あおぞら財団 西淀川道路環境再生プランpart2 〜道路環境対策先導地区形成モデル事業の提案〜(1999年6月)
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西淀川道路環境再生プランpart2 〜道路環境対策先導地区形成モデル事業の提案〜(1999年6月)

1999年6月

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目 次

はじめに(提言の目的)
1.これまでの経過
2.現行対策の問題点と課題
3.本提言のコンセプト
4.事業メニュー

<自動車交通量の削減に向けた対策>
・大型貨物自動車の交通実態把握の総合調査
・国道2号及び府道大阪池田線への大型車流入規制の導入
・国道43号及び3号神戸線の車線削減
・区内交通量の削減に向けた事業
<自動車交通流の分散化に向けた対策>
・5号湾岸線における夜間・早朝大型車無料化の実験
・5号湾岸線等への交通流誘導のための整備
・区内交通流の円滑化のための整備
<沿道への影響を緩和するための対策>
・道路構造の改善整備
・沿道地域の整備
<沿道環境対策の構築に向けた先駆的な調査研究の推進>
・大気浄化システムの総合研究
・微細粒子等による健康影響に関する調査研究
・中期的課題の具体化に向けた調査研究

4.整備スケジュール
5.社会実験への応募について
6.総合対策のプロモーション機能の構築について
おわりに(追加提言について)

はじめに(提言の目的)

この提言は、昨年7月に発表した『地域から考えるこれからの日本の道路・・西淀川道路環境再生プランの提言』をベースにしつつ、今日の情勢を踏まえて、西淀川地域の道路環境対策における当面、2000年度予算で事業化すべき対策について整理し、提起する。西淀川公害患者と家族の会の委託により、あおぞら財団が設置した「西淀川道路環境対策検討会」各分野の専門家や地域関係者により構成)によって検討された。

1.これまでの経過

●西淀川公害訴訟の和解と川崎公害訴訟判決
あおぞら財団は、昨年7月、西淀川公害患者と家族の会の委託に基づき、各分野の専門家らの協力を得て『地域から考えるこれからの日本の道路・・西淀川道路環境再生プランの提言』をまとめ、これを紹介するシンポジウム等を開催した(於:東京、大阪)。
同月には西淀川大気汚染公害訴訟における原告公害患者・家族等と被告(国・阪神高速道路公団)との間に和解が成立し、和解条項に基づき「西淀川地区沿道環境に関する連絡会」(以下、連絡会)が設置されることとなった。
また、西淀川公害訴訟の和解直後の8月5日、川崎公害訴訟(2〜4次)における地裁判決は、1995年7月の西淀川公害訴訟の大阪地裁判決による自動車排ガスと健康被害に因果関係ありとする判断をさらに踏み込んで、健康被害が今日に及んでいること、県・市道を含む道路から排出される排ガスによって地域環境の面的汚染が進行していること等の判断を下している。

●西淀川和解・川崎判決後における対策の動向
このような動向を受け、国では環境庁長官が閣僚懇談会(8月7日)において、都市の大気環境の改善に向けた関係省庁の協力について特別に発言するとともに、これを受けて開催された『道路交通環境対策に係る関係省庁局長会議』(9月8日)では、「当面、川崎市南部地区及び西淀川地区を含めた高濃度汚染地区における道路環境対策について、地元における検討と連携しつつ重点的に検討すること」等の4項目を確認している。平成11年度政府予算案では、環境庁が西淀川地域をモデルにした総合的な道路環境対策の検討費を計上している。
西淀川公害訴訟の和解条項に基づく連絡会は、その第1回が昨年10月12日に開催されている。ここでは、和解条項に盛り込まれた対策のうち、これまでの実施・検討状況が15項目にわたって報告されている。
また、道路審議会は11月20日、西淀川訴訟の和解と川崎訴訟の判決という情勢を受けたという形で、「より良い沿道環境の実現に向けて」と題する答申をまとめ、建設大臣に提出した。これを具体化する形で、川崎市南部を重点地区として総合的な検討がなされ、今年1月14日にはその対策案が公にされた。報道によると、23項目にわたる具体的・即地的なメニューで、総事業費は4千億円規模となっている。
このような流れの中で、川崎公害訴訟は5月20日に和解が成立し、西淀川和解の枠組みを踏襲しながらも、現状認識や対策のあり方についてより踏み込んだ和解文をかわし、今後の具体化に委ねている。一方、西淀川地域と隣接する尼崎市南部における公害訴訟も6月4日に結審を迎えた。同地域では、国道43号訴訟最高裁判決を受けた環境対策がほぼ実施済であるだけに、より踏み込んだ対策をどのように描くかが焦点となっている。

