あおぞら財団 西淀川道路環境再生プラン Part3

西淀川道路環境再生プラン Part3

(2000年3月)

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目次

はじめに
1.これまでの経過
(1)連絡会発足以降に実施された対策
(2)提言Part2以降の動向
(3)尼崎公害裁判地裁判決の反響
2.この間の調査などから
(1)道路公害対策に対する事業者の意識動向
(2)イギリスの交通政策を調査して
3.提 言
(1)提言の考え方
(2)大型貨物自動車の総量削減に向けた社会実験
(3)市街地を通過する大型貨物自動車の迂回を促す社会実験
(4)PM2.5に関する調査研究の実施
4.すぐに着手すべき課題
5.あおぞら財団のこれからの取り組み

はじめに(提言の目的)

この提言は、西淀川公害訴訟における和解条項に基づいて設置された「西淀川地区沿道 環境に関する連絡会」(以下、「連絡会」と略す)における国(建設省)と阪神高速道路公 団との政策協議を推進するために、原告側である西淀川公害患者と家族の会の委託を受け たあおぞら財団が、専門家や地域関係者で設置する西淀川道路環境対策検討会の助言の下 に作成したものです。
これは、これまでに発表してきた提言Part1『地域から考える日本の道路〜西淀川道路 環境再生プランの提言』(1998年7月:参考資料1)と提言Part2『西淀川道路環境再生 プラン〜道路環境対策先導地区形成モデル事業の提言〜』(1999年6月:参考資料2)を 具体化するためのもです。そして、この間の経過や財団独自の調査結果などを踏まえて、 2つの社会実験とPM2.5に関する調査研究の実施に絞り込んで提案しています。これら は、企画調整段階を含めて、2000(平成12)年度予算で着手すべきこととして提起して います。
関係機関や西淀川地域をはじめ道路沿道公害問題に悩まされている関係者のみなさんに お読みいただき、ご意見を賜りますようお願い申し上げます。

1、これまでの経過

(1)連絡会発足以降に実施された対策
①国の対策などに係る経過
西淀川地域の沿道公害対策は、公害訴訟の和解を受けて、5省庁体制による対策として位置付けられています。これまでの経過を紹介します。
1995年7月 5日 西淀川公害訴訟で原告勝訴の判決(健康被害の認定)
1998年7月29日 西淀川公害訴訟和解(連絡会の設置など)
8月 5日 川崎公害訴訟で原告勝訴の判決(現在進行形の被害を認定)
8月 7日 閣僚懇談会での環境庁長官の発言(関係省庁の協力要請)
9月 8日 道路交通環境対策に係る関係省庁局長会議(西淀川・川崎を重点地区に対策を進めることを確認)
10月12日 第1回「連絡会」(国・公団側より当面の対策案の提示)
1999年3月 1日 第2回「連絡会」(原告側より提言Part2の提示)
8月 3日 第3回「連絡会」(提言Part2に関する議論など)
2000年1月31日 尼崎公害訴訟判決(初の差止め判決など)
3月 6日 第1回「西淀川自動車排ガス対策検討調査研究会」(環境庁委託調査。大阪府・大阪市・あおぞら財団が委員として参加)

