学校教育現場での公害への取り組み―西淀川地域―

解説 工場と道路の街の西淀川区では、大気汚染がひどく、多くの児童がぜんそくに苦しんでいた。 昭和40年代は光化学スモッグがひどく、子供は外で遊ぶと頭が痛くなり、喉が痛くなると症状を訴え、母親達は、洗濯物を干しても灰色になってしまうと嘆いていた。 学校でも、教室に空気清浄機をつけ、予防のためのうがいが慣行するなど、公害に対抗するために色々な手立てが講じられた。 ここでは、西淀川の教育現場の対応を紹介する。 資料紹介 1.昭和45年度 公害対策研究指定校 研究発表紀要 出来島小学校 2.大和田小学校4年生作文 3.私たちの西淀川  改訂版 4.昭和46年度 公害に関する西淀川区内幼稚園の現状 5.第5回西淀川喘息児サマーキャンプのまとめ 1.昭和45年度 公害対策研究指定校研究発表紀要 出来島小学校 作成者:大阪市立出来島小学校 年月日:1971年 サイズ:B5冊子 出所と資料番号:谷智恵子弁護士資料No.84

出来島小学校が公害対策研究指定校になったいきさつが「あいさつ」に書かれている。

西淀川区が昨年公害指定地域となって一年間に公害認定病患者が1.381名に達しており、しかもその半数以上が9才以下の幼児となっております。 大阪市教育委員会が昭和45年度当初に出された教育指針の中で「人間疎外減少に対処する教育を推進すること」「公害については、単に知的理解にとどまらず、ひとりひとりの福祉と、生活向上につながる問題として指導すること。」と公害問題についての指導の基本的姿勢を示しています。 本校は工場排煙・自動車排気ガス・騒音・振動・河川汚濁・悪臭・地盤沈下等」多くの悪条件下におかれ、ぜん息様症状児の数も全校の約10%と比率が高く、開校以来7年間、「公害にまけない体力づくり」をかかげて保健・体育の指導に力を入れてきておりました。 このような社会情勢と市教委の方針と本稿の実状のもとで、本年度府氏教委から公害対策研究していこうとして隣接の淀中学校・大和田小学校とともに指定をうけ、表記の主題により三校と協力していく事になりました。

「研究のねらい」は

(1)公害地における本校の実態の上に立って、教師の認識を深め、共通理解を高めること (2)児童の公害に対する認識を高め、公害から身を守る態度と能力を育てると共に公害を許さない人間性を培うための教育を推進すること (3)保護者の公害に対する認識を高め、みんなでみんなを守る態度化をはかること (4) 施設・設備や環境条件の整備を検討して充実をはかること

保健からは、健康観察通知表を作成して保健室・担任・家庭の三者の連絡を密にし、児童には薬液うがいの慣行・乾布まさつ・偏食の矯正・肝油ゼリーの服 用・体力作りなどを行い、ぜん息様注意児には精密検査・健康相談・酸素吸入・ぜん息体操・家庭訪問・ぜん息日記の記入などの方法で対応した。 設備設置では、大気汚染への対処として、空気清浄機の設置・教室床の油びき・運動場の整地・緑化と菊づくり・プールの自動浄化装置の設置を行い、騒音への対処として、防音教室と防音塀を設置した。呼吸器系病気の治療として、うがいの施設や酸素自動吸入器、保健室の休養椅子の設置を行った。 また、授業でも公害にとりくみ、社会科学習においては

自分たちの生活をみつめ、住民の生存権、生活権を守るには、公害問題に如何に対処しなければならないかを1年から6年まで追及させることによって、日本の民主化をすすめる能力と態度を身に付けた児童を育成したいと考えた。

という目標をかかげていた。 他に、大和田小学校の『昭和45年度公害対策研究指定校研究発表紀要』(谷智恵子弁護士資料No.22)と、淀中学校の『昭和45年度 公害対策研究指定校研究発表紀要』(同No.3)がある。

2.大和田小学校4年生作文 作成者:大和田小学校4年生 年月日:1971年 サイズ:A4 74枚紐とじ 出所と資料番号:西淀川公害弁護団資料No.912

本資料は大和田小学校4年 4組、37人の作文である。 西淀川区の小学校では、児童に乾布摩擦やうがいを慣行させ、空気清浄機が設置されていた。公害病にかかっていない子どもでも、喉が痛い、扁桃腺がはれるという症状を訴えている。

