると言えるだろう。このアプリでは、空気・水・土壌の質などの状況をリアルタイムで確認できる。また、登録している企業は積極的に排出情報を公表し、異常値が検出された場合は速やかに発表、説明を行う。

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図 3 蔚藍地図 実際のアプリ画面

(5)あおぞら財団招聘による日本訪問の学び

あおぞら財団の招聘による日本訪問では、一般の人々がいかにして環境行政へ参加しているか、また企業側の情報公開度の高さや、汚染処理方法、環境問題解決のプロセスなど、学ぶべきところが多かったそうだ。帰国後、政府や企業を訪れヒアリングをする際には、日本で得た知識が大変に生きたという。

日本では、1950〜1960年代の高度経済成長期に発生した公害問題の際には、市民が積極的に問題を提起したり、メディアが公害問題を監視する役割を果たしたりするなどして、多方面から目を光らすことによって問題を克服していった歴史がある。この解決のプロセスは、緑色江南が環境問題に取り組む際に大切にしている「多様な主体」の参加と相通じるものがある。

3.感想(インタビュー担当:河村大成)

今回、このような報告書をまとめる貴重な機会をいただき、大変嬉しく思う。方応君さんが、一年の三分の一以上もの日々を野外調査に費やし、しかも広大な中国の土地を一人で走り回っていると知り、頭が下がる思いだ。
広大な面積を持つ中国には、まだまだ管理が十分に行き届いていないところが存在する。今回紹介した報告事例では、汚水処理場に関する実情が暴かれた。オンラインでの管理統制が急速に進む中国だが、汚水処理場のようなインフラ設備もオンラインを駆使した管理体制が築かれていくのだろうか。それにしても、地元住民へのヒアリングや現地調査を一歩一歩地道に行う方応君さんの仕事ぶりには感銘を受ける。
「蔚藍地図」(アプリ)をインストールし、実際に使用してみたが、天気予報から、空気の質、水の質、企業の汚染情報まで一眼でわかりやすく地図上にまとめられており、大変使いやすいものだと感じた。私が調べた限り、日本に「蔚藍地図」のようなアプリは見つからなかったが、健康に影響を及ぼすあらゆる情報を一括で見られるアプリがあっても良いかもしれない。
最後に、環境問題の解決のため、人々の健康のためにご尽力されている緑色江南の方応君さんに深い敬意を表し、私の感想としたい。

呂妍氏 (北京天下渓教育相談センター)の環境レポート
―天下の渓流「人と草原プロジェクト」―

インタビュー担当:大西晴華

1.呂妍氏(北京天下渓教育相談センター)の紹介

2002年から環境保護の仕事に従事し、「人と草原」の長期ボランティアとして10年余り働いた。

<北京天下渓教育相談センター> http://www.xtjc.org/

2.インタビュー内容
(1)はじめに

今回この報告書を作成するにあたってお話を伺ったのは、天下の渓流「人と草原」プロジェクトの責任者である北京天下渓教育相談センターの吕妍さんだ。彼女は2002年から環境保護の仕事に従事し、「人と草原」の長期ボランティアとして10年以上活動してきた。内蒙古を活動の拠点にしてその名の通り草原で環境保護と社会公益のために活動しており、人々の遊牧民の生活への関心と、草原環境の実態への注目を集めることを活動趣旨としている。つまり、彼女たちの草原環境保護の活動は、一貫して現地の遊牧民の権益と生活を守ることと深い関係があるということだ。

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(2)「人と草原」プロジェクトの原点

呂さんが草原の環境保護活動を始めたのは、2003年前後に中国で起こったある砂嵐がきっかけだった。中国の内陸部には砂漠が広がっており、毎年その黄砂が日本にまで飛んでくるのは有名な話だが、しかし当時起こった砂嵐は北京の空を灰色に覆いつくすほどの大規模なものだった。そんな中、呂さんに内蒙古の友人から連絡があり、その砂嵐は内蒙古の砂漠が原因で起こったという情報を入手した。しかし確かに内蒙古の西側には砂漠があるが、位置的にそれが影響を及ぼすとすれば北京ではなく、甘粛省のあたりのはずだった。

その情報が正しくないと考えた呂さんは、自分たちで原因を調べようと思った。内蒙古は中国北の内陸部に位置し、広大な草原地帯が広がる場所だが、近年、急速な人口増加や経済発展に伴って草原が退化し、砂漠化が進んでいる。呂さんはその現状を知り、草原の環境を保護するために活動を始めた。

 

(3)草原退化と遊牧生活の変遷

まず第一に、なぜ草原が退化するのか。それは、やはり人間の経済活動によるところが大きい。50年前の草原環境は、ほとんど原生の状態だった。当時の遊牧民たちは遊牧生活をおくっており、定期的に移動しながら生活していたため草原が維持されていたが、政府による定住政策が始まると、ずっと同じ場所で家畜を放牧するため草が生え変わるのを待たずに食らいつくされてしまい、草原が退化してしまった。

政府が定住政策を唱えたのは、公用地を私用地にし、遊牧民たちに農業を生業にさせようとしたからである。その結果、本来の生業である遊牧は農業と相性が悪いのでやめざるを得ず、生活様式ががらりと変わってしまった。もともと遊牧にも草原管理のためのルールがあったが、定住することでルールがなくなり、草原が退化する原因の一つになった。

また、採鉱も草原退化の大きな原因である。露天掘りが多い草原では、採鉱したくずをまわりに山にして積んでいく。すると重金属や洗鉱するときに使用する薬剤によって草原環境が汚染されてしまう。さらには新しく道路を建設することによって、野生動物が移動するのを邪魔してしまう。このように人間が生活の快適さを求めて近代化を進めると、草原環境に悪影響を及ぼすことになるのだ。