②これまでに西淀川区及びその周辺で実施・検討されている「対策」

国(建設省)と阪神高速道路公団は、第1回「連絡会」において当面する対策メニューを示しました。
これについて、提言Part2は「具体的対策として先行しているのは『自動車交通の円滑化』であり、大気汚染物質等の削減に資する環境対策はそれを補完する程度の位置付けになっている」と指摘しました。
それを象徴する対策が、歌島橋交差点改造工事と阪神高速道路の尼崎東入路建設計画です。前者は、地下道を建設し、歩行者と自転車は地下を通らせて、地上部は横断歩道を廃止し、植樹帯と歩道・自転車道を削減して右左折レーンを拡張し、自動車の流れを円滑化させようとするものです。後者は、国道43号で西淀川区内を通過する自動車を高速道路に誘引するものですが、入路が建設される周辺地域(尼崎市東本町)では地元の町会や公害患者・家族の会などが強力に反対しているものです。
自動車交通流の円滑化は、結果として新たな交通需要を喚起し、公害対策にはつながらないことは過去の事例や研究結果からも明らかです。
歌島橋交差点のように、人を地下に追いやり、貴重な緑地(御幣島御苑といわれた地区のシンボル的な存在)を潰すやり方は、環境対策の名に価しません。私たちは、JR御幣島駅への地下通路建設には反対しないものの、工事終了後の横断歩道の廃止などは計画を保留し、地元関係者と話し合いを継続することを提案しています。
尼崎東入路の建設についても、近隣地域に迷惑をかけるものを「環境対策」として評価することはできません。先般の尼崎公害訴訟の地裁判決では、現在も続く沿道大気汚染公害により健康被害が認定された住民が最も多く住む地区での計画です。急勾配の高架高速道路への入路が、局所汚染を憎悪させることは避けられません。
国(建設省)・公団が示した対策には国道43号の車線削減も含まれています。しかし、すでに兵庫県側で国道43号訴訟の最高裁判決を受けて実施された沿道対策の延伸に過ぎず、騒音・振動対策の枠内で進められています。

(2)提言Part2以降の動向
①建設省や公団の対応
第3回「連絡会」は、第2回「連絡会」で説明した提言Part2を受けた議論が交わされました。国(建設省)・公団は、既存資料・データの提供などには積極的に応じたものの、社会実験の提案などには具体的な対応策を示しませんでした。
とりわけ、和解条項にも明記された「PM2.5に関する調査研究」については、環境庁の検討状況待ちを理由に具体化していません。先駆的な実地研究を進めることで全国的な対策に寄与するといういうのが、和解の趣旨であったはずです。

②建設省提出資料とその特徴
第3回「連絡会」での原告側の求めに応じて、後に建設省が提出した道路交通センサスや主要交差点等の交通量図のデータは、西淀川区域に絞って整理したものです。このようなデータを提出したことは評価されてしかるべきです。
しかし、提供された資料は、区域を縦断している阪神高速3号神戸線・11号空港線の交通量や、区内各ランプに入る交通量が示されていません。そのため、高速道路からの負荷がわかりにくく、区内交通の全体像を把握するにはきわめて不十分な資料です。また、第2回連絡会で要請した阪神間や大阪府域の物流の実態を知るための既存資料の収集という点でも、交通センサスOD調査の区内分のみの提示にとどまっています。関係自治体や関係省庁(通産省・運輸省・警察庁など)に資料請求しておらず、所管法人である阪神高速道路公団のデータすら取り寄せない姿勢は、閣僚懇談会や5省庁局長会議の了解事項からみるならば不充分といわざるを得ません。
このように限られた資料の範囲内ですが、区域の道路交通の実態をおぼろげながら読み取ることはできます。ここでは、特筆点のみを下記に示します。
*区域の交通は圧倒的に通過交通が多く、大型車の混入率が高いこと
*国道43号が、区外の大型車交通を区内に吸収して、府道大阪池田線を通して、名神高速豊中ICや中国自動車道池田IC方面に流している、またはその逆の役割を果たしていること。
*区内においては、中島工業団地に出入りする大型車交通量が大きく、それらが阪神高速湾岸線ではなく、国道43号を経由して各方面に流出入していること。
*大和田西交差点と歌島橋交差点の交通量負荷の高さが再確認されたことなど。

(3)尼崎公害裁判地裁判決の反響

①尼崎判決の特徴と西淀川対策への意義
尼崎判決は、沿道大気汚染と健康被害の因果関係を認め、現在もその被害が継続しているとして、沿道の原告患者に対する賠償を命じました。また、SPM濃度の一定の水準を示して、大型車の通行を制限すべきとし、初めて差し止めを命じました。これは、司法の立場から、道路行政・環境行政に明確な注文をつけたものです。
この判決は、隣接し、同じ道路が公害の発生源となっている西淀川地域にも大きな意義を持つます。尼崎地域は、国道43号訴訟の最高裁判決を受けた沿道環境対策が完了しています。ここで依然、沿道大気汚染による健康被害が継続していることを認定した判決は、前述のように西淀川地域における国道43号の環境対策が同対策の延伸に過ぎないことから考えると、その限界を指摘していると言えます。