2.現行対策の問題点と課題

●現状
(1)道路整備先導型の沿道環境対策
昨年11月の道路審議会「より良い沿道環境の実現に向けて」(答申)は、その背景として西淀川和解と川崎判決を第一項目にあげつつ、持続可能な社会の構築」を課題に据えている。しかし、その基本理念は「経済・社会活動を支えている幹線道路の役割と沿道に居住する人々の生活環境の保全との両立」であるとして、幹線道路の認知をまず先に求めている。その上で、施策の基本的方向としては、「自動車の低公害化と自動車交通を分散する幹線道路ネットワークの整備が基本」であり、「現に環境が厳しい地域では、道路構造対策等により沿道環境を改善することが急務」として、さらに「大都市圏等では、関係事業者、住民等の参画による自動車交通の需要調整を導入」していくと段階的構成を提示している。
一方、一昨年6月の道路審議会建議は、従来型の「車優先の道路整備」の政策を明確に批判した上で、今後の道路づくりの基本的考え方として「供給量から社会的価値へ」の転換を打ち出している。こうした政策的転換の要請に対して、今回の答申の中ではどのように具体化されているのか、文脈からは読み取りにくい。幹線道路の整備が先にありきの沿道環境対策にならないか、点検が必要である。

(2)面的汚染を増悪させる幹線道路ネットワーク整備
実際に、西淀川における連絡会(第1回)で提示された対策メニューも、川崎南部を対象にでまとめられた総合対策メニューも、具体的対策として先行しているのは「自動車交通の円滑化」であり、大気汚染物質等の削減に資する環境対策はそれを補完する程度の位置づけとなっている。
本来は、環境汚染が深刻な地域における交通量の抜本的削減が検討されてしかるべきであり、そのための交通需要マネージメントのあり方が問われている。特に、大型車についての交通流を適正にコントロールすることで、地域環境の汚染構造を大きく改善することができると考えられるが、そのような対策を補完するものとして幹線道路ネットワークの整備が検討されるべきである。
しかし、現実の「円滑化対策」は、かえって交通量を増大させ大気汚染を悪化させてきたことが、これまでにも幾度となく実証されている。その背景には、道路建設(ハード)が先行し、交通需要マネジメント(ソフト)が後追いになってきたことも一因として指摘することができよう。また、幹線道路ネットワークの整備は、新設された幹線道路周辺に公害をまき散らすことにより、川崎公害訴訟の判決が指摘した面的な汚染構造をより深刻化させるものと考えられる。こうした危惧はかねてより各方面より指摘されてきたが、いまだ具体的かつ説得力のある反論は示されていない。

●問題点と課題
(1)急がれる地域の実態把握
このような現状は、わが国の道路交通政策や経済政策が抱える構造的な問題を背景として指摘するべきだが、西淀川や川崎での検討状況に即して考えるならば、次のような問題点があるものと考えられる。
ひとつには、対象となっている地域の汚染構造の具体的な把握がないまま対策が検討されていることがある。当面、対象地域から発生及び通過する交通(特に大型貨物自動車)について、詳細に把握し、交通総量の削減に資する物流対策を構築していく必要がある。また、対象地域の面的な環境状況の把握と自動車排ガスによる影響の分析、それを土台にした対策の効果に関するシュミレーションの実施がなされる必要がある。そして、それらの情報を積極的に公開することにより、対策への相互理解の促進を図るべきである。