とはいえ、世界中で近代化が進む現代において、人の住む場所を原生状態で維持し続けるというのも難しく、遊牧民たちの生活もこの50年ほどで大きく変わった。50年前、遊牧民たちは貧しい生活をおくっていたが、草原環境の状態が良好だったため、資源や農作物はあった。しかし現在は、草原が退化したことや、近代化が進み生活水準と消費レベルが上がったことにより、生活は豊かになってもより多くの現金が必要になった。今はその現金が不足している状態で、貧しさだけとってみると50年前とたいして変わっていない。

呂さんはそんな遊牧民たちの生活の実態と、草原の生態環境を調べるためにこのプロジェクトに踏み切った。しかし草原保護活動と言っても、呂さんのプロジェクトは10年以上の長い年月を経て様々に変遷してきた。大きく分けて三段階の過程を紹介する

 

(4)第一段階 ~専門家による調査~

第一段階は、先述した通り、北京の砂嵐の原因を解明する目的と、草原環境を保護するという目的のもと、主に科学研究の推進と政策唱道を行った。生態学、政策学、地理学、社会科学、農学など様々な分野の専門家を10人以上組織して、3,4回集団調査で現地へ赴いた。草原がなぜ退化してしまったのか、各分野の専門家がそれぞれの関心に従って問題をさらに深く追求した結果、遊牧民たちの生活や文化に対しても関心が高まった。

呂さんは、この調査によって遊牧文化の価値が正当に評価されて掘り起こされ、遊牧文化を理解する専門家が政策に影響を及ぼすことを期待していた。この活動は約5年間続いたが、残念ながらその結果は理想的なものではなく、砂嵐の原因もはっきりと解明するには至らずに終わった。

 

(5)第二段階 ~書籍による研究成果の発表~

第一段階で行った専門家たちによる現地調査の成果が思ったように得られなかったため、呂さんは第二段階の研究に移行した。第二段階は、呂さんたち自身による遊牧民たちとの交流だった。中国のことわざ「求人不如求己」(人に求むるは己で求むるに如かず)の考え方の下、彼女たちは遊牧民の生活に深く入り、遊牧文化と草原の生態環境の関係を明らかするために努力した。

この頃、呂さんはたくさんの文章を発表し、モンゴル人の伝統である遊牧生活が、草原の脆弱な生態環境を守り育てる意義を明らかにした。以下、書籍による研究過程を紹介する。

 

【呂さんの発表した文章】 *『』内は書籍名、「」は原稿タイトル

2008年 『華夏地理』で、草原の遊牧文化の現状を記した「遊牧民の帰還」を発表。アメリカ国家地理のベストテーマ報道賞受賞

 2011年 『中国科学探検』で、遊牧民とその家畜の情縁を描いた「草原の人と家畜の情縁」、「草原馬の悲しみ」発表

      『華夏地理』で、モンゴル族の文化継承に関する文章「呼麦:モンゴルの声」発表

 2012年 『環境と生活』で、内蒙古の阿拉善にあるトングリ砂漠の工業汚染に関する「天国が汚染された―トングリ砂漠工業汚染」発表

      『中国国家地理』で、内蒙古のフルンボイル市とホーリンゴル市の二つの草原を紹介した文章を発表

      『中外対話』で、「牛乳の難局:パック乳は天然牧場からいったいどのくらい遠くまで行くのか」発表

      『読庫』で、「蒼狼と白鹿の故郷」発表

 2013年 『環境報』で、遊牧文化の保護に関する遊牧民の文章「故郷の人を管理すること」発表

      『中国国家地理』で、新疆モンゴル族の重要な生活地区「バヤンブラク―馬に乗らないと行けない故郷」発表

      雑誌『博物』に特別欄を開設し、モンゴル族の牧畜業の生産方式と伝統文化について紹介

2014年  雑誌『传承に特別欄を開設し、各地の環境と草の根が組織した仕事の成果と成長過程を

報告

     『華夏地理』で、「牛羊肉―生態、生計、食品安全」発表

     『読庫』で、「鶴の四季」発表

     『華夏地理』で、「乾ききった水郷」発表

     『中国国家地理』で、「草原のラクダと人」発表

 

発表されたこれらの文章は、最終的に一冊の本『遊牧の知恵』にまとめられた後、出版され、モンゴル語と漢語の二言語で読むことができる。

 

(6)第三段階 ~コミュニティ活動~

第二段階の調査研究活動が進むにつれ、呂さんはますます多くの遊牧民たちと知り合い、徐々に遊牧民にとって何が必要なのかを理解するようになった。そこで、2014年から彼女たちは第三段階の活動としてコミュニティ活動を始めた。

これらの活動は、第二段階の活動よりも深く遊牧民たちと関わり、さらに自分たちのような外部の人間が遊牧民と交流するのを推進、サポートするような活動へと発展した。

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蒙古族地区の遊牧人とチベット自治区の遊牧民を訪問し、環境保護とコミュニティの発展をテーマに交流

 

・羊油せっけんプロジェクト

コミュニティ活動を始めたきっかけは、あおぞら財団のコーディネートによる日本での交流活動と深い関係があった。2014年に日本との交流活動に参加した呂さんは、藤井絢子さんという人に出会って「菜の花プロジェクト」という活動について教えてもらい、てんぷらの廃油がせっけんの原料として使えることを知った。その後まもなく、彼女は遊牧民が羊の肉を売る際に脂身がたくさん余っていることに気づき、菜の花プロジェクトから啓発を受けて羊の油を原料としたせっけんをつくり始めた。