②広がる反響
東京都の石原知事は、尼崎判決の感想を求められ、「公害対策を怠ってきた行政に責任がある」と言及し、ディーゼル車規制の一層の強化を表明しました。運輸省もトラック中心の物流から鉄道輸送への復活させる方針を打出しました。運輸大臣は、地元トラック協会が「迂回などの協力を惜しまない」旨を伝えてきたと、会見において紹介しています。また、日本自動車工業会と石油連盟は、ディーゼル車の排ガス規制を業界側として2年前倒しして達成するとした計画を発表しました(3月16日)。
神戸を拠点とする地方局サンテレビは、尼崎判決後の報道番組の中で、あおぞら財団の提言Part2における「阪神高速道路5号湾岸線における夜間・早朝大型車無料化の社会実験」の提案を紹介し、それに対する阪神高速道路公団側のコメントが「ロードプライシングの導入を検討する」と前向きであったことを報じています。
また、自動車NOx法は(10年間の特別措置法)、来年度までに二酸化窒素(NO2)の環境基準をほとんどの測定局で達成することを目標としながら、まったく改善させることができず、現在見直しが進められています。その中で、尼崎判決や東京都の動向などを踏まえて、SPMを対策に加えること、ロードプライシングの導入を検討することなどが盛り込まれる方向であると報道されています。 �広域に広がるSPMによる大気汚染
尼崎判決は、差止め権行使の判断基準として、SPM一日平均値0.15mg/m3という汚染濃度を提示しました。
『平成10年度大気汚染常時測定局測定結果』(平成11年10月、発行・編集:大阪府公害監視センター)によると、SPMを測定しているのは一般局81/86局、自排局30/38局で、そのうち日平均値0.15mg/m3を超えた日のある局は、一般局4局、自排局5局となっています。また、環境基準(短期評価)をみたしていない測定局は、一般局81.5%、自排局93.3%と高い割合になっています。高濃度汚染地域は郊外に広がっているとみることができます。この背景には、自動車の交通量や渋滞時間が大阪市内より郊外で深刻になっていること、関西国際空港をはじめとする開発動向などを指摘することができます。

③西淀川対策の意義
このように道路公害が広域化する中で、西淀川地域の測定局より高濃度のSPMやNO2の汚染が各地でみられます。しかし、そのことが西淀川地域における公害対策の必要性を弱める理由にはなりません。
西淀川地域は長年、工場排煙や幹線道路からの排ガスにより、高濃度の大気汚染に見舞われてきた地域で、公害病認定患者数は大阪市内で最も多く、NO?やSPMの濃度は、一貫して環境基準を達成できない状況が続いてきました。慢性的な大気汚染を引き起こしている地域の構造を根本的に改造していく必要があります。
また、健康影響という観点からの科学的な分析・評価が必要です。SPMについて言えば、近年学会いが注目し、米国では新たな環境基準が設定されたPM2.5以下の粒子の構成割合等からSPM対策を考えていく必要があります。西淀川公害訴訟の高裁審議の中で明らかになったように、出来島小学校局(自排局)のSPMの構成を分析すると、ディーゼル粒子などのPM2.5の割合が高く、米国のPM2.5に関する環境基準を大きく上回っていることが指摘されています。このような議論を踏まえて、西淀川公害訴訟の和解事項では、PM2.5に関する調査研究を西淀川地域において実施することが盛り込まれました。
さらに言えば、西淀川地域は、かつて激甚な大気汚染公害に見舞われ、強力な被害者・住民運動を背景に、行政と住民の連携で集中的な公害対策を導入して、工場からの大気汚染などを劇的に改善させることに成功しました。この経験は、全国的な公害対策のモデルとなり、今も途上国からの行政関係者の研修において伝えられているところです。今日また、被害者運動が司法を動かし、5省庁と地元自治体の連携で総合的対策を重点的に実施することとなった西淀川と川崎南部の地域において、何らかの成果を見出せないままであったとしたら、わが国の沿道大気汚染対策は絶望的と言わざるを得ません。これらの地域では、道路公害対策や人と環境にやさしい新しい地域  交通のあり方のひとつのモデルを示す任務を負っていると言えます。
とりわけ西淀川地域は、国道43号対策から踏み込んだ沿道大気汚染対策のモデルを示し、尼崎訴訟など各地の道路公害問題の解決に道を示す役割を担っています。 各地の道路公害問題の解決に道を示す役割を担っています。

