あおぞら財団

中国の環境活動

china 令和4年度 2023年1月

日中環境問題サロン2022の開催状況はこちら:あおぞら財団ブログ
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根と芽

趙璐氏(成都根与芽環境文化交流センター)の環境レポート
―中国ゴミ分別の取り組みの実践と探索―

レポート編集担当:王子常

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ゼロ廃棄

王少蓉氏(天津市西青区零盟公益発展センター)の環境レポート
―中国におけるプラスチック汚染対策とリサイクル状況について―

レポート編集担当:馬建

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団体HP:https://www.lingfeiqi.org/

ブルーリボン

欧陽志宇氏(ブルーリボン海洋保護三亜学院ボランティアセンター)の環境レポート
—海洋を見守る若者実践—

レポート編集担当:王子常

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団体HP:http://www.ch-blueocean.org/

長江

 

趙新元氏(南通大学緑色方舟環境保護団体)の環境レポート
—中国長江経済ベルトの環境保護と政策—

レポート編集担当:馬建

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団体HP(南通大学公共衛生学院):https://gw.ntu.edu.cn/

 

趙璐氏(成都根与芽環境文化交流センター)の環境レポート
―中国ゴミ分別の取り組みの実践と探索―

レポート編集担当:王子常

1.趙璐氏の紹介

「成都根与芽(ネトメ)」に所属している趙璐氏は中国の環境NGOが如何にゴミ分別作業と関わっているのを発表した。趙璐氏は2012年に成都根与芽環境文化交流センターに入職し、環境保護分野に関わり始めた。2018年から団体の執行主任に着任し、日常生活で生じる一般ゴミの持続可能な管理システムの構築をターゲットにして、複数のプロジェクトを執行した。主なプロジェクトは「子供環境保護劇」、「ゴミ博物館」、「ゴミ管理市民講座」、「菜市場禁プラ」¹⁾ 、「ゼロプラキャンパス」等がある。コミュニティ、学校等での実践を通して、市民の環境意識の向上を図っている。

2.成都根与芽環境文化交流センター

成都根与芽環境文化交流センター(以下「成都根与芽」とする)は2006年3月に立ち上げられた環境保全を目的に活動している非営利組織である。日常生活で発生するゴミに対して、持続可能な処理・管理モデルを構築するために、コミュニティ活動と市民教育を積極的に行っている。また、環境関連政策の策定や啓発活動、ゴミ分別の実践・サポートなどにも力を入れ、エコ文明(生態文明)の実現に向けて活動している。
現在行っている活動は、主に「エココミュニティ建設」、「青少年環境教育」、「市民環境教育」、「調査研究と政策提言」の4種類がある。
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成都根与芽環境文化交流センター

(1)誰もがエコ文明の助力者‐「エココミュニティ建設」
2016年のコミュニティに植物を植える提唱活動から、現在のゴミ減量、資源再利用啓発活動にかけて、成都根与芽は時代の潮流に応じて様々なエココミュニティ活動を行っている。ゲーム感覚で市民に植樹活動を呼びかけ、粗大ゴミを芸術品に、生ゴミを肥料にさせるなどゴミ減量に関するノウハウを市民にシェアするほか、コミュニティボランティア団体の育成、コミュニティで優れたエコ世帯に表彰活動を行うこと通して、市民のエコ活動やエコ意識がより一層強化された。

(2)エコ意識を家庭内教育の中でとして‐「青少年環境教育」
成都根与芽は青少年の環境教育、特に小学校での教育を重視している。学校と協働し、エコレクチャー、家電製品処理場見学、湿地歩き、少年エコ劇プロジェクト等を積極的に行っている。以上のような活動を通して、自然環境を保護する重要性や日常生活で役に立てる豆知識を青少年の身に付けられることを目的としている。さらに青少年を発信元として、保護者や家族にエコ意識や環境保全のノウハウをシェアし、家族でエコ活動や環境保全活動を行うことが期待されている。

(3)知って、やって、達して‐「市民環境教育」
公開講座、ゴミ処理場見学、環境保全レクチャー等の啓発活動を通して、ゴミ分別、ゴミ減量等の知識を市民に知ってもらうことで、環境問題に関心を向け、環境に配慮したより良い行動の実践につなげる。

(4)現状を踏まえる‐「調査研究及び政策提言」
生ゴミの発生・処理現状に対して、多様な調査を通して客観的なデータを集める。データ分析に基づいて生ゴミの管理政策や政策実施の提言を行う。

3.根与芽(Root & Shoots)とは

Roots & Shoots(日本語名称:ルーツアンドシューツ)とは、動物と自然環境、そして私たち人間のコミュニティのよりよい共存をめざして、ジェーングドール(Dame Jane Goodall)博士と同じハートをもって活動しているグループある。
Roots(ルーツ)とは英語で「根っこ」、Shoots (シューツ)とは「新しい芽」という意味である。根っこは土の下に伸びてしっかりとした基礎を作る。新芽は光に向かって進み、やがてレンガの壁もうち破るほどの力を持つようになる。そのような想いを込めて、ジェーン博士が名づけた。
Roots & Shootsの活動は1991年にタンザニアの首都ダル・エス・サラームで芽吹いた。現在は世界30ヶ国以上の国々において学校のクラブ活動や若者たちのグループで活動が行われている。中華圏においては北京、上海、成都、香港、台湾5つの支部がある。日本においては、「環境や野生動物を考える勉強会」、「ムササビ観察会や京都大学霊長類研究所見学会」等の活動が始まっている。

発表内容

4.中国のゴミ分別

日本においては高度経済成長期の家庭ゴミは、焼却の可否の観点から不燃ゴミ、可燃ゴミに分けて収集が行なわれた。1990年代に入ると、リサイクルの重要性やゴミによる環境汚染、最終処分場の減少に伴うゴミ減量化の必要性が認識されるようになり、より細分化された収集が始まった。
それに対して中国のゴミ分別はどのように発展してきたのか。趙璐氏の発表を踏まえて、中国のゴミ分別経緯や現状を紹介する。