(2)「タテワリ」を排した総合的な対策の検討
ふたつめには、「タテワリ行政」と言われるものの弊害により各セクションの既存施策の継ぎ足しになっており、総合的な地域政策が打ち出せていないことがある。道路交通公害を克服するためには、道路行政の枠にとどまらない総合的な対策が必要である。国レベルでの対策が省庁によりそれぞれ分立していることはやむを得ないとしても、地域を特定した対策においては、それらの施策をどのように総合化するかが重要である。
また、これまでに提示されている対策では、どのような到達目標がめざされているのかも不鮮明である。今後は、地域環境やまちづくりに対する基本方針とビジョンを提示しつつ、現行の各種施策や今後検討・計画していく対策は、その中でどのような位置づけにあるのか等を示していくことが重要である。その際、総合的な対策をどのような体制によってプロモーションしていくのかの方法論の構築も必要である。

(3)社会実験的発想による創造的対策の構築
自動車NOx 法に基づく総量削減計画の現状が示すように、総合的な道路交通公害対策はこれまでにも種々試みられてきたが、十分な効果をあげていないのが現実である。国が示したメニューに基づいて自治体計画を立案させる方式には限界がある。
地域住民の意向を十分に反映し、地域特性を踏まえた、独創的な総合対策が構築される必要があるが、そのためには様々な試行錯誤が伴う。近年では、住民参加の一形態であるパブリック・インボルブメント方式を取り入れた社会実験による施策検討が注目されており、道路審議会建議でもその導入が強調されているところである。
西淀川地域をモデルとした対策には、たんにメニューの羅列ではなくて、どのような社会実験を積み上げていく中で、地域の特性に見合った創造的な対策を構築していくかのアクションプランが求められている。

3.本提言のコンセプト

●「道路環境対策先導地区形成モデル事業」の提案
本提言の事業メニュー案は、環境改善効果の予測や住民意向の把握等、十分な検証を経たものではないが、西淀川地域をめぐる道路公害の現状と対策の緊急性を鑑みて、実施が望ましいと考えられる試案である。これは、激甚な公害問題を経験した西淀川地域において、道路環境対策の先導的な各種事業を実験的かつ集中的に導入し、住民・行政・企業等の各主体の参加を得ながら検証し、理解を広めながら、国内外に情報発進し、成果を定着させていくことを通じて、良好な地域環境を形成していこうとする戦略である。

●事業メニューの考え方
自動車交通、とりわけ大型貨物車の交通量を削減するための対策を優先的に実施する。それに付随して、臨海部の工業地帯で発生する交通を臨海部内で処理するとともに、市街地の交通を臨海部に誘導し、分散させるための対策を進める。既存の幹線道路においても交通流の適正化や道路構造の改善、沿道地域整備等を行うことにより、地域の沿道環境の改善を推進する。
これらは、当面2000年度予算において着手すべき対策案である。道路管理者として即実施できるものは速やかに着手するとともに、地方公共団体や関係機関との調整が必要な案件についても、建設省のイニシアティブにより、期日を設定して協議を図ることとする。

●基本方針
(1)自動車交通量の削減に向けた対策

自動車交通量、とりわけを西淀川区域を通過する大型貨物自動車の交通量を削減するための対策を講じる。そのためにも事業所・工場から発生する交通についての総合的調査の実施を緊急かつ最重要課題として位置づける。

(2)自動車通行流の分散化に向けた対策
大阪・神戸間の通過交通を臨海部に誘導するとともに、臨海工業地帯で発生する交通を臨海部内で対応することにより、市街地への流入を減少させ、沿道環境の改善に資する。5号湾岸線の夜間・早朝大型車無料化を緊急かつ最重要課題として位置づける。