2.この間の調査などから

(1)道路公害対策に対する事業者の意識動向
①アンケート調査の概要
あおぞら財団では、建設省に対して物流に関する広域の総合調査の実施を提唱しつ  つ、独自に西淀川区内の事業所に対象とするアンケート調査を実施しました。実施に  際して、環境庁と大阪大学交通システム学研究室の協力をいただきました。
西淀川区は、約1500件の製造業事業所が立地し、産業分類(中分類)で武器製造業  を除くすべての業種があります(平成5年・大阪市統計書)。土地利用面積の約24%  は工業施設が占めて(大阪市平均は9%弱、平成4年大阪市土地利用現況調査)、大規  模工場は臨海部に集中し、内陸部は密集した住工混在となっています。臨海部の中島  工業団地は、内陸部の公害発生源型工場などの受け皿となってきましたが、近年は交  通の便が良いことから、流通やリサイクル関連工場が集積しつつあります。
今回のアンケート調査(2000年2月実施)は、区内事業所の約4割にあたる611件  に配布し、405件の有効回答を得ました(有効回答率66.3%、全事業所に対する割合  は約27%)。このうち、中島工業団地については、工業団地協会の全面的なご協力を  いただき、9割近い事業所から回答を得ました。

②アンケートにみる区内事業所の動向
この調査の分析は現在進行中ですが、中間報告として、特徴的なことを以下に紹介します。
<自動車の利用特性>
貨物車は製品・商品配送が70〜80%、乗用車は営業活動、軽自動車は営業活動と  製品配送が同程度に使われている(実車率は40〜60%)。その行き先は、西淀川区内が最も多く、大阪市内や尼崎市など近隣地域へのトリップが多いが、大型貨物車  については60kmを超える長いトリップが多い。試算すると、これら事業所から発生  する窒素酸化物(NOx)の77%は大型車によるものである。
<環境に対する取り組み状況>
環境対策を重要と考えている事業所は4割を占め、環境に対する意識は他の全国調査と比べて低いとは言えない。
交通面での環境に対する取組みは、現状では「自動車の点検・整備」などが主なものであるが、「自動車の台数を減らす」「共同化の推進」など積極的なものも10〜20%が実施している。将来的には、「適正運転の実施」とともに、「ガソリン車への転換」「低公害車への代替」なども関心が高い。物流合理化の取り組みでは、物流コストの低減に直接つながる取り組みは現在も実行度が高い。
<交通需要管理政策への意識>
提言Part2をベースに、TDM(交通需要管理政策)への意識を問うた。交通流の円滑化や沿道への影響緩和の対策には高い賛同が得られている。自動車交通量の削減に関しては、自動車交通の発生を抑制する施策には賛意が高いが、大型車規制や交通容量削減、負担の増加には賛意はおしなべて低い。削減すべき交通の対象としては、車種を問わず、区外から来て通過する交通の削減を支持する意見が多い。
全体として、環境対策に熱心な事業所ほどTDMへの賛意も高く、特に自動車交通量の削減策への賛意が高い。また、大型車の保有台数が多い事業所ほど、大型車の規制への賛意が低い。ただし、大型車混入率が高い府道大阪池田線への対策については、具体的な説明を加えると反対意見が減少する。
1997年度実施の住民アンケート調査の結果と比較した場合、府道大阪池田線での大型車の交通量規制について、住民は半数が賛意を表明しているのに対して、事業所では4分の1と少ない。

③アンケート結果からみた課題
アンケート調査の分析はまだ中間段階ですが、上記の内容から察するに、以下のよ  うなことが言えるのではないでしょうか。
*環境に対する意識の高い事業所では、自動車交通量削減策への賛意も高いことか    ら、事業所の環境保全に対する意識を啓発する取り組みが重要である。   *物流コストの削減には敏感であることから、事業所の物流効率化を進める計画の    策定・実行を促すことが重要である。
*ガソリン車や低公害車への代替についての関心が高まっていることから、これを    促す行政側の支援と、自動車メーカー側の一層の努力が求められていること。
*設問を通じて説明を加えると大型車の通行抑制策に対する反対意見が少なくなる    傾向がみられることから、対話と対策への参加を通じて対策への理解を深め、具    体化することが重要である。

