あおぞら財団 自動車環境税制度の導入に対する意見
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自動車環境税制度の導入に対する意見

1999年8月11日

環境庁大気保全局企画課 御中

傘木 宏夫(かさぎひろお)
(財)公害地域再生センター(あおぞら財団)研究主任

1.『自動車環境税制検討会報告書』について

同報告書を拝見しました。自動車交通公害が深刻な状況にある現状や諸外国の動向を踏まえ、各界の意見を十分に配慮した上で、わが国において導入可能な自動車環境税制について提起したものとして、高く評価したいと思います。

先の運輸政策審議会答申については、地球温暖化防止のみに限定した自動車税制の「グリーン化」を提唱しており、足元である地域の環境・公害問題の改善から進めていくという地球環境保全の基本から外れたものとして失望していました。その点、本報告書の提言は各地で深刻になっている自動車大気汚染問題に立ち向かおうとするものであり、大いに歓迎します。

各論については、異論を唱えたい箇所もありますが、深刻な自動車公害に対する税制面からの抜本的対策は急務であると考えている立場にある私たちとしては、小異を捨て、まずこうした枠組み導入し、環境保全を願う国民の世論・運動の動員によって、これをより整合性があり、充実したものへと押し上げていくことが重要と考えます。

環境庁におかれましては、関係業界等の抵抗に屈することなく、本税制の実現に向けて最善の努力を払っていただきたく存じます。その際、環境保全を願う国民の運動と広く結びつき、連携して、国民世論を喚起することが肝要であることを一言申し上げます。

2.留意願いたい事項について

汚染者費用負担の原則を踏まえたものであること
環境税制に類似した先行例としては「公害健康被害補償制度」があります。これは、各事業所の大気汚染物質の排出量に応じて賦課金を徴収するものです。これにより、各企業は賦課金額を低く抑えるために脱硫装置等の公害防止設備の整備に急ぎ、これが硫黄酸化物による大気汚染を大幅に改善させたことは周知のとおりです。自動車公害の現状からすると、その主役は貨物自動車にあることは明瞭であり、大気汚染物質の排出量に応じた経済的措置は当然であり、不可欠です。貨物自動車による流通に依存している事業者・業界は、製造業者がそうしてきたように、大気汚染の原因者であることを自覚し、その責任による負担を負うべきです。この点をあいまいにし、結果的に一般マイカー利用者に広く負担させることになれば、これは不正義であり、国民の不公平感を高めることになります。営業車やディーゼル油が優遇されてきた従来のあり方をこそ転換する必要があります。

また、報告書では、自動車大気汚染が深刻な地域を区分した税制の導入の必要性を認めつつ、結論としては全国規模の適応ということにしています。これも、ロードプライシング等の経済的手法により都市部への過集中を緩和しようとする国際的な交通需要管理の流れにそぐわず、地域的な不公平感を増幅する恐れがあります。もっと突っ込んだ検討が必要だと考えます。

の使途のグリーン化について
本報告書の提言は、現行の税制の「グリーン化」を進めるものであり、税収の使い道を「グリーン化」するものではありません。この点は、きわめて不十分であり、期待はずれです。

環境保全のためにと税金を収めた国民にとっては、その税金が結果的には道路建設財源となってしまうとしたらどうでしょうか。近年は、環境対策の名目で高速道路や幹線道路網の整備を進めるという傾向が顕著ですから、特にこの点は注意を喚起したいと思います。本報告書の提言が、現行の税制による道路特定財源についてなんら批判的な分析を行っていないことは残念です。

私は、税制のグリーン化は、使い道のグリーン化と併せて提示され、議論されるべきだと考えています。大気汚染と地球温暖化に対応した税制ですから、第1に大気汚染による健康や生活への被害を救済するために、第2に被害の未然防止のために、第3に大気汚染物質や温暖化効果ガスの浄化・吸収能力がある都市林の整備等に使われるべきです。これらの枠組みは、すでに公害健康被害補償予防法によって位置付けられているものです。しかし、財源が脆弱であり、現実にはきわめて不十分なものとなっています。同法の枠組みを活用し、改良・拡充する観点から、自動車関連税制のグリーン化を進めることを提言します。

自動車環境アセスメントについて
本報告書では、税率の評価方法として3つの案を検討しています。そのうち私は、第1案としてしめされた「形式による評価」は最も妥当性のあるものと考えています。しかし、本報告書では「運用までに煩雑な作業が必要」と指摘しています。

その点で提案したいのは、環境版の「自動車アセスメント」の実施についてです。現在、「自動車アセスメント」は自動車安全性の観点から通産省の外郭団体が実施し、公表していますが、メーカーや消費者はこの評価結果に強い関心を抱いています。このような取組みを先行的に実施し、評価方法についてのノウハウを蓄積させることで、自動車環境税についても理解が広まり、結果的には税制の導入をスムーズにするのではないかと考えています。税制には直接関係のないことですが、付言しておきます。

以上