(3)沿道への影響を緩和するための対策
市街地の沿道環境が厳しい幹線道路において、沿道への影響を緩和するため、道路構造の改善のための整備を早急に実施するとともに、沿道地域構造の改良を推進するための取り組みを進める。

(4)沿道環境対策の構築に向けた先駆的な調査研究の推進

大気汚染物質の浄化装置整備、微小粒子等による健康影響など、今後の沿道環境対策の先駆となる調査研究を、西淀川地域をモデルに推進する。

4.事業メニュー

●自動車交通量の削減に向けた対策
(1)大型貨物自動車の交通実態把握の総合調査
道路交通公害の焦点は、貨物自動車の交通量をどのように削減するかにあることは言うまでもない。そのためには、事業所・工場から発生する交通の実態を詳細に把握し、効果的な対策を検討する礎とする必要がある。
そのために、西淀川区域及び大阪市域、大阪府域、阪神地域のそれぞれにおける工場・事業所から発生する交通についての総合調査を実施する。
これを実施することで、西淀川地域における貨物自動車の交通量削減と通過交通の削減・分散化に資する計画を立案するとともに、自動車NO2 法における大阪地域での交通量削減計画の構築に資する。
調査は、区内及び大阪府・市、兵庫県南部の各自治体及び関係機関、事業者・工場の協力によって取り組むものであり、それ自体が壮大な事業として意義あるものと考えられる。
当面、建設省の呼びかけにより、通産省・運輸省及び当該自治体をはじめとする関係機関、業界団体関係者、専門家の協力の下で、阪神地域の抜本的な物流対策について検討委員会を早急に設置し、調査の企画を具体化する。

(2)国道2号及び府道大阪池田線への大型車通行規制の強化・導入
国道2号及び府道大阪池田線を通過する大型車は、区内を縦断・横断することによって、排ガスや騒音・振動が地域環境に大きな影響を与えているものと考えられる。
国道2号については、北区東天満交差点より府県境まで、大型特殊・大型貨物・大型自動車の時間規制(午前9時〜午後7時)が設定されている。この区間を運行しようとする場合、事業者は出発地の警察署に届け出る必要がある。
府道大阪池田線は、5号湾岸線や国道43号からの流入を受け入れ、名神高速道路・豊中ICや中国道・池田IC等へとつないでいる。国道43号・大和田西交差点から名神高速道路・豊中ICまで順行速度(平日)で20分弱で通過できることから、臨海部の物流にとって、高速料金を要さない恰好のバイパスとなっている。
そこで、大型車通行規制を、国道2号(区域)は時間規制から終日規制に強化し、府道大阪・池田線も終日導入する。当面は、移行的措置として位置づけて、一定期間実施した際の区域内外に及ぼす影響等を調査し、前出・の交通実態把握調査の結果を踏まえて、本格的な実施について検討を深めるものとする。
また、国道2号にアクセスする各道路や、大阪府道大阪池田線への流入が大きい国道43号大和田西交差点や名神高速道路・豊中IC出口等に、歌島橋交差点を経由しての臨海部への移動を避けるように促す掲示、誘導表示等を整備する。

(3)国道43号及び3号神戸線の車線削減
区内を通過する交通量を削減するために、国道43号及び3号神戸線の車線をそれぞれ片側1車線づつ削減する。

○国道43号
*現在佃地区で実施予定の車線削減事業を延伸し、区内全区間での実施とする。
*削減された部分は植樹帯として整備する。
○3号神戸線
*現在、尼崎〜西淀川区間のみが6車線(片側3車線)であること、5号湾岸線の開通 により交通流の分散化が期待できることなどを踏まえて、尼崎〜西淀川区間においても1車線削減し、片側2車線とする。
*当面、仮設緑化帯の設置などによる試行期間を設定して、当該道路や国道43号等の他の道路への影響を把握し、本格実施について検討を深めるものとする。

(4)区内交通量の削減に向けた事業
西淀川地域内における貨物需要の集約・効率化を図るとともに、一般においても不急不要のマイカー利用を抑制し、人と環境にやさしいライフスタイルの構築のために、地域整備や交通体系の見直しを進める。