(1)問題提起時期と試行錯誤時期
1990年代から、『中国21世紀議事日程』(1992)、『中華人民共和国固形廃棄物汚染環境防治法』(1996)は都市家庭ゴミを逐次に分別収集、分別運搬を提起した。しかし、当時はゴミ分別に対して、あくまでも指導的、提案的な文書に過ぎないので、具体的な規定や法規は打ち出されていなかった。
2000年に、中華人民共和国住宅都市農村建設部は全国を範囲に、北京、上海、広州(こうしゅう)、深圳(しんせん)、杭州(こうしゅう)、南京、厦門(あもい)、桂林(けいりん)8都市をゴミ分別試験的都市に選定した。この段階で、ゴミ最終処理能力、ゴミ運搬能力、社会的環境保全に対する関心度は高くなく、宣伝方法も単一的であるなどの原因によって、当時8都市において良い成果をおさめることができなかった。しかし上記8試験的都市のほかに、数多くの都市も積極的にゴミ分別の試みを行いました。

(2)盛り上がったゴミ分別
2017年3月、『家庭ゴミ分別制度実施計画』の公表を口火に、中国は全面的なゴミ分別段階に入った。この時期に以下のような3つの特徴がある。➀北京市や上海市等46重点都市が選定され、ゴミ分別は強制的に要求され、分別の罰則付き義務化を先行的に実施することとなる。②市民に理解されやすい為、4分類(生ゴミ、有害ゴミ、その他ゴミ、リサイクル資源)システムが作られた。③各重点都市に適切な家庭ゴミ分別に関する条例や法規の制定が要求されている。
トップダウン型の政策が打ち出され、行政、市民、企業いずれにおいても、ゴミ分別への関心度は以前と比べ、著しく高まった。例えば2019年に『上海市生活ゴミ管理条例』が出されたことは、珍しくSNSの話題になり、「ゴミ分別」といったトピックは若者の間でもよく議論されるようになった。この時期において、市民がより明確にゴミ分別できるよう様々な宣伝活動、ゴミ分別をテーマにしたミュージアム、ゴミ分別ポイント引き換え制度があらわれてきた。2020年1月15日に開催された上海市第15期人民代表大会で、上海市民のゴミ分別率は条例実施前の15%から90%に上昇するという凄まじい結果となった。
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ゴミに関する博物館

(3)経済発展状況に左右されたゴミ分別意識
上海市は経済発展の優等生であるため、ゴミ分別等環境保全事業がうまく成功したのもあたり前な事だと良く思われる。それに対して、発展途上地域はゴミ分別の女神に恵まれていない様である。
ゴミ分類収集、運搬、処理、いずれのパートも財政負担は軽いとは言えない。前述したように、ゴミ4分類に応じて4種類の収集・運搬・処理システムの設置が要求されたが、財政が豊かではない地域では、運搬システム、さらに処理システムも混用される状況がある。住民に「一生懸命分別したのに、結局一緒に燃やすのか」とか「ゴミを分別にしても無駄だ」という抵抗的な考え生まれ、逆に市民のゴミ分別意識が低下した。(筆者が2019年フィールド調査に行った江蘇省農村部で、分別されたゴミが混ぜて運ばれたことを目撃したこともある。それに関して多くの住民から苦情を聞いた。)
その状況を踏まえ、ゴミ分別に対する住民の熱意を下げないために、需要に対応できるインフラ建設が必要とされ、2021年3月に公表された中国の第14次5ヵ年計画で、家庭ゴミ分別や処理施設建設の強化が提起された。

5.取り組みとその影響について

このような背景において、成都根与芽が積極的に地域住民と連携、サポートすることにより、いくつか成功したゴミ分別プロジェクトが生まれた。中国における成都根与芽のような草の根団体はいつも資金調達問題や土地利用許可問題に制限さを受けているが、それを打破するためには、地域の主体性を培うことが重要であると趙璐氏が語った。

(1)生ゴミを有機肥料に
中国には、出された料理を少し残すという昔からの飲食マナーがある。食品ロスの観点から「料理を食べきる運動」が最近流行したが、残飯などの生ゴミの量は一般ゴミの半分以上というのが現状である。このような大量な生ゴミを処理するために、成都根与芽は好気性発酵方法を用いて堆肥作り取り組みを試行していた。
2017年、成都市の都市部にあるモデルコミュニティ「王家塘(ワンジャタン)」に生ゴミの専用箱が設置された。そこに正確に分類された生ゴミが投入され、そしてコミュニティにある堆肥センターで好気性堆肥がつくられる。産出された有機肥料が農家や農業組合に販売され、利益をコミュニティ住民に還元することにより、ゴミ分別への熱意が高まった。その後、「王家塘」住民のゴミ分別率が90%を上回り、現在までも90%以上の高水準に維持されている。
「王家塘」での成功モデルを農村部コミュニティ「九龍町」にも実施できた。都市部のコミュニティと比べ、農村部における葉っぱや木の枝などの植物のゴミが多く、使用可能な土地も多いので、前述の取り組みを踏まえて、分散型堆肥方法²⁾が使われた。
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生ゴミ専用箱

堆肥作りは生ゴミの処理コストを低くおさえられ、住民にゴミ分別の有効性を理解させることもできる。そのことでゴミの分別行動を維持し続けることができる。もちろん、この方法にも一定の制限があり、例えば高層マンションコミュニティなど、人口密度が高く、公共空間が狭い場合は、うまく実施することができない。

(2)粗大ゴミをアートに
高層マンションコミュニティでは、一戸建てより空間が狭いので、いらない粗大ゴミは捨てるしかない。粗大ゴミをどうにかできないかということで、2013年から成都根与芽が高層マンションコミュニティ「東方逸景」へのサポートを開始した。第一歩として、コミュニティ自らの環境保護ボランティアチームを立ち上げた。家具や建設廃棄物など、地域で発生する粗大ゴミを地域のコミュニティガーデンの飾りに変えることを主な目的としている。写真で示したフェンスは、捨てられた家具から作られた。このような作品が欲しい地域に販売することもあり、これによってボランティアチームの運営資金に賄っている。長年にもわたって、彼らは約70トンの粗大ゴミと建設廃棄物を処理した。
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高層マンション「東方逸景」のフェンス(粗大ゴミ由来)