(2)イギリスの交通政策を調査して
①調査の趣旨
交通政策の分野では、イギリスにおける大きな政策転換が注目されています。同国  では、「交通のニューディール」(1998年の白書のタイトル)と称して、需要対応型の道路建設や駐車場建設の政策を転換し、持続可能な交通システムと統合的交通システムの構築を二本柱に、自動車に代わる交通手段として、公共交通システム及び自転車・  歩行者交通の育成を進めています。
あおぞら財団は、昨年9月、同国に視察調査団(団長:西村弘・大阪市立大学助教授)を派遣し、行政機関をはじめ、高速道路沿道のまちづくりを進めるNPOなどに対するヒアリング調査を行いました。
②行政における取り組み
英国では、省庁再編により、1997年6月に環境・交通・地域省が設立され、政策の総合化が進められています。それは、第1に交通手段、交通機関の統合、第2に交通政策と環境政策の統合、そして第3にこれまで縦割り行政の弊害により実質的に困難だった環境政策と土地利用政策の統合、があげられます。
その政策展開においては、各地域の実情に即した独自施策が地方政府によって導き出されるように努力している点が特筆されます。実際に、今回のヒアリング調査からも、ロンドンやオックスフォード市などにおける交通需要マネジメントや駐車政策を中心とした新しい革新的な交通政策の展開において、成果が確認できました。特に、オックスフォード市は「新交通政策」を打ち出し、「車の市内中心部流入規制」や「自転車交通戦略」などにより、走行空間の確保を実現しつつあります。
また、政策策定の過程では、市民との合意形成過程を重視し、成果として政策の住民への浸透を得ている点が注目されました。その背景には、非営利組織活動の影響力  も大きいと考えられます。
③デベロップメント・トラストの取り組み
日本でも、イギリスのグランドワークトラストについては種々の文献で紹介されています。同トラストは、自治体が主導となって組織された行政・市民・企業のパートナーシップで環境再生を推進するNPO(非営利組織)です。一方、近年注目されているデベロップメント・トラストは、都市部における経済や環境の再生をめざして、草の根的な住民運動をベースに組織されているものです。
デベロップメントトラストでは、国、地方自治体からの補助金・助成金をイニシャルキックとしながら、地域で構築した独自の基金を活用することで、地元に経済的効果を還元する活動を行っています。特に失業率の高い地域において、雇用や効率的な職業訓練の機会を提供していることは、好意的に受け入れられています。
その中でも、ノースケンジントン・アメニティ・トラストの取り組みは有名で、西淀川公害患者と家族の会の代表等は1995年に訪問し、活動を交流しています。このNPOは、反対してきた高速道路の建設の代償として、高架下や沿道の政府の土地を無償で利用し、独自の地域環境改善と活性化の取り組みを進めています。これらは、中央政府や地方自治体を刺激し、政策の一層の充実を促しています。
④視察調査のまとめ
今回の訪英調査から、わが国の道路環境政策のあり方を考える上で参考とすべきと考える点を下記に列記します。
1)政府内における各種政策の統合化と環境政策の位置づけの確立
2)地方政府の主体性を育成する仕組みづくり
3)地域における市民の自発的な活動の育成により、政策の活性化、地域社会の活性化(雇用創出など)につなげていく仕組みづくり
なお、大型貨物自動車をめぐる状況は、イギリスなどの欧州諸国と日本での違いも  考慮に入れる必要があります。欧州などでは、城壁で囲まれた都市の伝統もあって、  通過交通を担う幹線道路は市街地の外を通っています。そのため、日本のように、市  街地に幹線道路や高架高速道路が入り込み、大型車によるディーゼル排ガスや騒音・  振動などの公害問題が深刻となっている状況とは事情が違うといえます。日本でも一  般乗用車による道路交通・環境問題は深刻ですが、焦眉の課題は大型車によるディー  ゼル排ガス対策を重点としたTDMの政策です。