○区内中小工場を対象にした共同配送事業の導入

近年の幹線道路網の整備により、流通系業種の集積がみられる大阪工業団地(中島地区)に共同配送センターを設けて、区内市街地への不要な貨物自動車の交通量削減に務める。そのために、「中小企業流通業務効率化促進法」に基づき通産省が実施している共同配送等に関するモデルプランづくりを導入する等、関係機関及び区内商工業者との連携を進める

従来、中小企業流通業務効率化事業は、商業関係を中心にしたものであったが、中小工場の集積にみあった流通業務の効率化について先駆的に調査研究する場として位置づける。

○歩行者・自転車のための幹線道路ネットワークの整備モデルプランの策定

自動車交通との平面交差によって、円滑な通行が妨げられることのないような歩行者・自転車のための幹線道路ネットワークの整備を進める。大野川緑陰道路を背骨にした区内の骨格を構築する全国に先駆けたモデルプランを、地域組織等の関係者との協力の下で策定し、その実現を図る。
自転車道整備について、建設省の見解は「現在整備可能区間については西淀川区全線整備が完了する(平成11年度着手予定)」となっている。しかし、既設区間においても構造や利用上の問題が山積している。また、国道の範囲をこえて、『提言(part1)』が描いたように、今後は大野川緑道を骨格とした地域内ネットワークを形成していくことが肝要である。また、地域社会の各主体が参加する様々な社会実験を通して、利用者サイドへの啓発を進めていくことも重要である。

○コミュニティバス運営事業

公共交通機関の利用推進は、マイカー利用を抑制する上で重要な施策である。区内の移動における公共交通機関の利便性を高め、マイカー利用からの転換を図るために、コミュニティバスを導入する。
そのために、メーカー、行政、住民の共同作業によって、低床・低公害で利用しやすい小型バスを開発し、住宅密集地内を運行させる。区内の保健福祉医療の各種施設や商店街等をつなげるコースの開発、ダイヤルバス方式(電話等での依頼に応じて近所までバスが立ち寄る)を導入実験、通勤時間帯による工場街での運行実験などにより、利便性の高い運行方策を検討・検証し、実用化を図る。

●自動車交通流の分散化に向けた対策
(1)5号湾岸線における夜間・早朝大型車無料化の実験
大阪・神戸間の大型貨物自動車の通過交通に着目して、市街地から臨海部へ誘導するために、抜本対策を構築する必要がある。
当面、その手掛かりとして、大型貨物自動車の夜間走行が沿道住民に与える影響を考慮して、夜間・早朝(夜9時〜朝9時)において、5号湾岸線の貨物自動車料金を無料化して、国道43号や3号神戸線の交通を臨海部に誘導する。
実施に際しては、これを将来的なロードプライシング事業の導入に向けた試行実験として位置づけて、期間を限定しての実証実験方式で実施することも考えられる。

(2)5号湾岸線等への交通流誘導のための整備
大阪・神戸間の通過交通を、市街地から臨海部へ誘導するとともに、臨海工業地帯内において発生する交通の臨海部内での対応等を進めるための整備を図る。

○阪神高速道路
阪神高速道路網全体で、内陸部の通過して阪神・神戸方面に移動する交通を5号湾岸線に誘導するための総合的な計画を関係機関との調整の下で策定し、その実現を図る。

○一般道路

阪神間の臨海部の一般道路における接合性や5号湾岸線へのアクセス性を高めて、市街地から臨海部へ誘導するとともに、臨海工業地帯内において発生する交通の臨海部内での対応を進めるための整備計画を、関係機関との調整の下で策定し、その実現を図る。

(3)区内交通流の円滑化のための整備
区内市街地の通過交通を臨海部に誘導するとともに、市街地の幹線道路において円滑な交通流を確保するため、ボトルネックの解消、交差点構造の改良を図る。