(3)環境教育「ゼロ廃棄キャンパス」
地域だけではなく、社会団体も学校に参入してゴミの分別作業を行っており、ゴミ分別カリキュラムを新設、学校での環境保護教育活動を実施するとともに、学校と協力してゼロ廃棄キャンパス構築活動を行っている。四川省の農村部にある学校では、成都根与芽が実施したゼロ廃棄キャンパス構築活動を行った。各クラスは回収可能物を指定されたリサイクルバスケットに入れ、満タンになるとクラスの当番の生徒はそれを学校のバスケットに入れてくれる。環境教育のため設置された「環境保全銀行」には交代制で生徒が当番し、重量を計って、地元のリサイクル担当者へ販売し、活動資金としてクラスに還元される。
学校は、資源ゴミリサイクルのほか、食品ロスを削減する作業も非常に重要視している。毎日昼食後、各クラスの残飯が収集・計量され、毎月のデータをクラスランキングの形で公開する。雑用部門は残飯の状況を参照し、レシピの改善作業に努めている。

6.感想 (レポート編集担当:王子常)

今回のレポートは、趙璐氏が報告会で語った一つの言葉をピリオドとしたい。「環境保護は、すべての条件が整ってからやるのではもう遅いのだ」である。日本にせよ中国にせよ、行政と市民の間には、簡単に連絡が取れないほど距離が存在している。すべての責任を行政に任せると、日本であれば四大公害をはじめとする公害問題、中国であればPM2.5大気汚染をはじめとする公害問題が相次いで噴出する。公害、環境問題を再び発生させないために、市民が自分たちで手を組んで、環境保護活動の主体性を発揮しないといけない。それが行政を後押しし、地域に相応しい政策が形成される。
確かに経済発展の不均衡などにより、各地のゴミ対策ではバラツキが見られる。そして中国では今の段階ではリサイクルとリユースに集中し、企業の生産活動からゴミを減量するというリデュースの視点にはあまりフォーカスしていないようである。どうすればゴミの元栓を閉められるのかはこれからも日中共通の課題である。
市民の環境意識向上のために奔走している趙璐氏と成都根与芽にとても感心し、環境保護活動を行っている世の中の人々にも厚く御礼申し上げる。

[注]
1)「菜市場禁プラ」:食材市場でプラスチック製レジ袋提供禁止を指している。
2)「分散型堆肥」:堆肥場所が住宅に近い所に設置され、運搬費用なし、堆肥効果が観測されやすいというメリットがある。

王少蓉氏(天津市西青区零盟公益発展センター)の環境レポート
―中国におけるプラスチック汚染対策とリサイクル状況について―

レポート編集担当:馬建

1.王少蓉氏の紹介

王少蓉氏は2019年5月から天津市西青区零盟公益発展センターに参加し、2022年からプラスチック問題プロジェクトの担当者になっている。主な仕事内容はプラスチック問題プロジェクトの年間目標の設定、資金調達、プロジェクトの執行と管理などである。出資者・パートナーなどとコーディネートしながら、一部のプロジェクトの計画書、予算書、報告書などを編集し、零盟のSNSアカウントの運営管理も行っている。
今までは、2019年の「99公益日-限塑令¹⁾」プロジェクト、2020年の海南省使い捨てプラスチック禁止実験に関する評価プロジェクト、2021年の海南省プラスチック禁止に関する評価審査プロジェクト、「無塑山河²⁾」プロジェクトに参加・担当した。

2.天津市西青区零盟公益発展センターについて

天津市西青区零盟公益発展センター(以下、零盟)は2020年4月に天津西青区民政局で正式に登記された環境保護団体であり、主にゴミの分別・減量及びプラスチックの削減に注目し、ゴミ問題に注目するネットプラットフォーム―「ゼロウェイスト公益連盟」(China Zero Waste Alliance)を運営している。「ゼロウェイスト公益連盟」の前身は「ゼロウェイスト連盟」で、2022年に新戦略が出されてから正式に改名したが、略称は依然として「零盟」である。零盟は2011年に設立され、主にゴミ問題に関心がある一部の組織と個人から発足した非営利的な活動とプロジェクトの協力プラットフォームである。政府、企業、学術機構、公衆および社会組織など社会全体のゴミ管理過程におけるコミュニケーションと協力を促進し、中国のゴミ管理、循環経済と低炭素経済の発展を推進することに寄与している。
この10年間、零盟は「ゼロウェイストフォーラム」(中国語:「零廃棄論壇」)を9回開催し、135件の基調講演を実施し、中央レベルと地方レベルで累計60余りの政策提案を提出した。2017年、零盟はプラスチック問題に取り組み、100余りの環境保護団体と協力し始め、プラスチック汚染を解決するために共同で一連の活動を展開してきた。2021年、零盟が引率した129の団体が全国685のコミュニティにおいてゼロウェイストイベントを開催し、39,853人が参加し、99,903kgのゴミ減量効果が実現された。一方、11件の国レベルの廃棄物政策提案書を作成し、そのうち、6件を提出した。さらに、8件のレポートを作成し、それぞれを国家商務部、国家発展改革委員会、海南省生態環境庁に提出した³⁾。
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3.発表内容

今回の交流会では、王少蓉氏が中国のプラスチック汚染対策を取り上げ、対策の成果と課題、中国廃プラスチック(以下、廃プラ)の回収およびリサイクルの現状、プラスチック汚染対策におけるNGO団体の活動と役割について紹介した。