3.提 言

(1)提言の考え方
①提言の連続性
ここで提案する対策は、提言Part1、Part2で一貫して提唱してきた社会実験方式で有効な対策を構築しようとする考えを踏襲し、発展させようとするものです。ここでは当面の重点課題に絞り込んで具体化すべきことを示しました。
その内容は、大型貨物自動車の交通量総量の削減を図りつつ、市街地への流入をコントロールすることと、和解事項に明記されながら実行に移されていないPM2.5に関する調査研究の具体化を促すものです。これらの取り組みは、大型貨物自動車に重点をおいたTDM及び調査研究として、提言Part2が提示した「道路環境対策先導地区形成モデル事業」の主柱をなすものと考えています。

②2000(平成12)年度における対策の位置付け
私たちは、2000年度における西淀川地域の道路環境対策について、とりわけ重要な意義があると考えています。
*連絡会発足の時点に国・公団が提示した当面の対策メニューがほぼ着手されており、大気汚染対策を主幹とした次の段階の対策に進むべき年度であること。
*尼崎に隣接し、同じ道路を公害発生源とし、すでに訴訟が和解している西淀川地域において、尼崎判決後の2000年度にどのような対策が展開されるかを全国が注目していること。
*尼崎判決や東京都などの自治体の先導的役割もあって、関係省庁や業界などのディーゼル車対策のメニューが出揃いつつあり、総合的な対策の組み立てが可能となっていること。
*来年(2001年)1月には、再編された省庁体制がスタートし、国土交通省による総合的な交通政策の展開、環境省による環境管理体制の強化が期待されること。
このようなことから、本提言では、2000年度に導入を試み、それを2001年度における本格的な実施につなげていくことを目標にします。

③3つの対策の相乗効果
本提言は、2つの社会実験(大型貨物自動車の総量削減に向けた実験、市街地を通過する大型貨物自動車の迂回を促す実験)とPM2.5に関する疫学調査の実施を提唱しています。
これらは、それぞれバラバラなものではなく、3つの対策を同時に進行させ、データを交換しあうことにより、対策の検証・評価を総合的に行おうとするものです。
前者2つの社会実験が連動しあうものであることは説明を必要としません。後者の疫学調査については、それを併行して進めることにより、前者の実験により実際にどれだけPM2.5の濃度に影響を与えるかなどを検証・評価することができるものと期待されます。従って、これら3つの対策案は不可分なものとして提案するのもです。

(1)大型貨物自動車の総量削減に向けた社会実験
①目的
大型貨物自動車の交通総量を削減するために、阪神地域を通過して運行する事業者 に対して、物流の効率化、発生する交通量の削減に関する計画の作成と行政への提出、計画の実行・自己評価を行うシステムの構築をめざします。また、これらと併せて、事業所の自動車運行に係る自主的な環境管理を促すツールの開発を進めます。

②実施イメージ
<2000年度>
a.大阪府内及び阪神間の事業所における物流の需要・運行状況の総合的調査
b.大阪府内及び阪神間の大型車交通量などの現状調査(社会実験の予備調査)
c.西淀川区内から抽出した事業所における交通量削減計画の作成・試行の実験、経営者に対する事後意識調査、協力事業所の表彰、経験などの紹介。
d.上記取り組みの評価、2001年度の本格的社会実験に向けた課題整理、実験案の研究(シミュレーション調査を含め)
e.業務用車の効率的運行と環境管理を促す「物流コスト&環境管理ツール」の検討(例:目的地別最短ルート、コスト、NOx排出量等を検索できるソフトなど)
f.阪神地域の事業所を対象にした低公害貨物自動車の共同利用ないしレンタル事業 の実現可能性に関する調査と業界などとの企画調整。
g.社会実験実施に向けた関係団体などとの懇談会の開催、啓発・PR
<2001年度>
a.阪神間(神戸市内〜大阪市内)から抽出した事業所による交通量削減計画の作成・試行・評価、経営者に対する事後意識調査、協力事業所の表彰など。
b.各事業所における計画策定・実行に関わるコンサルティング事業の推進
c.「物流コスト・環境管理ツール」の試作・試行
d.阪神地域での低公害貨物自動車の共同利用ないしレンタル事業の試行
e.大型車交通量調査の実施による削減計画の検証
f.取組みの評価、次年度に向けた課題整理、関係団体との意見調整、PR
<2002年度>
a.大阪府内と阪神間の一定規模以上の事業所による交通量削減計画の作成・試行・ 評価と経営者に対する事後意識調査、協力事業所の表彰など
b.各事業所における計画策定・実行に関わるコンサルティング事業の推進
c.「物流コスト・環境管理ツール」の評価と改良、試行、普及
d.大型車交通量調査の実施による削減計画の検証、上記取り組みの評価、中間総括による次年度以降の課題整理
e. 「ベストプラクティス」の選定、事例の情報発信
<2003年度以降>
*事業の恒常的な実施に向けて、行政による支援方策の整備を進めつつ、業界における経験交流や計画の共同実施などを推進する。