○国道43号

国道43号から5号湾岸線への接合性を高めるために大和田西交差点の構造改良を行う。
*国道43号の高架道路と5号湾岸線取り付け道路の間で直接流出入ができるように、大気環境や景観等への影響が少ない範囲での構造改良を行う。

○国道2号

歌島橋交差点の渋滞解消は、国道2号や府道大阪池田線を通過する大型車の交通量を削減することを基本に、交通流の円滑化のために交差点信号機について、国道2号の交通を円滑化させるための改良を行う。前出の府道大阪池田線の大型車通行規制と併せて、同道からの流入を抑制する信号機の時間配分とする。
また、地下歩道整備に伴う地上部の横断歩道廃止については、工事終了(7年後)まで保留し、今後の対策の経緯・成果とそれに伴う住民意見等を考慮し、交差点及び周辺街区の一体的整備(大気汚染対策緑地整備、中心市街地活性化法の適応等)の可能性について実証的に検討する。

●沿道への影響を緩和するための対策
(1)道路構造の改善整備
対処療法的な沿道対策として、市街地の幹線道路において、環境施設帯の整備(歩道拡幅、植樹帯の整備)、遮音壁の設置、低騒音舗装の敷設等により、沿道環境の改善を図る。

○国道43号
*区内全区間を1車線削減し、ボリュームのある植樹帯を整備(前出)
*区内全域において低騒音舗装を敷設

○国道2号
*環境施設帯の整備(歩道の広幅員化、植樹帯の整備)
*歌島橋交差点周辺の低・未利用地(具体的には大阪市御幣島バイク駐車場周辺の遊休地)を買い上げ、大気汚染対策緑地としての整備を図る。これを中核にして、西淀川区役所リニューアル計画と連動しながら、大野川緑道と一体となったアメニティゾーンの形成、交差点周辺市街地の活性化を図る事業の展開などを検討する。
*区内全域において低騒音舗装を敷設

○11号池田線
*遮音壁の設置(住居隣接部分、高層マンション隣接部分はドーム型を設置)
*裏面吸音版の設置(一般道路と交差ないし併走する部分及びJR神戸線からの列車騒音の反響が発生する部分)
*区内全域において低騒音舗装を敷設

○3号神戸線
*遮音壁の設置(住居隣接部分、高層マンション隣接部分はドーム型を設置)
*裏面吸音版の設置(一般道路と交差ないし併走する部分及び阪神電鉄からの列車騒音の反響が発生する部分)
*区内全域において低騒音舗装を敷設

(2)沿道地域の整備
根本治的な対策として、沿道法等を活用した沿道立地住宅の防音化、沿道の土地利用の転換を推進する。また、良好な環境のまちづくりに資する諸制度を活用して、地域を縦横に走る幹線道路からの公害から住民生活を守り、豊かな生活環境と地域個性を創出するまちづくりを促進する。

○住工混在地型沿道まちづくりモデルプランの策定

沿道まちづくり事業は、沿道環境対策として効果的かつ根本的であり、西淀川地域の環境再生に欠かせない事業である。国道43号、国道2号、11号池田線、3号神戸線の各路線からそれぞれモデル地区を設定して、沿道まちづくりモデルプラン策定調査を、地元組織等、関係者との協議の下で進める。
あおぞら財団が姫島地区で実施した住民アンケート結果では、住工混在地区においては、隣接する工場からの騒音・悪臭等や、工場に出入りする貨物自動車による交通安全や環境問題、マイカー通勤者による不法駐車等への不満が多い。一方、工場経営者に対するアンケート結果では、西淀川区内に立地するメリットとして大阪・神戸といった大都市の中心部へのアクセスの良さをあげており、住工共生型のまちづくりを指向している等が浮き彫りにされた。
こうしたことから、沿道まちづくりに際しては、幹線沿道対策と連動させて、地区内における住工のすみわけを進める必要がある。具体的には、騒音等が発生しやすい工場の幹線沿道への移転を促進し、幹線道路の都市間物流の機能との連携を図るとともに、幹線道路及び工場群のあるエリアとの緩衝緑地を整備して、その内側にアメニティの高い居住空間を整備する等である。