(1)プラスチック汚染対策の成果と課題
王氏によると、中国のプラスチック汚染対策は1990年代から始まり、30年前後の発展を経て、最初の局部的な管理から、現在の生産、加工、販売、使用、回収、リサイクルの全フローかつ全産業チェーンをカバーした全面的な管理までできている。中国のプラスチック汚染対策は以下の4段階に分けられ、各段階の各々の成果と課題が挙げられた。
第一段階は、主に特定のプラスチック製品への禁止・制限に行政が着目した。この段階は1986年に鉄道で初めて使い捨て発泡食器が使用されてから、2007年中華人民共和国国務院が「限塑令」を出すまでである。この段階はいくつかのプラスチック製品(厚さが0.025mm未満のレジ袋など)を禁止対象としていた。この段階の成果として、初めてプラスチックレジ袋の使用を制限することと、「白色汚染⁴⁾」の削減である。この段階の問題は、特定のプラスチック製品の禁止にとどまり、監督管理の範囲は有限的で、監督管理のシステムも不健全であった。
第二段階は、2008年から2017年にかけて、廃プラの回収・リサイクルを促進した。この段階ので重要な出来事は、2008年に『中華人民共和国循環経済促進法』が公布されたことである。循環経済の理念に基づいて、廃プラ回収産業の育成を推進するための国家政策および関連する財政優遇などを実施した。このような背景の下、「循環経済」の理念は広く受け入れられ、廃プラのリサイクル産業の発展が促進された。この段階の問題は、前述した行政監督管理システムが依然として不健全であり、市場の中にも関連する業界の作業基準が欠落し、回収後の選別がなく、小さい工場が多く存在し、廃プラの輸入量が大きいにもかかわらず、供給が不安定である。
第三段階は、2017年から2019年にかけて、市場の行動を規範化にした。代表的な出来事件は、廃プラの輸入禁止措置と関連政策の打ち出し、廃プラリサイクル業界から発生した汚染防止の強化である。市場の秩序を規範化にするために、業界の行動規範と関連基準(技術、環境汚染物質排出など)を定めた。この段階の問題は、国内の廃プラの供給が安定性に欠け、リサイクル企業の運営が困難で、業界全体として環境汚染問題が厳しく、対策の道が明確でない。
第四段階は、2020年から現在まで、全産業チェーンへのシステム的な管理を試みている。この段階の大きな出来事は、国家が「ゼロウェイスト都市」の建設と生活ゴミの分別を推進していることである。とりわけ、2020年1月に国家発展改革委員会と生態環境部が共同で公布した『プラスチック汚染対策の一層強化に関する意見』(以下、『意見』)である。『意見』の公布に伴い、プラスチック管理に関する政策が集中的に発表され、政策設計が次第に健全化し、政策目標も段々と明確かつ厳格になった。この段階では、秩序性、系統性、協同性がある新時期のプラスチック汚染対策モデルが提起され、全産業チェーンへの管理システムの形成を推進した。一方、廃プラリサイクル業界も新しい挑戦とチャンスに直面していると考えられる。
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王氏は、中国のプラスチック汚染対策の成果と課題を以下のようにまとめた。
成果:①一部「薄い」プラスチック製品の禁止・制限によって、国民の日常生活に支障を与えることなく、消費者行動の転換につながった。②対策がプラスチックの全フローをカバーし、循環経済の理念とプラスチック製品のライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assessment:LCA)をプラスチック禁止・制限政策の中にて反映させた。③政策手法として、規制的手法と経済的手法をメイン手法とし、宣伝教育などの支援的手法を補佐手法とした。④関連政策が改革されつつ、技術の転換および公衆参加と情報公開も推進させた。
課題:①廃プラの円滑な処分を重視している管理政策は、循環経済の理念との相違が生じ、政策目標が不明確であること、②拡大生産者責任(Extended Producer Responsibility:EPR)、デポジット制度、強制回収などは政策文書にとどまり、有効に実施されていないこと、③生産段階から回収、リサイクル段階への配慮が足りず、全産業チェーン上下流の連携が必要であること。

(2)中国廃プラスチックの回収およびリサイクル現状
中国の廃プラは主に三つのリサイクルルートがある。①市民から自発的に資源収集業者に売る、②業者からコミュニティと契約を結んで収集する(都市部に集中)、③行政と企業が連携して収集する(中国語:「両網融合」)。中国物資再生協会再生プラスチック分会の報告書『中国再生プラスチック業界発展報告2021―2022』(以下、『報告』)によれば、2021年中国廃プラ発生量は約6,200万トン、そのうち、埋立量は約1,540万トン・25%、焼却量は約2,760万トン・44%、リサイクル量は約1,900万トン・31%を占めている。全体のリサイクル量は2020年より19%増加し、リサイクル生産額は約1,050億元であった。リサイクルされた製品の中、電気家電製品は一番多く28%、次は包装類23%、三番目はペットボトル21%である。『報告』によると、2017年中国の廃プラ輸入量は583万トン。2017年末の廃プラの輸入禁止措置の影響を受け、2018年輸入量は5.19万トンに激減し、2019年ほぼゼロで、2020年から輸入量はゼロになっている。一方、再生プラスチックペレットは年間360万トンほど輸入している。
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王氏は、中国廃プラリサイクル業界の今までの発展過程を見ると、どのように環境保全と業界自身の発展を両立するかについて、「白色汚染」、「ゴミ囲城⁵⁾」などのプラスチック汚染問題を解決するためには、リサイクル業界のグリーン型への転換が必要であることを述べた。

(3)プラスチック汚染対策におけるNGO団体の活動と役割
王氏によると、世界中でプラスチック汚染対策に取り組んでいるNGOを以下の3種類に分類できる。①特別な基金会を設立して、政府間の協力に支援している国際組織、例えばUNEPなど、②市民行動のレベルだけで活動を展開している団体、例えば中国の民間団体など、③以前から自然・環境・生態系などの大きなテーマに関心があり、資金面の余裕もある団体、例えばWWF、エレン・マッカーサー財団などである。
中国のプラスチック汚染対策におけるNGO団体の活動について、以下の通り紹介された。
・「零盟」:中央政府にプラスチック禁止・制限政策に対して提案を行い、地方政府にプラスチック禁止・制限政策の打ち出しを提唱し、プラ減量モデルを探索している。
・「摆脱塑缚」:長期的にネット通販業、デリバリー業の使い捨てプラスチック問題に注目し、それらの減量に努力している。
・「愛芬環保」:ゴミ分別を中心に活動し、上海2021年のプラスチックレジ袋提供禁止政策に対する調査研究・評価を実施し、プラスチックがないまちづくりを推進している。
・「中華環境保護連合会」:生態環境部の付属組織であり、プラスチックに関心があるNGO団体に資金面の支援を行っている。
・「南京緑石」:以前は石油化学業界であり、プラスチックの原材料に関する研究に注目していたが、今は零盟と協力して惣菜加工品のプラ減量モデルを模索している。
・「深圳市零廃棄環保公益事業発展中心」:プラスチック汚染対策に注目し、日常生活中の毒性を持つプラスチックに対する研究を行い、国際条約の締結にも関心がある。

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NGO団体がプラスチック汚染対策に果たすべき役割について、以下の二つが挙げられた。①国際的な協力を推進し、国際条約の交渉における参加者、貢献者と引率者としてのアクターと役割を発揮し、プラスチック汚染対策の関連措置の制定を支持すること、②共同ビジョンの下、政府、企業、学術機関、公衆及び社会組織など社会全体がプラスチック汚染の管理過程におけるコミュニケーションと協力を推進し、自国の国情に合致する目標と策略・措置の展開を推進すること。

4.感想(レポート編集担当:馬建)