 

彼女たちは現地で研修の場をたくさん設け、実際に百人以上の遊牧民に羊の油を使ったせっけんの作り方を教えた。一頭の羊の胃の部分からとれる脂でおよそ10個、一頭全体からだとおよそ20個の羊油せっけんを作ることができる。この羊油から作られたせっけんは、1個20元ほどで売られる。

かつては外部に向けて売っていたが、今は外部だけでなく様々な方面に売るようになった。一軒の農家の羊飼育数は、人口密度や地域にもよるが、少ないところではおよそ30頭、多いところではおよそ700~800頭の羊が飼育されている。仮に500頭の羊を飼っているとして、作った石鹸が売れれば単純計算で利益は20万元にもなる。もちろんそれだけの収入があれば内蒙古の遊牧民たちは貧困などに陥らないだろう。

彼女たちのプロジェクトに参加した遊牧民の中には、羊油せっけんの会社を設立した人もいるように、羊油せっけんのプロジェクトに啓発されてこの仕事に従事するモンゴル人の若者もいる。あるモンゴル人の若者が主催する「トングリ生態休暇」という体験プロジェクトでは、羊油せっけん作りを体験することができる。つまり、このプロジェクトはお金になるだけでなく、廃油と産業用洗剤の二つの汚染源を排除することができ、環境保護に貢献できるという一石二鳥のプロジェクトなのである。

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北京のフリーマーケットで羊油せっけんを売っているところ

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遊牧民と中国慈善展覧会に参加し羊油せっけんプロジェクトを紹介

 

・遊牧民の伝統を活かしたコミュニティ扶助

コミュニティ扶助の面でも様々な活動を行っている。まず、遊牧民が草原の純天然羊肉を北京市場で販売するのをサポートすることである。主に北京で、有機食品を扱っている食品取引先を紹介している。スーパーなどの大口の取引先を紹介するのではなく、レストランと契約するなど、個別で取引先を紹介して純天然という高品質を売りにするのである。

また、遊牧民女性の手工芸の発展を手助けもしている。内蒙古の伝統的な生活を活かし、現地の特産である羊の皮や綿を原料にして、かばんや毛織物などを生産し、外向けに売るのである。内蒙古の遊牧民たちは一か所に集住しているというよりは比較的散らばって住んでおり、原材料を大量に買い付けるのが難しいため、それぞれの地域の個性を活かして他にはないような原材料を活かすことを目的に始められた活動なのだが、実際のところ売り上げはそれほど大きくない。それは、内蒙古の歴史的デザインを使用した手工芸品を南方の工場がするように大量生産しないからである。そのような方法で生産したのでは、売る品数は増えるかもしれないが、サプライチェーンに遊牧民や民間の手工芸者たちが参加できず、むしろ彼らの生活を圧迫することになってしまう。

呂さんたちがやっているのは、遊牧民たちの収入を高め、伝統的な工芸技術が受け継がれるようにすることであり、そのために遊牧民たちが作った手工芸品が売れるようにサポートするのである。

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成功している手工芸品の製作所を参観したところ

 

・遊牧民文化の体験キャンプ

さらに、彼女は自分たちのような外部の人間でも草原の環境保護や遊牧民の文化を体験することができるキャンプの開設も始めた。このプロジェクトは、約一週間、現地で遊牧民の生活を実際に体験できるものである。より多くの人に内蒙古の草原、生態環境の現状とその生活様式に触れ、関心を持ってほしいという希望から始められ、主に4つの項目があり、それぞれが大きな役割を持っている。

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自然学習キャンプについて現地の遊牧民と契約書を交わしたところ

まず1つ目は、草原の生態環境の悪化を知ってもらい、観光客たちには深く掘り下げて考え、草原の生態環境に対する偏見を排除してもらい、遊牧民の若者には生態についてもっと関心を持つことを促すことである。実際に草原の天候や気候、土地や草の状態、鳥や野生動物、家畜、さらには人間が環境に及ぼす影響までも触れることで、観光客と遊牧民の若者双方が草原の生態環境と牧畜業の関係性をより深く理解するのを助けることができる。また新たに見つかる環境問題を解決する方法と理念を探し出して踏み切ることができるのだ。

2つ目は、遊牧文化が断裂して失われてしまうのを防ぐことである。実はこの問題は草原の遊牧民たちにとってなかなかに深刻で、ここ数年の調査研究を通じて、呂さんは遊牧文化の断裂が進む主要な要因が草原の退化にあることを知った。遊牧民の生計方法が単一になると、皆が過度に土地における生産物に依存するようになり、遊牧文化の断裂を促す力の一つとなる。断裂した後は、コミュニティ同士の関係が緩く散り散りになり、各家庭が単独で草原の残酷な自然環境と向き合うことになり、生活はさらに厳しくなってしまう。

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自然学習キャンプで参加者に羊毛フェルトの作り方を実演

この問題を防ぐために、遊牧民に対しては自分たちの文化に自信と誇りを持ち、その文化を継承できる場を設け、さらにはその場を利用して利潤を得ることができるような方法を提供した。そして観光客に対しては、遊牧文化を理解し、彼らも一緒になって遊牧文化の継承を助けることができる活動を行った。伝統的な生活様式の点では、例えば勒勒車(モンゴル族が用いる木製の車)、駱駝車(勒勒車を駱駝に引かせたもの)、乗馬、馬具の取り付け、馬ならし、ほろ馬車引越し、相撲、弓矢、羊毛の散髪、牛乳しぼり、伝統衣装の展示や植物鑑賞に至るまで、多様な草原の遊牧生活を体験することができる。これらは全て遊牧民が本来得意とする技能である。また伝統的な手工芸の点では、羊毛フェルトの制作や刺繍、銀細工、大工、鍛冶などが体験でき、さらに非物体的な文化においては、故郷や自然環境、家族や恋人、冠婚葬祭を歌った伝統的な歌を歌ったり、住居、引っ越し、五畜などを展示した展覧館を見て遊牧文化を身近に感じることができる。遊牧文化を紹介した映画「爱在他乡」は草原が与えてくれる心の安らぎや、遊牧民との直接の交流を描くことで異文化理解につながり、文化の壁を打ち破ることができる。