○緑化重点地区総合整備事業の導入:

大阪市が策定を進めている「緑の基本計画」と連携しつつ、建設省が平成11年度予算において拡充した緑化重点地区総合整備事業の趣旨(地球温暖化防止の観点から都市のヒートアイランド現象を緩和する緑を創出する地区の追加)を踏まえて、西淀川区を同事業の対象地区として指定し、区内における自動車排ガス等の吸収を図る沿道緑地の整備を計画的に進める等、沿道対策を核としたモデルプランを作成する。
その際、本提言で提唱している歌島橋交差点周辺への大気汚染対策緑地の整備、国道43号沿道への土壌浄化システムの導入、歩行者・自転車のための幹線道路網の整備などを併せて計画する。

○中心市街地活性化計画の導入検討

西淀川地域は、小売商業が弱体化しており商店街の衰退が目立っている。また、中小製造業の集積を支援するサービス業務の集積に乏しく、都市型産業の発展を妨げている。これら地域産業の不活性化により、地域個性が乏しく、まちの顔が見えにくくなっている。道路環境対策等、地域の環境改善・創出と併せて、地域社会の活性化に資する沿道整備を進めていく必要がある。
区域全体としては、本提言で提唱している住工混在地型沿道まちづくり、緑化重点地区、歩行者・自転車幹線道路ネットワーク整備等と連動させて、その拠点に歌島橋交差点周辺を位置づけながら、中心市街地活性化法を最大限活用して西淀川地域の活性化方策を具体化する。
その際、歌島橋交差点周辺の街区をまちの顔として創出していく方向性での、交差点構造の改良と街区整備の推進を併せて進める。同交差点周辺は、区内の主要官公署や銀行が集中するとともに、中小工場の一大集積が形成されている。近年、JR東西線・御幣島駅が開設され、既設の大阪市営交通・歌島橋バスターミナルとともに、区内の公共交通の拠点性を高めている。同交差点の中核をなす西淀川区役所の建て替え検討費が平成11年度に予算化されている。これと連動した街区の再整備を構想していくことが重要である。
このような事業のあり方について、建設省のイニシアティブにより、関係機関(通産省、国土庁、大阪市)と協議し、検討する必要がある。

●沿道環境対策の構築に向けた先駆的な調査研究の推進
(1)大気浄化システムの総合研究
沿道における遮音壁や環境施設帯(緩衝緑地等)の整備と併せて、大気浄化システムの設置を試行的に実施する。

○土壌浄化システムの導入

国道43号及び国道2号の沿道に土壌浄化システムを試行的に設置し、その効果等を調査研究する。
*国道43号
区内における車庫線削減及び環境施設帯(緩衝緑地等)の整備と併せて、大和田西交差点付近に導入する。
同実験用に、沿道の低・未利用地を買い上げて、緑地を整備する。
*国道2号
歌島橋交差点周辺に整備を提案している大気汚染対策緑地に土壌浄化システムを導入し、実証実験を行う。

○光触媒による浄化システムの導入

国道43号、3号神戸線、11号池田線のそれぞれに、平成11年度に事業化している光触媒による浄化システムの導入区間について、さらに延伸するとともに、周辺建物への触媒添付について協力を要請し、その面的な効果を調査研究する。

○高架道路上の緑化による浄化効果の実験

3号神戸線の片側3車線区間(尼崎−西淀川)の一部を使って、1車線を削減して仮設緑化した場合の大気浄化効果について実験する。

(2)微細粒子等による健康影響に関する調査研究
和解条項の趣旨に基づき、沿道大気汚染と健康への影響について、全国に先駆けた面的なケーススタディを実施する。

○微細粒子による健康影響等の調査研究の実施

微細粒子による健康影響等について、大気環境学会の協力の下で、西淀川地域をモデルとして調査研究を実施する。
微細粒子の測定方法については、大気環境学会が環境庁の委託を受けて研究しているところであるが、これを側面から支援し、面的な測定方法について西淀川地域から貢献する立場から、同学会と協力して実施する。