環境問題の解決にあたって、行政が主導権を握り、一部の企業(加害者)と被害者と利権調整をしながら、「最善策」を打ち出すのが今までの主たるパターンと考えられる。しかし、ゴミ問題の加害者はほぼ企業全体だけでなく、本来被害者である市民達も加害者になる。そして、問題を解決するために、社会全体が共に動かさないといけない特徴がある。このような「上下一心」の動きをおこすためには、「上意下達」だけでなく、「下意上達」も重要である。したがって、NGO団体の役割は言うまでも無い。「零盟」のようなNGO団体が自らの調査を実施し、政策提案書を作成し、政府に提出するのが中国の廃棄物行政の「上意下達」・「下意上達」を実現できる効果的なルートの一つと考えられる。
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一方、中国は2019年から本格的にゴミ分別を実施し、積極的に廃プラのリサイクルシステムを構築し、リサイクル率を向上させようとしている。新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に停滞していたが、今(2023年2月)感染症が日常化になりつつ、感染対策も緩和され、ゴミ分別の再開と更なる普及も期待できる。どのように市民にゴミに関する正しい知識、分別の意義、複雑な分別方法を教えるのか、今からの検討が急がれる。そこでは、NGO団体の今までの市民への環境教育・啓発の経験を活用できる。今こそ、中国の参加型廃棄物行政を構築する絶好の機会であると考えられる。

(写真は全部王氏の発表資料より引用)

[注]
1)「限塑令」:プラスチック(中国語:塑料)袋の生産・販売・使用の制限に関する通達。
2)「無塑山河」:プラスチックがない国。
3)『零廃棄連盟二〇二一年度総結』より(https://www.lingfeiqi.org/sites/default/files/datadoc/ling_fei_qi_lian_meng_er_0er_yi_nian_du_zong_jie_-dan_ye_dian_zi_yue_lan_ban_.pdf)(2023年2月20日最終閲覧)。
4)「白色汚染」:廃棄されたビニール包装などによる起こった汚染問題。
5)「ゴミ囲城」:ゴミが都市を包囲する。

欧陽志宇氏(ブルーリボン海洋保護三亜学院ボランティアセンター)の環境レポート
—海洋を見守る若者実践—

レポート編集担当:王子常

1.欧陽氏の紹介

今回の交流会で「海洋を見守る若者実践」を発表して頂いた欧陽志宇氏は、中国最南端の省である海南省の最南端にある三亜市の三亜学院法学部の4回生であり、ブルーリボン海洋保護三亜学院ボランティアセンター(以下、「ブルーリボンサークル」と略す)の十代目会長でもある。
海に囲まれている海南島は優れた観光資源を有している。内陸部から就学に来た欧陽氏にとって、砂浜に座り込んで、海を眺めながら、海風に撫でられるのは一番愉快な時間である。しかし、水面に跳躍しているのは、波のほかに海洋ゴミがある。海風に運ばれてきたのは癒しだけではなく、汚いの吸い殻もあった。このような景色を見た欧陽氏の心に、さりげなく「海を守りたい」を名とする種が蒔かれていた。

2.欧陽氏が環境保全の活動を始めたきっかけ

中国の環境問題はもはや2000年代から注目されるようになった。2010年頃から、多くの地域では数十メートル先が見えないほど深刻な大気汚染問題が顕在化した。筆者は当時中学校に通っていた。学校では健康上の考慮により室外活動・スポーツが制限されたことも体験した。しかし、子供は他の世界を見ておらず、比較することが出来ないので、自分が大気汚染という異常に囲まれていることさえ気付かず、ただ平気で「あっ、ぼんやりで先が見えないんだ」と思っただけであった。これはおそらく環境問題に対する中国の少年像だった。
中学高校では勉強と遊ぶしか考えない充実な生活を送り、やっと大学に入った。「視野が一気に広がった」と言えるのは、大学のキャンパスは義務教育のキャンパスより広いかもしれないが、様々なサークルがあるからだ。
欧陽氏は「大学近所出身なの?なぜそこまで海洋保全に興味を持っているの?」と聞かれたことがある。実際、欧陽氏は「中国のハワイ」と呼ばれる海南島(省)から1400km離れた内陸都市出身、「環境保全」という言葉も「聞いたことがある」程度だったが、大学に入ってブルーリボンサークルと出会ってから、海南島の最南端、三亜市で海洋保護実践者になった。
「本サークルではおおよそ三分の二が海南島地元出身ではないんだ」と欧陽氏が語った。「大学に入る前は、みんな教科書以外の知識ほぼ知らなかった。僕も、サークルの仲間達も、サークルの影響を受けて、海洋汚染問題の深刻さを知り、自分が何かをやらなきゃいけないという考えを持つようになった。」という素朴な感情で、彼と海洋保護ボランティア活動の物語が始まった。