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羊毛フェルトを作り終えて、参加した子どもに見せる呂さん

 

これらの活動は遊牧民の若者が伝統的な労働や日常生活を取り戻すための機会を増やし、伝統的な手工芸品の存在価値をさらに高めるだけでなく、尚且つ新たな発展の機会を与え、また非物体的文化の展示を通して文化の再構築を促進している。このように遊牧民と観光客という、内部と外部両方からサポートすることで伝統文化の喪失が防がれているのだ。

3つ目は、遊牧民の経済面での困難を助けることである。体験キャンプを通して、遊牧民の収入ルートを第一次産業から第二次産業、第三次産業と開拓し、実際に現金収入を増やし、遊牧民の現金以外の収入の価値を引き出そうという試みである。遊牧生活の体験キャンプに参加した観光客から得た収入や市場での収入、手工芸の復興、そして羊油せっけんや草原特産の毛織物などの新たな生産方式の模索、現地の特産を売る市場の開拓など様々なサポートをすることは、収入を増やし遊牧生活をより豊かにするための影の立役者となる。体験キャンプそのものの収入はもちろん、伝統文化の展示プロジェクトに参加した現地の遊牧民には得た収入を直接与えたり、キャンプ内で市場を開いたり、キャンプを通して特産品を宣伝したり、新たな市場を開拓することで遊牧民たちの収入を増やし、経済力の底上げに貢献しているのである。

最後の項目は、遊牧地域社会の団結力の萎縮を防ぐことである。この問題は遊牧文化の断裂と密接に関係しており、文化が断裂するとそれぞれの地域社会のつながりもだんだん緩くなる。それを防止するためには、まず上下関係を明確にしなければならない。というのは、リーダーの威厳を保つと同時に、遊牧民たちのリーダーに対する信仰心を高めなければならないのだ。それだけでなく、次世代の文化継承において重要な役割を担う若者を確保するために、帰郷した若者に活躍の場を与えたり、遊牧民たちの視界を広げたり、貧困に直面した人々が自分たちの力で収入を増やすことも必要である。

そこで呂さんは体験キャンプを利用し、多くの遊牧民に分担して互いに協力させ、複雑で不慣れな新しい仕事を共同でやりきるように推進している。こうすることで遊牧民同士の間に団結力が芽生え、キャンプ以外の他の場でも助け合うようになる。リーダーには過去の成功例を提案してコミュニティをうまくまとめ上げる手助けをしたり、若者には伝統文化維持のために彼らが成長できるような機会を提供し、遊牧民たちには視野を広げるための訓練を通して収入増加の機会を提供している。それぞれの活躍の場を設け、互いに協力させることは、地域社会の萎縮を防ぐのに大きく役立っている。

体験キャンプにおけるこれら4つの活動項目は、これまで同民族間の交流しかなかった草原での生活様式を大きく変えた。彼らの独自の伝統は彼らに現金収入をもたらし、牧畜業の圧力を減らすだけでなく、文化継承の助けにもなっている。呂さんのプロジェクトは遊牧民が自分たちの伝統を守りながら外に向かってそれらを発信するためのツールを提供し、さらに草原の環境保護にも大きく貢献しているのだ。

 

(7)活動の現状と課題

呂さんによる内蒙古の草原環境保護活動は、外から様々な影響を受けて多様に変遷してきた。

10数年にもわたる活動の中で見えてきた一番深刻な懸念はやはり若者からの関心が得られるか、ということである。砂嵐が減ってから草原環境に興味を持つ若者が減ったそうだ。若い世代に引き継げなければ草原環境はさらに悪化するかもしれない。また、今は新型コロナウイルスの影響もあり、活動も制限されてしまっている。昨年は現地での体験キャンプの開催を断念せざるを得なかった。

百聞は一見に如かず、と言うように自分で体験してこそ解決策が見えてくることもあるだろう。今後は若者が関心を持つためにはどうすればいいのかも合わせて対策しなければならない、と彼女は言う。

 

(8)来日の経験から

彼女は何度か来日して日本の環境保護活動家と交流し、その経験から自身の活動に活かせるものを取り込み、様々なアイデアを生み出してきた。活動に直接的な影響を与えてくれたのは、藤井さんの菜の花プロジェクトである。先述の通りこのプロジェクトに啓発されて開発された羊油せっけんは、余った羊の脂も捨てず、環境も保護できるという素晴らしい効果をもたらした。

呂さんは日本での交流活動をこう振り返る。「環境保護NGOの活動を通して自分は変わることができ、問題解決に向かって努力することを学んだ。もちろん第一段階で行ったような分野別の学習も勉強になったが、より理念的な部分で、問題に対する真摯な対応が最も重要であることを学んだ」。

中国の気候や生態環境は多種多様で、それゆえに様々な分野で環境保護のため活動している人々が大勢いる。呂さんもまた、内蒙古という伝統的な場所において次世代へと続く草原環境を維持するために活動している重要な人物である。

 

3.感想(インタビュー担当:大西晴華)