(2)市街地を通過する大型貨物自動車の迂回を促す社会実験
①目的
局地汚染対策として、阪神間の大型貨物自動車の通行を阪神高速5号湾岸線にシフトさせて、市街地への通過を削減させます。そのための様々な形態のロードプライシングを試行し、より有効な実施方策を検証します。また、交通量の削減と併行して、阪神高速3号神戸線の将来的なあり方を展望した検討を推進します。

②実施イメージ
<2000年度>
a.社会実験案の研究(シミュレーション調査を含め)
b.社会実験実施に向けた関係団体・自治体などとの懇談会の開催、PR
c.阪神高速3号神戸線における車線規制(尼崎〜西淀川の3車線区間での1車線
を通行規制)の試行と影響調査
<2001年度>
a. 阪神高速5号湾岸線への大型車誘導に向けたロードプライシング実験
※通年で、様々な料金(夜間早朝無料化を含め)と期間を設定
b. 国道43号や阪神高速3号神戸線での様々な通行規制等の試行
※低公害車優先レーン(排ガス規制適合車ワッペン等で識別)、車線規制やナンバー規制、時間規制、3号神戸線の屋上緑化など
c. 影響調査の実施(交通量の変化、環境測定値の変化など)
d. 住民・事業者・道路利用者などの意識調査の実施
<2002年度>
a. 実験解除後のフォローアップ調査(交通量や環境測定値の変化等の調査)
b. 2001年度実験の評価と2003年度実験の検討と企画調整、周知徹底
c. 阪神高速3号の将来のあり方に関する提言コンペの実施
<2003年度>
a. 過去2年間の実験を踏まえたロードプライシング実験の再実施と評価
b. ロードプライシング事業の本格的導入の検討、関係機関との協議
c. 阪神高速3号神戸線及び環状線を活用した「ツール・ド・ハンシン」の2008年実施の検討
※「ツール・ド・ハンシン」
傘木(あおぞら財団)が、震災復興と環境再生を象徴する国際的なイベントとして提案 しているもの。阪神高速神戸線を廃止(震災直後に兵庫県知事が長期目標として言明した) して、新しいあり方を模索する社会実験でもある。神戸・六甲アイランドを起点・終点にして、環状線を一回りするルートで国際的な自転車レースを開催する企画。大阪オリンピックに併せて、またはそれが誘致できなかった場合はそれに代わるものとして、打ち出す。

(3)PM2.5に関する調査研究の実施
①目的
和解の趣旨を踏まえて、PM2.5に関する調査研究を西淀川地域において実施し、わが国におけるSPM研究の進展に寄与します。
②実施イメージ
<2000年度>
a.大気環境学会・環境庁・自治体・地元医師会を交えた懇談会の実施、PR
b.測定調査の手法の検討、実地測定所の設置と観測の着手
c.疫学調査の実施に向けた予備調査(既存資料の分析など)と手法の検討
<2001年度>
a.PM2.5の地域的な汚染動向に関する調査
※区内数ヶ所に実測地点を設定して通年調査を実施(3〜5年の継続調査)
b. 疫学調査の開始(3〜5年間の継続調査)
<2002年度>
a.2001年度調査の継続(2002年度までの計3ヵ年実施)
b.2001年度調査の整理と評価(調査手法の妥当性の評価を含め)
c.測定調査と疫学調査の比較研究
<2003年度>
*上記査研究の中間報告に基づく国際ワークショップの開催