発表内容

3.ブルーリボン海洋保護三亜学院ボランティアセンター

ブルーリボン海洋保護三亜学院ボランティアセンターは、三亜学院大学の在籍大学生が2009年11月14日に立ち上げた海洋保護公益団体であり、三亜市ブルーリボン海洋保護協会(以下、「協会」と略す)に属する。設立されたから現在に至る13年間に、サークルに所属するボランティア7722人が780回以上の海洋保護活動を行い、ボランティア活動時間は計77882.5時間にも達した。
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ブルーリボンサークルの母なる団体ブルーリボン海洋保護協会(BlueRibbon Ocean Conservation Association)は、2007年に正式登録され、海洋保護の趣旨とし、海洋生態系保護について取り組んでいる中国のNGO団体である。現在は海洋生態系資源保護、海洋汚染観測及び浄化、海洋知識教育、中国民間海洋保護ネットワーク作りと4つのテーマで活動している。
ブルーリボンサークルは週ごとに開催する常設ボランティア活動を7つ設けている。活動内容によると「宣伝教育」、「調査」、「浄化」3種類のプログラムがある。
「宣伝教育」類プログラムは三亜市内の幼稚園、小学校及び中学校と連携し、子ども向け海洋保護や生態系レクチャーを開催している。
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「調査」類は海南省に広く分布しているマングローブ林に生息している動植物を観察記録し、市民や観光客を自ら観察させることを通して、関連知識を普及する作業を行うプログラムである。また、三亜市内の高齢者を調査対象とし、身の周りの環境の変化に対する認識や個人経歴をヒアリングして、三亜市ならではの文脈や、一般人の視点から都市や時代の変遷をまとめ、この都市に役立つ文化財産を産もうとするプログラムでもある。
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「浄化」類は、文字通り三亜市の湾岸や砂浜にある汚染物を整理整頓・掃除浄化を行うプログラムである。廃棄漁船や漁網など大型廃棄物については残念ながら、行政や協会の力に頼らず、サークルが自力で清掃することはできない。しかし、ビーチに残った観光客のビン、カンや吸い殻くらいは積極的に掃除し、付近の市民や観光客にも声掛け、一緒に清掃活動に参加しようと呼び込んでいる。
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ただ大学のサークルであることを考えると、かなり広範囲かつ成熟的な活動が行われていて、経験を積んでいる社会団体とも比肩できるじゃないかとの声もあるが、欧陽氏は「僕たちが行っている活動は、影響が大きいと見えるが、実際に社会に対して、どこまで効いたのか?」と自問した。「砂浜掃除プログラムを例とすれば、確かにこれは常設プログラムなので、週一回は行うが、毎週砂浜で産出したゴミ量と比べると、ほんの少しの清掃しかできていなかった。社会影響を考えると、環境浄化より宣伝啓発機能の方が効いていると思う。」欧陽氏は、設立13年でも経ったサークルがただ宣伝啓発機能を発揮しただけでは不十分で、どうすれば具体的な環境課題も解決できるのかを考えている。もちろん、これもブルーリボンサークルないしは中国中小規模環境NGOが直面している課題だと思われる。

4.サークルが大学生に与えた影響

前述のように、サークルは大学生に対してかなりの影響を与えていることが分かった。中国においては、大学入学前、学生は大学のセンター試験を第一目標として勉強に没頭しているので、環境保護や公益活動等の言葉が学生の主流の視野に入ることは困難である。しかし、大学に入ってからは、視野が一気に広がり、特にサークル分野。大学生の公益団体は、大学生の新たな地平を切り開き、さりげなく人生の種を蒔くことができる。ブルーリボンサークルには過去 10 年間で、多くの先輩が環境保護という道についた。「ブルーリボン海洋保護協会」など環境保護NGOに入職した。しかし、この比率はサークル在籍ボランティアの数と比較すると十分ではないと欧陽氏が語った。今後のブルーリボンサークルに何らかのトレーニングメカニズムを形成できることを期待している。4年のボランティア活動を通して、将来この道につきたいと、 経験や能力があるからこの重要な仕事を引き受けると思ってくれれば、幸いだと欧陽氏が微笑みながら語った。
一方、マクロ的な視点から、大学生に対してサークルもかけがえのない役割を果たしている。中国の経済発展は、急速な発展から質の高い発展への新たな段階に入った。「質の高い」とは、資源に優しく、環境に優しい社会を構築する必要があり、持続的な成長が求められている。民間団体である NGOはその潮に乗って、ますます強くなり、数多くの公益者や環境保護活動家が出てきている。しかし、中国の規模に比べて、社会にある環境公益団体や団体に所属している人数はまだまだ足りていない。その現状に踏まえて、大学の環境保護公益団体は重要な出発点になり得る。4年間の実践を通して、地域にある環境問題や社会問題を知るうえで、レクチャーやトレーニングで学んだ知識やノウハウも活用できる。卒業してから、環境に力をささげる人材になることが期待されている。

5.ブルーリボンサークルのユニークさ

(1)地元問題に注目、地道に努力
大学ではサークルが多く、競争率が高く、三亜学院での公益サークルだけでも20を超える。量が多いからといって質が高いわけではなく、全国の主要大学を見てみると、特に公益団体は、その地域の特徴をいかしていないと欧陽氏が語った。ブルーリボンサークルが社会に認められる理由の一つといえば、地元―三亜市の海洋汚染問題といった明白な目標があるからだ。設立当初から、サークルのテーマが海洋保護であることを明確にしていた。これは三亜、さらには海南の地元の文化と地域の自然生態環境問題を十分に調査したことで出された結果である。その上で、三亜を中心に、湾岸からマングローブまで、大学キャンパスから幼稚園、小中学校まで、子供からお年寄りまで、活動の幅が広がっているが、取り巻いているテーマは変わっていない。正しいことなら、継続的な実施が非常に重要である。サークル成立から13年間、先任者の努力により、前述した科学的かつ高品質のプロジェクト、運営システム、ボランティア管理システム、年次計画制度等が柱として作られた。これらがあるからこそ、サークルが着実に歩みを進めることができ、徐々に海南、さらには全国で一定の影響力を持つキャンパスの公益ブランドになった。

(2)「家文化」によって団結力
中国大学のサールクは新しい血液が入れ替わる速度が速い、活動の到達点が明白にされていないと、徐々に「友達の会」に転換される可能性があり、公益団体のあるべき姿ではなくなってしまう。サークルは、誰もが帰属意識と達成感を持ち、自らの「家文化」を形成できるように、ボランティアのための「家」を作成する必要がある。サークルを自分の家と見なすと、親しい友人と一緒にボランティア活動に参加したいと思うようになり、活動はボランティア同士の重要なコミュニケーションの場所になっている。一方、大学の4年間はあっという間で、家のようなサークルはボランティア同士を仲良くさせるので、大学での4年間のボランティア時間は、心に深く刻まれることになる。

(3)持続可能な発展の出口は、社会とつながる
私たちサークルの多くの活動は影響が大きいように見えるが、実際の社会に対する実効性はボトルネックに陥っている。
例えば、砂浜の掃除をするときは、週に1回しか行かないので、毎週砂浜に出るゴミの量に比べれば、ごく限られた回収しかできていない。むしろ市民や観光客への教育、あるいは概念の発信といった宣伝効果が高いようである。10年以上も開発を続けてきたプロジェクトに対して、宣伝効果だけではなく、結果を生み出せるような仕組みをどう設計できるかが問題解決の糸口になる。資源、能力、またその他の条件の制限により、さまざまな活動における宣伝と教育の有効性が主に機能しており、特定の社会課題の解決にはまだ困難がある。このため、大学サークルの実態と長所を明らかにするうえで、社会課題に向き合い、社会経験が豊富な団体と連携し、お互いに学び合いながら、より良い発展の方向性を模索しなければ長く続くことができない。こうすれば社会的ニーズを満たし、社会問題の解決に焦点を当てることができる標準化されたプロジェクトが作成できる。このモデルは、ブルーリボンサークルないしは大学サークル団体の将来の道ではないか、欧陽氏の瞳から光が輝いているようであった。