今回の交流を通して、中国の環境の現状をより詳しく理解することができたことは、私にとってとてもいい経験になった。特に呂さんの草原保護プロジェクトは興味深かった。地球規模で砂漠化が進んでいることは知っていたが、その裏に草原退化という別の問題があったことを知れて本当に良かったと思う。

私にとって遊牧地域の生活は、今までどこか謎めいていて遠くに感じており、多民族国家である中国の民族の中でもとても興味深いものだったが、今回直接お話を伺うことでその内情を知ることができ、ますます魅力を感じることができた。また、中国で異民族同士の大々的な交流はないのかと思っていたが、呂さんのように現地に赴いて交流し、さらに生活をサポートするために活動している人々がいることに驚いたし、同時に全く現地にゆかりのなかった人々が伝統を共に守り育てようとしていることをうれしくも感じた。

自分もいつか中国を訪れた時はぜひ遊牧民たちの伝統生活に触れてみたいと思う。そして呂さんの頑張りが若者たちにも届き、次世代へと受け継がれていくことを願う。彼女たちの活動は、今日も草原環境を改善し、遊牧文化を守り育てている。

楊緯和氏(北京書和路上文化メディア株式会社)の環境レポート
―野生動物保護の活動について―

インタビュー担当:吉川ほのか 

1.楊緯和氏  (北京書和路上文化メディア株式会社)の紹介

青少年自然教育課程の研究開発と執行を担当し、青少年の環境保護意識を育成し、正しい生態観と価値観の樹立を助けている。

2.インタビュー内容
(1)はじめに

今回私は楊緯和氏にインタビューを行った。楊緯和氏は野生動物の保護活動に尽力されている方である。

特に中華人民共和国の東北部に位置する吉林省琿春市で、主に野生動物の保護活動を行っている。吉林省琿春市には野生の虎が生息しており、絶滅の危機にある虎の個体数の回復に最も有望な地域である。また吉林省琿春市の南部には湿地が広がっており、そこでは毎年十万羽以上もの渡り鳥が休息地として羽を休める。その中には鴈やオオワシなどの希少な鳥類も含まれている。

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2019 年の来日時に活動報告をする楊さん

このように吉林省琿春市には多彩で貴重な生態系が存在するが、時として野生動物たちはそこに住む住民にとって害をもたらす存在となる。例えば鴈は水田の稲を食べ荒らしてしまい、東北ヒョウは家畜の黄牛などを捕食してしまう。これらの野生動物による被害に対して、人間は鴈やイノシシなどの狩猟を行い、動物と人間の間には軋轢が生じてしまう。

そこで楊緯和氏は動物と人との衝突を緩和するために、野生動物の生態調査や青少年の自然教育などを通して、生物多様性の保護に努めている。

 

(2)中国の野生動物保護政策

中国での野生動物保護の政策としては、1989年に制定された「野生動物保護法」が存在する。この「野生動物保護法」は制定された後、何度か改正されており、直近では2018年に改正が行われた。[1]

しかしSciencePortal Chinaによると、この法律は実質的に野生動物の「経済資源」としての価値を認め、その「利用」についての合理性を認めるものであり、保護については明確な記載がなく、野生動物の違法狩猟や売買を厳しく取り締まることができないとの見方が多いそうだ[2]。実際に政府部門の「林業草原局」では『家畜化および繁殖技術が確立している商業利用のための陸上野生生物リスト』を作成している。このリストには54種類の動物が記載されており、これらの動物は食用、衣類や毛皮用、薬用、実験用、観賞用の五つの商業目的のための利用が認められている。

中国のニュースサイト・新華網によると、新型コロナウイルスの流行に伴い食用動物市場の衛生管理が問題視され始め[3]、2020年2月24日に行われた全国人民代表大会で感染拡大の緊急措置として「野生動物の違法取引の全面的な禁止、野生動物の過剰消費とう悪習の排除、人民大衆の生命・健康・安全の適切な保障」に関する決定が採決され、陸生野生動物の食用及び食用を目的とした捕獲や取引などが禁止された[4]。しかしこの規定は一時的なものであり、食用以外の商業目的での利用は全面禁止されていないため政策としては未だ不十分な点が多数存在する。

そのため中国の自然保護活動家は野生動物の取引の永続的な禁止が必要であると主張しており、また中国の伝統薬や珍味のため利用される野生動物の需要が、絶滅危惧種の国際的な取引を促進しているとも指摘した。ただこの規制が実行されたことによって、徐々に中国社会でも野生動物の食用は「悪習」であるとする見方も広まりつつあるという[5]

 

(3)楊緯和氏の経歴と主な活動内容

楊緯和氏は自然環境に対しての関心は幼少期から持っていたと言う。幼いころから様々なことを学んでいくうちに、最初は植物に対して興味を持った。大学へと進学し修士課程を経ていく中で、植物だけではなく動物についても専門的に学ぶようになった。その後、北京市環友科学技術研究センターの理事長を務められている李力氏のところで、環境保護関係や廃棄物管理関係を専門に仕事に従事した。楊維和氏によると、ここでの経験によって自身の視野を広く持つことができ、また自然保護と環境汚染との関係性について気付きを与えられたと言う。

李力氏の所で廃棄物管理に関する仕事に従事された後、楊緯和氏は中国科学院に五年間勤められた。中国科学院に在籍する間は1年に3~4か月ほど延辺に出向き調査を行っていた。その後、野生動物に関する学問の発展を図るアメリカのNGO『野生動物保護学会(Wildlife Conservation Society)』の中国支部に1年間勤められた。『野生動物保護学会』での主な活動内容は、野生動物や渡り鳥の保護活動であった。

