あおぞら財団

インドの環境活動

India 2024.1

2024年1月に初めてインドを訪問し、デリーにて弁護士事務所「LIFE」のRahul Choudhary氏にヒアリング調査を行った。

life訪問

弁護士事務所LIFE  Rahul Choudhary氏
ヒアリング

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弁護士事務所LIFE  Rahul Choudhary氏ヒアリング

2024年1月13日(土)、インド弁護士事務所「LIFE」を訪問し、インドの現状と活動についてお話を伺いました。

life訪問
 

写真 弁護士事務所LIFEにて
Rahul Choudhary氏(右)、藤江徹(左)

【1】LIFEの活動について
LIFE(Legal Initiative for Forest and Enviroment)を2007年に設立した。企業や政府ではなく、コミュニティやスラム街などを対象に環境問題や大気汚染をどうすれば無くせるかを法律的な側面から支援してきた。

◎LIFE事務所HP
https://thelifeindia.org.in/

【2】デリーにおける大気汚染について
デリーでは、毎年12月から1月にかけて大気汚染と霧が発生する。その原因は様々で、野焼き、車からの排気ガス、建設時の粉塵、ゴミ捨て場からの煙など。例えば、寒いので各家や店の前でゴミや薪を燃やすのも原因の一つ。
 
デリーでの大気汚染には地理的な問題がある。背後にヒマラヤ山脈があり、さらに海岸エリアからの風の影響を受けること。例えば、ハリヤーナー州やパンジャーブ州では大気汚染の原因となる野焼きが行われており、風によって大気汚染物質が飛ばされてくる。
 
農業地域でも昔は野焼きを行わずに、農家も稲刈りの後をそのままにしていた。しかし、機械化が進み二毛作(米・麦)が可能になったことで切り株を含めて燃やすようになった。野焼きを止めさせるために政府が農機を貸して肥料にすることもできるが、米の収穫時期は集中するため、機材が足りない、または、農民自身が「野焼きすることが作物の成長に良いと考えている」ため改善しない※1。2014年にはパンジャブ州からのデリーへ流れてくる野焼きについて、個人がパンジャブ州政府を訴え、NGT(National Green Tribunal)で裁判が行われている。
 
デリー近郊ではゴミ捨て場からの火災による煙が問題になった所が4箇所ある※2。廃棄物の受入場所であるダンピングヤードにゴミが置きっぱなしになってメタンガスが発生し引火する、等。ゴミ焼きについては個人への啓発やリーダーの育成が課題、政府はゴミ工場を対象に対応している。
 
デリーでは、市外へ企業を移転させ、車両も燃料をガソリン・ディーゼルからCNGや電気に変えさせるよう進めている。
NGTでは車に対しても判決が出ている。ディーゼル車の場合、10年以上前の古い車を走らせてはいけないことになった。
 
デリー郊外~アーグラ地域に立地するレンガ工場からの煙も問題視されている※3。石炭でも薪でもそのまま燃やしており、大気汚染への影響が考えられる。
アーグラにある世界的な建築物であるタージマハールが大気汚染によって黄色くなった。工場をつくるな!と裁判になった。
 
 
【質問】環境に関する裁判を行っている弁護士同士のつながり・ネットワークはあるのか?
弁護士同士のつながりは特には無い。首都デリー南東近郊の産業都市ノイダNoidaやガジアバードGhaziabad(共にウッタル・プラデーシュ州)の事例では、工場や車に対する規制が進んでいるが、弁護士同士が原告と被告の立場に分かれることもある。異なる弁護士事務所同士が共同で裁判を行うことは無い。大気汚染を減らしたいという趣旨は共有しており、それぞれの立場(工場、自治体等)で取り組んでいる。
 

【質問】デリーでの判決は他都市にも反映されるのか?
デリーでの判決はデリーにだけ適用される。他地域でも、同じような条件(同じ企業、業態など)であれば影響されることはありうる。もちろん、デリーの判決を参考に他地域の裁判が行われることはある。
例えば、デリー内にあった工場が100km離れた所に移転され、同地域が汚染された場合、誰がどのように監視しているかが問題になる。工場からの煙がどのように動いたかが分からないと規制ができない。
現在、デリー周辺には38~39か所の大気汚染モニタリング装置が設置されている。他の地域には1~2つしかない場合がある。
 