わたしの、すんでいるとこは、西淀川区です、さかなが、とれなくて、こまっている、りょうしさんが、こまっています、さかながとれるような、うみに、してください、およげるような、ところにしてください。 わたしたちは、こうがいが、あるために、うがいや、かんぷうまさつや、こうがいの、きろくを、かいています、わたしたちは、なんでこんなことを、しなければならないのか、とおもいます。 きょしつにつけてある、くうきせいじょうきは、でんきがいるから、つけてよろしいといったときしかつけられません。 まえ、うえた、さつまいもやじゃがいもが、こうがいのために、さつまいもや、じゃがいもが、そだたないのも、それも、こうがいのためだと、おもいます。 わたしは、へんとうせんが、はれやすいのでこうがいが、わるいのかわかりません。 わたしらの、ちかくのこで、よるせきがいっぱい、でるといっている、これも、こうがいだと、おもいます。 わたしらの、組には、ぜんそくのこが、4人もいます。 ときどき、先生が、のどが、いたいといいます。わたしのちかくのこも、のどがいたいといっています、こうがいでやられているのかわかりません。

母親が公害病で苦しむ姿を見ている児童の作文。

ぼくの、おかあさんは、ぜんそくです。 おかあさんは、いつも、「ぜんそくが、なおったらなあ」と、いつもいっています。 ぼくも、そうおもっていますが、ぜんぜんなおりません。 ぼくは、いいかんきょうのいい空のところにいったら、きっとなおると思うけど。 おかあさんは「そんなとこいってもいっしょや」といって、いきません、 ぼくは、そんなおかあさんが、とても、かわいそうだなあと思います。 それなのに、おかあさんは、ひるも、休まずに、しごと、しごとの、一てんばりで、日ようは、もうほとんど、ねています。ぼくは、おかあさんは、家に、いて、家のしごとを、していたら、家もかたずくからそうしたらいいと思う。

公害病に苦しむ児童の作文。

わたしは公害病で学校からかえるとうがいをして薬を3じょうのんで、くすりをのんだあとせきが、でるとくすりをまたのまなくてはなりません。 きのうのことです。学校にいると、せきがでないのに家へかえると、せきがつづけてでます。そしてよる、わたしはいきぐるしくなって、ないてしまいました。なくとよけいにいきぐるしくなって、おかあさんがきてせなかをさすってくれました。それからおかあさんがくすりをとりにいっているあいだわたしは思いました。「わたしはおかあさんやおとうさんにめいわくばかりかけておかあさんやおとうさんにはなにもしてあげられない。」と思うとないてしまいました。そのときおかあさんがきてくすりをもってきてくれました。それをのんでからすぐねると、あまりおきませんでした。このまえのときもそんなことがあってぜんぜんねむらないで1ばんじゅうすわっていました。でもこのまえいなかへいったときは、くうきがいいのでせきや、夜ねられないということはありませんでした。だからわたしは大阪にいてぜんそくをもっとわるくするよりいなかのくうきをいっぱいすうていなかでそだとうとおもったことがいなかにいったときなんどかおもいました。

3.私たちの西淀川 改訂版(小学校の副読本) 作成者:西淀川区社会科研究部編 年月日:1973年3月31日 サイズ:A5冊子 出所と資料番号:谷智恵子弁護士資料No.80

本資料は、西淀川区の小学校の副読本である。 まえがきには

わたしたちの町をがくしゅうすることは、こうがい、交通じこ、さいがいからわたしたちのいのちとくらしをまもり、安全で住みよい西淀川区をつくりあげていく第一歩です。

と、公害から命をまもることが学習の目的として掲げられている。 公害のことは、

西淀川区では、ちかごろでんせん病にかかる人は、たいへんすくなくなりましたが、こうがい病といって工場が出すけむりで、のどがいたくなったり、ぜんそくで死んだ人もいます。空気のよごれから、公害病にかかった人の数は日本一です。

と、西淀川での公害病患者の多さについて書き、

西淀川区のこうがい病をふせぐには、こうがい病のもとになる工場のけむりをきびしくとりしまらなければなりません。 ほけん所では、こうがいパトロール班をつくり、区内を三つにわけて、けむりをたくさん出したり、川の水をよごす工場がないかみまわっています。 西淀川区で空気をよごす工場は、海の近くや、神崎川・淀川の近くに多く、パトロール班は工場の立ち入りけんさをして、空気や川の水をよごさないよう、とくにちゅういをしています。 空気や川のよごれをふせぐには、工場にたびたびちゅういするとどうじに工場が、工場のけむりやよごれた水をとりのぞくきかいやせつびをとりつけることがたいせつです。

西淀川区公害対策特別機動隊の活動も書かれている。

4.昭和46年度 公害に関する西淀川区内幼稚園の現状 作成者:大阪市立姫島幼稚園、大阪市立野里幼稚園、大阪市立大和田幼稚園 年月日:1971年 サイズ:B4  5枚ホッチキス止め 出所と資料番号:谷智恵子弁護士資料No.96