また楊緯和氏は中華人民共和国(以下、中国とする)における行政機関の『林業草原局』とも野生動物の保護活動において協力関係にあった。この『林業草原局』はもともと活動において現地調査が不十分であった。その後、吉林省延辺州琿春で協力して現地調査を行うようになり、同地に十数頭以上の野生の虎がいることが判明した。

虎の発見によってその保護が進められていく中で、現地に1.5万平方キロメートルもの敷地の「東北虎豹国家公園(东北虎豹国家公园)」が設立された。これは『林業草原局』との協力の結果、国家公園の設立によって野生動物保護を実現するためのより良い環境を形作った成功例と言える。

冒頭でも少し紹介した通り、楊緯和氏は主に中国の東北部にある吉林省延辺州を活動場所としている。延辺州は朝鮮民主主義人民共和国・ロシア連邦・中国の三か国の国境が接する地である。延辺州で活動を行うのは秋から冬にかけての4か月ほどであり、事務所は北京にも存在する。東北には後に紹介する「鴈の米(大雁米)」の稲の収穫時期と、渡り鳥が飛来する時期に合わせて滞在する。

 

(4)トラと渡り鳥の保護

国際的にも野生のトラの保護は重要視されている。世界自然保護基金(WWF)によると現在野生のトラは世界全体で合わせても三千から四千頭ほどしか生息していない。またその生息地も、かつては26か国ほどに存在していたが、現在では11か国に減少しており、絶滅の危機に瀕している。野生のトラにとっての脅威は主に3つ―「森林破壊」「密猟」「違法取引」である。

インドネシアのスマトラ島にのみ生息するスマトラトラは、主にパーム油を生産するプランテーションのための農業開発や森林伐採によって生息地である熱帯林を奪われ、トラから作られる製品の違法な取引を行うために違法に捕獲される。また住処を失った野生のトラが人間と遭遇しやすくなったことで家畜や人間を襲うため、人間の手で殺されてしまうことがある。科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ』に掲載された論文によると、2000年から2012年の間にスマトラ島全体のスマトラトラの生息数は16.6%減少した可能性があるという[6]

しかしその保護活動の成果として個体数が回復しつつある地域もある。2019年のBBC Newsの報道によると、インドでは2015年からの4年間で個体数が3割以上増加したと同政府が発表したという[7]。インドには世界中の野生のトラの約7割が生息しているとされている。インドではトラの生息地の調査を行い、トラの狩猟自体を法律で禁じ、また保護区の整備などを行ってきた。またWWFによるとブータン王国でも2015年の政府の発表で同国内に生息するトラの個体数が回復したという[8]。ブータンでもまた政府によって保護区の設立や区域内でのパトロールなど保護活動が積極的に行われた。

トラの保護と同様に渡り鳥の保護活動もまた世界各地で展開されている。世界自然保護基金によると、渡り鳥が生息する湿原や干潟などは「ウェットランド」と称されるが、これらの土地は昔からそれ自体には価値はないと見なされ、農業利用のための埋め立てや開拓などが繰り返し行われてきた。しかし世界的にウェットランドに生息する渡り鳥たちの生態系が脅かされてしまったことから、1960年頃から西ヨーロッパ諸国を中心にウェットランドを保全しようという取り組みが広がっていった。

その成果として最も有名なものが「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」、通称「ラムサール条約」である。第1回会議でこれに賛同した国はわずか18か国であったが、現在は約170もの国々が共に協力してウェットランドの保全に努めている[9]。また毎年5月と10月の第二土曜日は国連総会の補助機関である「国連環境計画(United Nations Environment Programme)」によって「世界渡り鳥の日」[10]に定められている。これは2006年に、「アフリカ・ユーラシア渡り性水鳥の保全に関する協定(Agreement on the Conservation of African-Eurasian Migratory Waterbirds)」の事務局と「移動性野生動物種の保全に関する条約(Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals)」 の協力によって始められた。この「世界渡り鳥の日」は渡り鳥が直面する危機や渡り鳥の生態的重要さに対する意識を国際的に高め、各国の協力のもと、渡り鳥とその生息地の保全に努めるように働きかけるキャンペーンである。また日本はアメリカ・ロシア・オーストラリア・中国とそれぞれ「二国間渡り鳥等保護条約」を締結している[11]。この条約では各国の絶滅のおそれがある鳥類を互いに報告しあい、輸出入の規制をすることなどが示されている。

 

(5)野生動物の生態調査

野生動物の保護活動の基本と言えるのが、生息地での基礎調査である。左の写真は生態調査のための赤外線カメラを木に取り付けている様子である。この赤外線カメラを使用することによって自動撮影が可能になり、現地にどれくらいの虎が生息しているのかを調査することができた。実際に2013年から2015年の間に20頭の東北虎を発見し、それ以外にもツキノワグマ、ヒグマ、マンシュウアカジカ、ジャコウジカ、エゾライチョウなどの希少な野生動物を発見することができた。これらの野生動物に関する基礎データはその後の保護活動をさらに促進するための重要な役割を果たすこととなった。

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下の画像は赤外線カメラに映った虎の母親とその4匹の子どもである。この写真は、中国で初めて虎の親子の生息を撮影したものであった。
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(6)野生動物による被害

これらの生態系が貴重であることは確かだが、時にはその地に住む人々に悪影響を及ぼしてしまうことがある。例えば下の写真(左)は、その地の農家が家畜として飼育する黄牛が、野生の虎によって食い殺されてしまい、それを調査しているという場面である。農家の通報によって『林業草原局』の職員が調査を行っている。その後は職員が行った調査による事実に基づいて補償金が給付されるという運びになる。