○面的な大気環境測定体制の整備

平成11年度における整備に引き続き、区内全域の面的な大気環境把握のための観測体制の拡充を図る。併せて、区内の面的な大気汚染拡散シュミレーション調査を実施する。

(3)中期的課題の具体化に向けた調査研究
『西淀川道路環境再生プランpart1』の中で提唱している道路環境対策案の中から、当面中期的にみて実現することが望ましい抜本的対策案について、基礎的な調査研究を立ち上げて、今後の対策の進捗状況を見ながら、具体化を図る。

○環境容量に基づく大型車通行規制

持続可能な社会を実現していくためには、環境制約によりクルマ社会をコントロールするシステムを構築していく必要がある。そこで、西淀川地域をモデルに、環境対策上最も効果があると考えられる大型車の通行規制について、環境容量からの交通量の調整を試み、事業化を検討する。
そのために、西淀川地域を面的に把握できる環境監視体制を早急に整備しつつ、大気汚染濃度等に応じた大型車の区内への流入規制(時間規制)を一定期間試行的に実施する。その際、運転者や事業者、住民等にアンケート調査を実施し、対策案への評価を試み、本格的な事業化を準備する。

○阪神間のロードプライシング実験

国道43号及び2号、3号神戸線等への通過交通を、5号湾岸線に迂回させるために、阪神間においてロードプライシングを導入することが可能かどうか、その効果や問題点等を調査研究する。
当面、前出の5号湾岸線における夜間・早朝大型車無料化を試行実験として、そこから得られる情報・経験をもとに具体化する。さらに、将来的には一般道を含めた面的ロードプライシングについても検討、実証実験を行う。

○3号神戸線の廃止

前出の3号神戸線の車線削減及びそれに伴う屋上緑化の試行などと併せて、将来的な同路線の廃止に向けた検討を進める。
兵庫県知事も、震災復興に際して、物流ラインとしての復旧を止むなしとするものの、中長期的には廃止を含めて検討すべきことを示唆している。市街地の環境対策を進めていく中で、必然的に同路線は縮小・廃止の方向へ向かうことができるものと考えられる。その実現可能性をどのように現実化するか、廃止後の活用を含めて、総合的な調査検討を行う。

5.社会実験への応募について

建設省は、平成11年度からの新規事業として、道路に関する施策について「社会的に大きな影響を与える可能性が高い新しい施策の導入に先立ち、場所と期間を限定して施策を実施するとともに、試行結果の評価を行、施策を本格的に実施するか否かの判断をする」社会実験を実施することとしており、その公募を行っている。
本提言で提示した事業メニューの中から、近畿地建のイニシアティブにより大阪府・市及び地元組織との間で協力関係が来年度にも確保できるものについて公募することを提案する。

6.総合対策のプロモーション機能の構築について

西淀川を対象とした道路環境対策を総合的に進めるために、国・自治体の各セクションの担当者や地元関係者、専門家などが検討材料を持合い、地域プランを検討していくことをプロモーションできる中立的機関が必要と考えられる。
欧米におけるパブリック・インボルブメントの推進体制や中心市街地活性化施策の中で提唱されているTMO(街づくり機関)等を参照にしながら、西淀川地域に相応しいプロモーション機関のあり方について、上記社会実験への応募、実施等の中で模索するなかから検討し、具体化していくことが望ましいと考えられる。

おわりに(追加提言について)

今回は、当面の重点課題を提起したが、西淀川地域における道路環境の抜本的な改善という視点からは、さらに種々の対策や事業を積み重ねていく必要がある。
平成11年度、あおぞら財団としは「道路環境再生マスタープラン(第1次)」を策定することを計画している。さらに、本提言のように、情勢に応じて適宜追加提言をまとめ、関係方面に提起していくつもりである。