【質問】石炭火力発電所について/デリー周辺での石炭火力や工場からの煙は影響しているか?
デリー近郊の石炭火力発電所は稼働が止められている。小規模のものは残っており、大気汚染への影響も少しはある。天然ガス発電に変えられたものもある。大気汚染がひどくなった時は交通量や建設工事を規制するなどしているが、小規模な火力発電所や工場からの煙も、大気汚染全体への影響は残っていると考えている。
 
近年は、デリーNCR(National Capital Region)の石炭火力発電所は停止するか、天然ガスに変更することになっており、デリーから400~500km離れた地域へ移っている。デリーNCR(National Capital Region)外なら、継続している可能性もある。工場などではFGD(Flue-Gas Desulfurization:排煙脱硫装置)を入れなければならないが、導入していない所もある。
 
【質問】健康被害については?
健康被害(ぜんそく)について政府は発表していない、統計もない。
ヒンドゥー教の祭典ディワリ(11月)の際は、花火が多く使われるため、病院へ行く人(咳き込む人)が増えるように思うが、データは分からない。健康については、企業がデータをとってるかも。大気汚染に関しては、喘息だけでなく、心臓の病気、心臓発作を起こす人もいる。
 
【質問】大気汚染に対して、住民・NGOによる活動はあるか?
・都会では個人的に活動する人はいるが集団になるほどではない、皆忙しいので少ない。
・地方は住民が少ないし、生きるために精一杯。反対の声を上げている所もあるが、そこまで盛り上がっているわけではない。

【質問】デリー地域以外の大気汚染の原因は?
PM10、PM2.5は測定しているが、他のデータは無いので分からない
大気汚染ワーストに入っているビワディ(マハーラーシュトラ州西部に位置)は工業地帯。モンバイは海が近くて、石油精製工場がある。
我々も各地域の人と「環境」について話をするが、大気汚染については話題になっていない。例えば、ダノワードは石炭生産で、チャールカンド、ライプルも工業地帯で、車も多く走っているのだが、大気汚染の話は出ない。
大気、水については2017年、最高裁の判決で、州政府やCPCT(Central Pollution Control Board:中央汚染管理局)が測定すべきとなった。州政府は、大気汚染を起こしているレッドゾーンの工場リストを持っている。基準を守るかどうかのコントロールも州政府がやることになっている。

【3】今後の取り組みについて
・今後については、中央政府レベルではNCAP(National Clean Air Program:国家大気浄化計画)※4が進められる中、州内での都市計画も含めて、みんなが一緒に対策をしていく。行政が厳しくやっていかないと改善しない。
 

【参考】

※1:Aakash project(大気浄化、公衆衛生および持続可能な農業を目指す学際研究:北インドの藁焼きの事例)
・2020年4月1日に総合地球環境学研究所(RIHN)にて発足。
・ヒンディー語で「空」を意味する「Aakash(アーカッシュ)」と名付けられました。
https://aakash-rihn.org/
 

※2:ごみの山でまた火災、有害な噴煙で住民に健康被害 インド 2023.03.08/CNN.co.jp
https://www.cnn.co.jp/world/35201007.html
 

※3:インドにおけるレンガセクターからの大気汚染削減策に関する分析(2021)/青山美和・竹 内渉(生産研究152 73 巻 3 号 (2021))
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seisankenkyu/73/3/73_151/_pdf
 

※4:インド政府は2019年、「公害との戦い」を宣言し、大気汚染削減を目標に掲げた国家大気浄化計画(National Clean Air Programme:NCAP)を立ち上げ、粒子状物質汚染レベル(PM2.5、PM10)を2024年までに、2017年の同レベルから20~30%削減することを目指している。

 
 

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写真:インド門近くの広場にて(1月11日,14時)
3
2024年1月13日(土)8:21 デリーにて撮影
2
2024年1月13日(土)8:22 IQ Air測定値
4
2024年1月14日(日)10:55 タージマハール
5
2024年1月14日(日)11:22 タージマハール
6
写真:建設現場の焼レンガ(デリーにて)
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写真:レンガ工場の煙突(デリー近郊)
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写真:街中での焚火inデリー
9
写真:2024年1月19日(金)15時
マハトマ・ガンジー廟にて、デリー
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測定値:2024年1月19日(金)15時 デリー
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写真:2024年1月12日(金)16時
ジャーマー・マスジドにて、デリー
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写真:デリー地下鉄駅の様子
13
写真:粉塵で白くなった街路樹
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写真:散水車
15
写真:クラクションが鳴り響く
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写真:オートリキシャ

 

通訳:Dinesh Jaggi
記 :藤江徹(あおぞら財団)

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