6.感想(レポート編集担当:王子常)

国土が広く、人口も多い中国においては、環境問題の解決には協働が欠かせない。そのため、「動き」の前提である「意識」の培いや向上がとても重要であると、欧陽氏が語っていた。市民、行政、企業を結ぶつなぎ役として活躍している数多くの中国環境NGOにとっても、環境問題の解決はメイン事業として扱われている。しかし、市民の環境意識の啓発活動以外に、具体的に環境課題を解決できる専業NGOはまだ十分ではない。目下、経済が「高速の発展」を「高質の発展」に転換しようとする中国においては、資源や環境にやさしい社会の構築が求められている。環境NGOもブームに乗って、従来より活躍できることが期待されるであろう。
しかしながら、中国におけるNGOはまだまだ発展途上にあり、環境系NGOはまだ新生児のような姿である。行政団体や企業団体と比べ、資金、活動場所さらに活動内容までも上級団体に制限される可能が高い。大学サークル団体は、また自らの長所と短所があり、如何に長所を生かし短所を補うのかは、持続可能な発展につながる課題となった。
環境問題に没頭している欧陽氏とブルーリボンサークルのメンバーの姿を見ると、彼ら、彼女らにあふれている情熱に感心した。環境をよりよくすることを目的としているこの若者たちに、期待する。

趙新元氏(南通大学緑色方舟環境保護団体)の環境レポート
—中国長江経済ベルトの環境保護と政策—

レポート編集担当:馬建

1.趙新元氏の紹介

趙新元氏(医学博士)は、南通大学公共衛生学部准教授、大学院生指導教官、南通市環境毒性学重点実験室常務副主任、南通大学環境と健康研究所所長などを務め、2018年9月から日本徳島大学で一年間の訪問研究もしていた。また、「南通大学緑色方舟環境保護団体」の指導教師として、大学生の環境保護活動の企画と指導をしている。

2.「南通大学緑色方舟環境保護団体」について

「南通大学緑色方舟環境保護団体」(以下、「緑色方舟」)は、「自分から環境を守りましょう」という理念で2007年8月に立ち上げられ、大学生が環境保護事業に強い関心を持つようになるために様々な活動を展開している。大学生団体である「緑色方舟」は、自分らの専門を生かし、川の水質検査、汚染物質検査を実施し、大気汚染(PM2.5)の情報を収集して、南通市内の住民区、公園などの場所で啓発活動をおこなっている。一方、活動範囲は南通市に限らず、南京、無錫、塩城などの市でも環境保全活動を行ったり、ボランティア活動を実施したりして、かなりの実績がある団体と言える。
「緑色方舟」は、江蘇省学生連合会に6年連続で『省トップ10団体』の栄誉称号を授与され、何度も人民網の報道を受けている。多くの活動は社会各界の人々と一緒に展開しており、例えば下の写真は南通市の小学校内で活動している様子を示している。大学生団体の間で環境保護の教育をおこなっているほか、コミュニティ、学校でも活動している。
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3.発表内容

趙氏は今回、長江経済ベルトの環境汚染状況、それに対応するための政策を紹介し、汚染を防ぐために民衆監督と市民意識の重要性について述べた。

(1)長江経済ベルトの概況
長江経済ベルトは、長江沿岸地域をいう、上海、江蘇、浙江、安徽、江西、湖北、湖南、重慶、四川、雲南、貴州の11の省/市をカバーし、総面積は約205.23万平方キロメートル、中国全土の21.4%を占め、人口と総生産額は全国の40%を超えている。長江経済ベルトは以下の三つの特徴を持っている。①交通の便が良い。長江は中国最大の河川として、従来から便利な水運システムがあり、鉄道路線も整備されている。海洋に面して国際的に開かれているだけでなく、内陸に開放されているという優位性もある。②資源豊富。極めて豊富な淡水資源だけでなく、鉱物資源、観光資源、農業生物資源に恵まれている。③強い経済力。沿岸地域には多くの産業中心地があり、革新力・産業競争力を持つ、中国経済の命脈と位置づけられている。
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(2)長江経済ベルトの環境汚染問題と対策
・水質汚染
長江流域に依存した経済ベルトとして、当然、水質汚染は長江経済ベルトが直面している最大の環境問題であり、最も解決しにくい問題でもある。長江中下流からの工業汚染、農業栽培などの制御しにくい二次的汚染、大量の養殖業の集まりによる湖水の富栄養化などの問題は、今でも長江の生態系を悪化させ続けている。それと同時に、水圏生態系の機能が退化し、江湖の水不足と断流を招き、生き物の生息に支障をきたしている。さらに、水産品が過剰に捕獲され、生物多様性は一層減少している。
長江周辺の多くの都市では、工業企業が川沿いに立地され、これにより都市生活汚水と鉱工業の廃水は長江流域の主要な汚染源になっている。長江経済ベルトには40万社以上の化学工業、5大鉄鋼基地、7大製油所が点在し、「重化学工業が長江を囲む」状況となっている。毎年、約300億トンの汚水が長江に排出されており、これは黄河の水量に相当し、環境負荷はすでに上限に近づいている。
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企業の汚染物質排出行為を監督管理するために、排出口を点検して、排出状況を把握するのが重要であるが、長い間、長江の汚水排出口の管理は「誰が責任を負うのかわからない」現状になっていた。主な原因の一つは、管理部門の権限が交錯しているからである。川の沿岸は環境保護部門が管理し、川中は水利部門¹⁾)が管理し、河口は海洋管理部門が管理し、同時に、流れる各省市の政府部門も関与している。主管部門が不明であり、監督管理の責任も明確になっていない。このような体制の下、多くの排出口が把握されず、監督管理システムから外れている。これまで各地で集計されていた長江の排出口は1,973個で、実際の数値をよりはるかに下回っている。
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以上の問題を解決するため、生態環境部、国家発展改革委員会は2019年1月に「長江保護修復攻略戦行動計画」(以下、「行動計画」)を共同で公布した。「行動計画」は生態環境の管理を強化し、生態保護レッドラインを厳守し、排出口の点検整備、水陸統一監督管理の推進、工業汚染物質対策の強化、生態環境リスクを防止することをめざしている。「行動計画」に基づき、各地方政府の関連部門は直ちに対応し、長江の汚水排出口の調査を行い、検出されてきた汚染排出口は60,292個で、従来の29倍であった。これらの汚水排出口を登録させることは、有効な監督管理を行うために重要なステップである。