西淀川区の大阪市立幼稚園の父母に行われたアンケートの集計結果。アンケート回収率は全体で89.6%であった。

公害を身近なものとして感じますか (%)

  感じる 感じない 回答なし
姫島

96.7

2.1

1.2

野里

95.6

3.3

0.1

大和田

99.5

0.5

0

公害の被害者だと思いますか (%)

  思う 思わない 回答なし
姫島

85.4

8.4

6.2

野里

80

16.7

3.3

大和田

85.6

12.1

2.3

公害に対する意識の高さが統計から伺える。

5.第5回西淀川喘息児サマーキャンプのまとめ 作成者:淀川勤労者厚生協会、市教組西大阪支部、西淀川公害患者と家族の会 年月日:1980年3月 サイズ:B5冊子 出所と資料番号:西淀川公害訴訟弁護団No.963

1979年7月23日~28日に実施された喘息児サマーキャンプの報告書。 喘息児サマーキャンプの目的

・日頃、喘息のために運動を制限されたり、ひかえがちな子供に、水泳・トレーニングを通じて体力作りを行い、自信を持たせる。 ・集団生活を通して、自立心・規律を養い、意欲的な生活態度を身につけさす。 ・日常診療の中では把握しにくい、子供の性格や行動をふれ合いの中でつかみ、日常診療の中に生かす ・様々なトレーニング・スポーツを通じて、子供の体力の可能性を探る

報告書のなかには、医師の考察や喘息児の体力データや、運営を担った学生の感想、喘息児の感想などが書かれている。

2.大和田小学校4年生作文

わたしの、すんでいるとこは、西淀川区です、さかなが、とれなくて、こまっている、りょうしさんが、こまっています、さかなが とれるような、うみに、してください、およげるような、ところにしてください。 わたしたちは、こうがいが、あるために、うがいや、かんぷうまさつや、こうがいの、きろくを、かいています、わたしたちは、なんでこんなことを、しなけ ればならないのか、とおもいます。 きょしつにつけてある、くうきせいじょうきは、でんきがいるから、つけてよろしいといったときしかつけられません。 まえ、うえた、さつまいもやじゃがいもが、こうがいのために、さつまいもや、じゃがいもが、そだたないのも、それも、こうがいのためだと、おもいます。 わたしは、へんとうせんが、はれやすいのでこうがいが、わるいのかわかりません。 わたしらの、ちかくのこで、よるせきがいっぱい、でるといっている、これも、こうがいだと、おもいます。 わたしらの、組には、ぜんそくのこが、4人もいます。 ときどき、先生が、のどが、いたいといいます。わたしのちかくのこも、のどがいたいといっています、こうがいでやられているのかわかりません。

母親が公害病で苦しむ姿を見ている児童の作文。

ぼくの、おかあさんは、ぜんそくです。 おかあさんは、いつも、「ぜんそくが、なおったらなあ」と、いつもいっています。 ぼくも、そうおもっていますが、ぜんぜんなおりません。 ぼくは、いいかんきょうのいい空のところにいったら、きっとなおると思うけど。 おかあさんは「そんなとこいってもいっしょや」といって、いきません、 ぼくは、そんなおかあさんが、とても、かわいそうだなあと思います。 それなのに、おかあさんは、ひるも、休まずに、しごと、しごとの、一てんばりで、日ようは、もうほとんど、ねています。ぼくは、おかあさんは、家に、い て、家のしごとを、していたら、家もかたずくからそうしたらいいと思う。

公害病に苦しむ児童の作文。

きのうのことです。学校にいると、せきがでないのに家へかえると、せきがつづけてでます。そしてよる、わたしはいきぐるしくなって、ないてしまいまし た。なくとよけいにいきぐるしくなって、おかあさんがきてせなかをさすってくれました。それからおかあさんがくすりをとりにいっているあいだわたしは思い ました。「わたしはおかあさんやおとうさんにめいわくばかりかけておかあさんやおとうさんにはなにもしてあげられない。」と思うとないてしまいました。そ のときおかあさんがきてくすりをもってきてくれました。それをのんでからすぐねると、あまりおきませんでした。このまえのときもそんなことがあってぜんぜ んねむらないで1ばんじゅうすわっていました。でもこのまえいなかへいったときは、くうきがいいのでせきや、夜ねられないということはありませんでした。 だからわたしは大阪にいてぜんそくをもっとわるくするよりいなかのくうきをいっぱいすうていなかでそだとうとおもったことがいなかにいったときなんどかお もいました。 わたしは公害病で学校からかえるとうがいをして薬を3じょうのんで、くすりをのんだあとせきが、でるとくすりをまたのまなくて はなりません。