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画像は鴈によって稲が食べつくされてしまったというものである。この場合にも虎による被害と同じく、『林業草原局』に報告を行い、補償を受けることができる。

 


(7)『鴈のコメ』の栽培

人間が野生動物による被害に悩まされているのと同時に、野生動物もまたさまざまな脅威にさらされている。その多くは人間の活動によるものである。

具体例としては密猟や生息地の喪失などがある。その解決策の一つとして、楊緯和氏は2014年から自然環境にやさしい『鴈のコメ(大雁米)』の栽培を開始した。この『鴈のコメ』は環境を汚染する農薬や化学肥料などは一切使用しない自然農法で栽培している。

そのため以下の写真ように、田に生えた雑草も手作業で除去している。写真は、日本のメーカーの有機肥料を使用している様子である。

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下の写真は、『鴈のコメ』を収穫している様子である。
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この『鴈のコメ』はブランド化されることによって、比較的高い価格で販売することができ、かつ高価格でありながらも販売ルートを確保することで競争力を確保することができている。なぜなら『鴈のコメ』というブランド名をつけることによって、野生の鴈が食べられるほどに安全でかつ味の保証もあるという好印象につながり、結果的に販売を促進できるからである。
農家はこの『鴈のコメ』を栽培することによって一般的なコメを栽培するよりも、大きな収益を得ることが可能となった。また自然農法で栽培しているために、農薬や化学肥料が土壌を汚染することもなく、渡り鳥などの生態系に害をもたらすこともなくなる。
この『鴈のコメ』の栽培のほかにも、現地の村人の収入を増加させるために、毎年全国各地で青少年ボランティアを組織している。このボランティアは現地で野生動物を観察し、農作業を体験する。

(8)現地住民への聞き取り調査

各コミュニティでの野生の虎と人間との衝突を避けるために、山間地帯の49村、172戸の家庭で対面式のアンケートを行ったこともある。

写真は実際に村民から野生の虎が飼育している牛を捕食してしまう、という話を聞いている場面である。
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次の写真は『野生動物保護学会』で調査を行っていた際のものである。
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現地では家畜の被害が大きい。村民には被害の状況、家畜が捕食されてしまった後補償は受け易いか、問題はあるかなどを聞き取り調査した。その後これらの調査を政府に提言した。

この調査研究に基づいて、楊緯和氏はコミュニティ広報案内を編集した。この案内では実際にどのような種類の野生動物が保護されているのか、どのようにして家畜が捕食されてしまうのを避けることができるか、野生動物による被害にあった際にどのように保証金などを申請すればよいのか、野生の虎に遭遇してしまった時はどう対応すればよいのか、といった内容が伝えられている。

写真は実際の広報案内の表紙である。「トラに出くわしたらどうすれば良いか?」と記載されている。
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(9)違法狩猟の問題解決と青少年教育

楊緯和氏は野生動物を苦しめる違法狩猟の問題の処理にも当たっている。

『鴈のコメ』の販売収益金、寄付金の募集や募金の申請などを通じて百万元以上を集めた。それらの資金によって一組七人で構成された巡視部隊をサポートし、それと同時に数百人のコミュニティの住民を動員して、定期的に反密猟の巡視を行っている。

2014年以来、押収した違法狩猟のための道具は全部で8000程である。また押収される工具の数は年々減少の傾向にある。

違法狩猟を根本から縮小させるために、楊緯和氏は大衆への教育も行っている。

主に画報を発行したり、宣伝講演を行うなどして、現地の住民に対してこれまで野生動物の保護の宣伝を行ってきた。

また全国の青少年に向けて琿春市での「冬休み野外活動自然教育」への参加を呼び掛けている。彼らは自然の景色の中で野生動物の調査方法について学び、違法狩猟の工具を回収する活動をする。それらの活動を通じて、参加者たちは現地の人々や環境に対する理解を深めていく。

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押収した違法狩猟のための道具を手にしている写真

 

下の写真は実際に全国から参加を呼びかけた中学生のツアーを率いている様子である。彼らには野生動物の生息について教育を行った。写真の左側に映る落ち葉がたまったくぼみは野生のトラの足跡である。
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下の写真も全国から集まった小学生と中学生のツアーを率いている様子である。これらのツアーはボランティアが当地の『林業草原局』と協力して組織している。
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下の写真は木に取り付けられた違法狩猟の道具をツアーに参加する子どもたちが押収しているところである。
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下の写真は違法狩猟のための罠によって死亡してしまった動物の処理を行っている様子である。
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ツアーに参加するために都市からやってきた小学生・中学生とその保護者は現地の人々とともに生活をする。共に生活を送ることで、現地の状況に対する理解を深めることができる。

参加した小学生や中学生はこれらのツアーを終えて通常の生活に戻った後も、現地での知識や経験を生

かして野生動物の製品を使用することなく、資源を節約し、積極的に周囲の人に対して次は自らが働きかけることができるように促している。

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下の写真は都市に帰った後、現地での様子を教室で発表している様子である。china27
今後、楊緯和氏は琿春市での青少年自然教育の成功経験をもとに自然教育をさらに多くの生物多様性保護優先地域にも拡大し、『林業草原局』などの当地の政府部門と協力して大衆がより自由に参加できる自然教育地域をつくり、生物多様性の保護のため社会の力をさらに積極的に結集させることを目標としている。

 

 

以下はインタビューで行った質問とその回答である。

 