・水力発電所の建設
充分なエネルギーの供給を確保するために、長江に複数の水力発電所が建設されている。しかし、環境および生態系への潜在的な悪影響もある。例えば、ダムの建設により、川の流速が遅くなり、酸素の溶存と拡散希釈能力が低下し、川の自浄能力が弱まり、汚染源の管理を強化しなければ、局部水域をさらに汚染させる可能性がある。
また、従来の水域生態系の構造と機能が変えられ、いくつかの希少、絶滅危惧種の生存条件がこの影響を受けやすく、四大養殖魚の自然繁殖にも不利な影響を与える可能性がある。三峡ダムが稼働されてから、長江中下流の河道が洗掘され、上流の重慶市には汚泥が堆積し、環境汚染物もしくはウィルスがここに蓄積する可能性がある。
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この問題をめぐって、多くの対策が出されたが、ここでは、エネルギー供給構造転換の観点からの対策、いわゆる洋上風力発電への切り替えを紹介する。Bloomberg New Energy Finance(BNEF)が新たに発表した世界洋上風力発電報告書によると、2021年に世界で新たに増加された洋上風力発電容量は約13.4 GWで、中国はその中の3/4、約10.8 GWを占めている。2021年末、中国国内の多数の洋上風力発電施設は集中的に電網に送電できるようになった。風力発電を大いに発展させることで、長江水系の水力発電による生態系への悪影響を低減させている。
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また、長江の生態系を回復するために、2020年1月、中国農業農村部はホームページで長江流域重点水域の禁漁区と禁漁時期に関する通告を発表し、2020年1月1日 0時から長江での禁漁計画(10年間)を実施することを宣言した。通告によると、長江本流と重要な支流の水生生物自然保護区と水産遺伝資源保護区以外の天然水域は、遅くとも2021年1月1日 0時から暫定的に10年間の禁漁を実行し、その間天然漁業資源の商業的な漁獲を禁止するとしている。

・廃棄物問題
長江沿岸には大中都市が密集しており、毎日膨大な廃棄物が発生している。固形廃棄物の汚染問題を解決することは、長江経済ベルトの汚染処理の鍵である。そこで、沿岸地域ではゴミ焼却発電施設を多く投資・建設し、最新進設備の導入などを通じて、生活ゴミの無害化処理²⁾)を実現し、長江経済ベルトの環境保護に大きく貢献した。下の図は成都市青白江区のゴミ焼却発電施設である。このような廃棄物処理施設は全国に分布しており、長江経済ベルト沿線には19の施設があり、一日の処理能力はおおよそ17,000トン、投資規模は100億元に近い額である。
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(3)民衆監督について
趙氏は、環境汚染問題を解決するためには、民衆監督が効率的な手段であり、現在の主な民衆監督のルートはNGO団体と市民からの陳情・摘発であると指摘した。ここでは、蘇州工業園区にある緑色江南公衆環境注目センター(以下、緑色江南)が例として挙げられた。緑色江南は、江蘇省とその周辺の地域で活動しているNGO団体であり、彼らは工業汚染の排出をチェックし、企業のクリーンな生産を推進することを自分達の任務としている。緑色江南は主に長江経済ベルト区域の工業園区と企業に対して環境調査研究を行い、政府関連部門が環境問題に対しての再審査を行うことを促し、その結果も一般に公開している。緑色江南は早い段階から環境問題を指摘し、それとともなう環境リスクを明らかにするほか、SNSなどを通じて、環境汚染をめぐる市民からのクレームを受け入れ、さらなる調査・検証を行い、様々な汚染調査研究報告書を作成し、政府関連部門に報告している。
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趙氏が指導している「緑色方舟」も、毎年「母なる川を守る」という一連の活動を展開し、南通市の小学生を対象に、川沿いでの環境研修旅行を実施している。小学生の環境保護意識を高め、環境汚染行為に対して勇気を持って「ノー」と言えるように奨励し、小学生からの環境保護に関する啓発と教育を進めている。また、「緑色方舟」が主催した「飲用水の安全性に焦点を当て、グリーンな生活をひろげよう!」という夏休みでの社会実践プロジェクトでは、団体のメンバーが南通市の各水工場でサンプリングし、重金属含有量の検査・測定、分析と総括をおこなった。17日間の調査研究結果を報告書の形で南通市の環境保護・衛生などの部門に基礎データとして提供した。一方、住民の飲用水の安全に対する意識を高めるために、メンバーは各地域でのアンケート調査や情報共有もおこなっている。
趙氏による長江経済ベルトの環境保護は特定の分野、団体だけでなく、多方面で多くの方の共同努力を求めている。一部の隠蔽されやすい汚染発生源については、強い環境意識と専門的な環境知識がなければ、発見しにくいことは認めざるを得ない。すべての汚染発生源を見出すことは、有効な監督管理ができる前提条件である。廉政(訳注:腐敗がないクリーンな政治)問題を踏まえると、政府の監督管理だけに頼るのではなく、緑色江南のような社会団体の強力な支持が必要である。また、小学生などへの教育を通じて、全市民の環境保護意識を高め、より効果的に市民が環境保護監督に参加することができる。

4.感想(レポート編集担当:馬建)

このような多数の利用者の過剰開発によって、共有資源が維持できなくなるという問題、いわゆる「コモンズ(共有地)の悲劇」は、長江に限らず、世界各国でもしばしば発生している。中国は行政主導で、中央から「行動計画」・解決案を作り、地方政府はそれに迅速に対応していくことは問題を解決するための有効な仕組みと考えられる。しかし、この仕組みには大きな行政コストを支払う必要があり、長期に渡って実施できるかは疑問である。したがって、趙氏が指摘された通り、社会団体の底力を発揮し、政府の監督管理の補佐手段もしくは並行手段として民衆監督を活用すれば、行政コストを削減できるだけではなく、社会全体の環境配慮行動の育成と、将来にわたって問題の発生を防ぐことにも寄与できると言えよう。

[注]
1)「水利部門」:水資源の開発利用を管理している部門。
2)「無害化処理」:環境に優しい処理方法。

各国の環境活動

あおぞら財団