4.すぐに着手すべき課題

これらの提案を実施に移すためには、今すぐ取りかかるべき課題が山積しています。少 なくとも下記の事項について、すみやかな着手が求められています。

(1)資料の提出に関して
①新設大気汚染測定所のデータ公表
*建設省と公団が和解を受けて設置した大気汚染測定局の全データを公表すること。
②交通量調査データの追加
*すでに提出してきている「主要交差点等の交通量図」について、時間別データ、 区域周辺データ、阪神高速道路データ等を追加すること。
③ディーゼル車の交通量削減方策に関わる既存調査研究のレビューと資料提出
*各省庁や自治体、関係団体、学会・調査機関などの資料の収集・整理

(2)社会実験の導入に向けて
①2001年度予算に向けた懇談会の実施
*大阪府・大阪市、兵庫県・神戸市及び阪神間の自治体を含めて、社会実験の取り組みについての意思疎通を図ること。
②社会実験導入に向けた関係機関・団体等への打診・懇談会の実施
*関係省庁との企画調整、業界団体(経済団体やトラック協会等)、自動車利用者団体(JAF等)との懇談

(3)現行対策に対する認識の一致
①歌島橋交差点の改造工事の性格についての確認
*地上部計画は保留状態であることの再確認。同工事に関する区民への周知(工事内容を説明した看板の設置や説明会の開催等)
②現行対策の実施状況とその評価に関する見解の意見交換
*光触媒実験や遮音壁設置など対策の効果に関するデータ公開と評価。

5.あおぞら財団のこれからの取り組み

(1)西淀川地域の環境再生に向けたあおぞら財団の提案
このたび、あおぞら財団は、西淀川地域の環境再生に向けた提案(第1次)をまとめした。これは、環境やまちづくりの活動に関心を持つ地域関係者とともに進める活動の提案書となっています。なかでも「5つ行動計画」(1. 新世代の交通、2. 健康の庭、3. 緑でつなぐまち、4. 海と川の交わる島、5. フィールドミュージアム)は、参加型の調査・学習と実践の活動(Step1)と実践的な市民提言づくりの活動(Step2)を繰り返しながら、環境再生の活動を広め、政策を実現していきたいと考えています。

(2)行動計画�「新世代の交通」の概要
①道路公害・環境対策の推進
Step1:道路公害対策の調査・提言活動
*区内の道路環境や道路交通に関する各種調査を実施し、区民に知らせる活動
*行政・市民・企業がともに参加して対策のあり方を実験的に検証する活動
Step2:新しい時代に対応した道路づくりの提言
*Step1の社会実験の成果を踏まえた新たな道路環境対策の提言づくり
②沿道まちづくりの推進
Step1:沿道地域の環境・まちづくり調査と対話の活動
*沿道地域の環境や土地利用、住民要求などの調査を住民とともに進めながら、まづくりのあり方について対話する活動
Step2:沿道まちづくり事業への支援
*沿道法を活用したまちづくりの取組みをお手伝いする活動
③人と環境にやさしい地域交通づくり
Step1:環境面からの交通学習活動の展開
*地域の子どもやお年寄りなどが参加する地域交通に関する調査活動
*交通問題と環境や安全について考える総合的な学習プログラムの開発と試行
*大野川緑道の電気カートや自転車通勤や健康ウォークなどの社会実験活動
Step2:新交通体系の市民提言づくり
*Step1を踏まえた新しい交通体系についての学習・対話と提言づくりの活動

(3)2000年度の重点的な活動
このような中期的な行動計画を踏まえて、2000年度においては、1.道路公害対策の前進にむけた各種提言・調査活動、2.市民参加による道路の環境診断マップづくりの活動、3. 沿道法を活用したまちづくりへの地域への働きかけ、4. 環境教育関係者とともに交通環境学習プログラムの開発研究を進めることを計画しています。地域関係者や関係各機関のご理解とご協力をお願い申し上げます。