Q. 過去の来日経験から、自身の活動に活かされていると思ったことは何ですか?

A. 最初日本に来た時には環境汚染問題について勉強していた。現在は公害問題ではなく、自然保護と環境教育について勉強している。中国ではよく学校に出向いて臨時授業などを行っているが、そういった話をするときに学生は公害問題の深刻さなどをよく理解しているように感じる。しかし、彼らの保護者は欧米などの先進国が先に環境汚染の状態を作り出してしまったのではないかと疑問を持つ人も多い。そんな人たちに対して、日本での経験や学びを伝えることで、理解してもらうことができる。

我々も経済を発展させていくと同時に、環境保護にも努める必要がある。先進国の失敗から学ぶことで、後から発展するという有利さを発揮しなければならない。また青少年の自然教育を行う際には、使い捨ての物はできるだけ使わないようにするために、日本の廃棄物分類について話すことがある。廃棄物を減らすことは多くの資源の節約につながると考える。

 

Q. 野生動物の保護に対してこの十年間で社会や人々の反応に変化はありましたか?具体的にどのような変化がありましたか?

A. 科学的な観点からではなく、自分の主観的な感想に過ぎないが、社会が野生動物の価値を認識するようになったと思う。野生動物の価値に関する転換があった。かつては野生動物を食料として見なすことで価値を感じていたが、今では動物を保護することの価値を見出すようになった。実際に野生動物の違法狩猟行為が減少しているというのが見て取れるのが、2013年の時には5000個ほどの違法狩猟につかわれる道具が押収されたが、今は数百ほどに減っているということである。

 

Q. この十年間での活動内容にどのような変化がありましたか?

A. 李力氏のところでは廃棄物に関する活動に変化があった。個人の活動においては、野生動物の保護活動が促進したこと、「社区」(コミュニティ)が発展したこと、現地の住民への野生動物に関する知識を普及させたこと、青少年の自然教育を普及させてきたことなどがこの十年間の変化である。また現在では環境教育を行うようにもなった。現地の組織に対してあらゆる知識を提供することもある。

 

Q. 野生動物の保護活動だけでなく青少年の自然教育にも尽力されていますが、日本の青少年教育をどのように評価しますか?

A. 中国では青少年教育は2013年頃に始まったばかりである。現在行っている中国での青少年教育の活動は日本や台湾、欧米などからどのように行っていけば良いのかを学んできた。具体的には、民間団体のフォーラムを開催してその知識を得るなどしてきた。日本の青少年教育は先進的であり、成功している組織が多いと考える。例えば日本の自然学校などの活動について、自分もこれから学んでいって一緒に活動を行っていきたいと思う。

 

Q. 現地にはほかにも環境関係のNGOはありますか?それらのNGOと一緒に活動を行うことはありますか?

A. 「琿春市野生動植物保護協会」と協力関係にあったことがある。主に彼らとは鴈の調査を協力して行った。私が現地に足を運ぶことができないときには、特に彼らに鴈の生息地における調査などを委託して資金を提供していた。また共に募金活動を行ったこともある。

 

3.感想(インタビュー担当:吉川ほのか)

私は今回、楊緯和氏にインタビューを行ってこれほど中国でも野生動物の保護活動がさかんに行われるようになってきているということを初めて知ることができた。インタビューを行う前は、現在でも中国では野生動物を食料として販売したりするのが日本と比べて一般的であるのではないか、中国の人々は野生動物を食用とすることをすることを当たり前に感じているのではないか、と考えていた。しかし楊緯和氏に質問を行った際に得ることができた回答からも、中国でも野生動物には「食べる価値」を見出すというよりも「保護する価値」についての考え方が社会や人々の間に広がりつつあるということを学んだ。また楊緯和氏が行う青少年の自然教育においては、日本の経験や団体から実際に知識を得て活動を運営しているということを知り、政治的には軋轢が生じることの多い日本と中国ではあるが、野生動物の保護や資源の問題などの環境問題を通じて互いに学びあうことで交流の輪を広げそれぞれの国や文化に関して理解を深めることができるのだと感じた。「東北トラ」の保護や「鴈のコメ」などの活動には今後も注目したい。

 

[1] 「中国の野生動物保護法が一歩前進したがまだまだ不十分」2020年6月25日NPO法人動物実験の廃止を求める会 https://www.java-animal.org/topics/2020/06/25/7187/

[2] 「『野生動物保護法』改正待ったなし」,「中国新聞週間」記者黄考光氏、翻訳及川佳織氏,2020年3月31日SciencePortal China第162号 https://spc.jst.go.jp/hottopics/2004/r2004_huang.html

[3] 「中国の野生生物の売買禁止、ウイルス流行語も永続を」2020年2月4日BBC News JAPAN https://www.bbc.com/japanese/51368052

[4] 「中国、野生動物の違法取引を全面禁止」2020年2月25日新華網日本語版サイト

http://jp.xinhuanet.com/2020-02/25/c_138815045.htm

[5] 「野生動物の食用、全面禁止へ」2020年6月23日人民中国

http://www.peoplechina.com.cn/zlk/falv/202006/t20200623_800211548.html

[6]         「Sumatran tiger survival threatened by deforestation despite increasing densities in parks」5 December 2017, nature communications

https://www.nature.com/articles/s41467-017-01656-4

[7] 「インドのトラ、急速に増加」2019年7月30日BBC News JAPAN

https://www.bbc.com/japanese/49161397

[8] 「個体数の増加を確認!ブータンで進むトラの保護活動」2015年8月18日世界自然保護基金

https://www.wwf.or.jp/activities/achievement/1039.html

[9] ラムサール条約について,2017年7月6日世界自然保護基金

https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3549.html

[10] 「世界渡り鳥の日」2020年版公式サイト(英語版) https://www.worldmigratorybirdday.org/

[11] 二国間渡り鳥等保護条約,環境省 http://www.env.go.jp/nature/kisho/global/migratory.html

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