あおぞら財団 環境基本計画見直しに関する意見
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環境基本計画見直しに関する意見

2005年9月15日 経済産業省別館
環境基本計画見直しに係る中央環境審議会総合政策部会委員との意見交換会
環境基本計画見直しに関する意見
あおぞら財団(財団法人公害地域再生センター) 鎗山善理子

あおぞら財団は公害地域の再生、環境再生に
被害者・住民の立場からとりくむNPOです

・財団法人公害地域再生センターは、大阪・西淀川大気汚染公害裁判の企業との和解金の一部を基金にして、公害患者たちが設立したNPOです。公害地域の再生をめざして活動しています。
・具体的には、都市の大気汚染問題の改善にむけた道路環境対策の提言づくりやCO2削減に効果のあるエコドライブの実践、公害の経験を国内のみならず海外にも広く伝えていくこと、次の世代を担う子どもたちへの公害・環境学習の実施、高齢化する公害患者たちの生きがいづくりなどに取り組んでいます。
・こうした活動に、公害被害者や市民と一緒に取り組んでいる立場から意見を述べます。

今こそ「環境再生」の理念を環境基本計画に

・環境基本計画に「環境再生」の理念をしっかりと位置づけてください。公害や環境破壊によって被害を受けた地域は、自然環境の再生だけではなく、人々の暮らしやコミュニティ、アメニティの再生が必要であり、そのことは環境の世紀といわれる21世紀の重要課題の一つです。
・公害地域における住民たちの再生活動は、大阪・西淀川をはじめ、川崎、倉敷、尼崎、名古屋と全国的に展開してきています。しかし、それらの取り組みが一層前進するためには、環境や地域の再生が環境基本計画や環境政策に正しく位置づけられるとともに、行政、企業、市民などさまざまな主体の協働した取り組みが不可欠であり、そうした参画の仕組みづくりが必要です。

生命育む都市づくりを ~人と環境にやさしい持続可能な交通~

■とりわけ自動車交通問題は緊急課題
・「第三次環境基本計画策定に向けた考え方 計画策定に向けた中間とりまとめ」(以下、「中間とりまとめ」)の「環境の現状」には、都市がかかえる公害・環境問題についてまったく触れられていません。
・しかし、都市の環境問題は、ヒートアイランド問題、緑や水辺の減少、無秩序な高層ビルの乱立など、深刻です。とりわけ自動車に過度に依存した交通システムの転換をどう転換させていくのか、自動車交通問題をどう解決するかが緊急課題です。
・都市ではぜん息患者が増え続けています。わけても子どもたちのぜん息が全国平均で3%を超え、東京や大阪などの大都市では6%を超えてきています(学校保健統計)。依然として、自動車排ガスによる健康被害の根絶は環境政策上の緊急課題なのです。

■自動車交通の総量削減をすすめ、「クルマ優先」から「人優先」の交通政策へ
・対策については、単体規制も大事ですが、同時に自動車交通の総量をどうやって削減していくかも最優先課題であることを環境基本計画で明確にしてください。
・現行の環境基本計画では「環境への負荷の少ない交通に向けた取組」を戦略的プログラムの一つにかかげるなど、交通問題を大きな課題としてあげていることがわかります。しかし、その中身は、「交通流の円滑化を図ります。」「環状道路やバイパスの整備、交差点改良等の道路構造の改善等を行います。」とあります。これでは、環境対策の名のもとに新たな道路建設の推進を可能とするものです。新たな道路建設は、さらなる交通量の増加をまねき、都市のアメニティを喪失させるなど、都市環境を悪化させてきたことは、過去の事実を見れば明らかです。

・重要なのは、基本的な発想を「自動車交通優先から人と環境に優しい交通に」大きく転換することです。例えば、「交差点改良」。だれにとっての、何にとっての改良かによってずいぶん違うということは、私はまさに今、毎日、実感しています。あおぞら財団の事務所の目の前は、1日の自動車通行量6万台以上という、大きな五差路の交差点があります。この交差点は近くの地下にある鉄道駅からつながる地下道を整備したことを理由に、地上の横断歩道を撤去する計画を国土交通省は打ち出しました。交通流をよくすることが環境対策になるという理由で、工事は進められました。横断歩道を撤去してしまうと、区役所や図書館、銀行に行くために、地下を通らなければならない。高齢者や障害者、子どもをかかえたお母さんはたちまち困ってしまいます。撤去前から住民たちは反対の声をあげていましたが、まったく国土交通省には聞き入れられませんでした。そして、8月はじめには、1期工事が終了したということで、5つある横断歩道のうち、2つが撤去されました。
・このことは「環境対策」といっても、その方策は「クルマ優先」なのか「人と環境優先」なのか、によってずいぶん異なるということのあらわれではないでしょうか。
・さらに、住民がこうした重要なまちづくり計画に参加する仕組みがないことも問題です。「人と環境にやさしい持続可能な交通」の実現には、住民が計画段階から参加すること不可欠です。

■ハード面の対策だけではなく、ソフト面も~中小の事業所と取り組むエコドライブ
・自動車交通問題の解決に向けては、道路構造の改善や低公害車の普及など、ハード面の対策だけでは不十分で、そうした環境に優しい技術、対策を適切に使いこなすソフト面の対策が必要です。あおぞら財団は、今、その一つとして中小の運輸業者が参加するエコドライブの普及事業をすすめてきました。
・エコドライブとは「環境にやさしい安全な運転」のことで、具体的には、無用なアイドリングをやめる、無駄な空ぶかしをやめる、急発進、急加速はやめる、などです。経済的に余裕のない中小事業所は大変な財政状況におかれており、その上で環境対策に取り組むことには高いハードルがあります。しかし、運輸現場の多くは中小業者によって担われており、運輸部門でのCO2削減やNO2削減を前進させるためには、中小事業者のなかでエコドライブを普及させることが必要であり、同時にそうした取り組みは、事業所にとっても、経費削減など大きなメリットがあります。
・リベラNo.84に詳しく書いていますが、4ページの最初に一石二鳥ならぬ「一石四鳥の効果」とあります。「ガソリンの消費量が減ることによる経済的効果」「CO2やNOxの排出量削減による環境対策」「ゆとりをもった安全運転」「環境を大切にしようとする心の芽生え」の4つです。
・とくに、最後の「心」の部分に注目していただきたいと思います。ドライバーはじめ事業所あげてエコドライブに取り組む社員のみなさん一人一人の人格と行動の変化をうながすエコドライブは、大きな意義があると思います。同じくリベラNo.84には、熱意をもってエコドライブに取り組んだ方々の声を紹介しています。地球温暖化防止、排気ガス削減に取り組んでいるという誇り、子どもや家族のためにエコドライブに取り組もうとする気持ち、ドライバーが財産だとわかったと笑う社長さん、エコドライブの普及事業はこうした一人一人の意識変化をうながす取り組みなのです。

・あおぞら財団では、2年間の実験期間を経て、今年は40社300台をこえるトラックを対象に事業を広げます。この事業は運輸業界、民間企業、NPOなどが協力して実施するものです。これまでの交通政策はともすれば行政主導型でおこなわれてきましたが、こうした民間からの自発的な取り組みが、地域の交通問題の解決に向けて大きな道を開いていくと思います。交通問題は地域によって、抱えている現状や課題が異なります。それぞれの地域の実情にあわせた対策をおこなっていくには、行政だけではなく地域で生活し働くさまざまな主体が参加することが必要であり、そうした参加を可能とする仕組みづくりが求められています。環境基本計画には、自動車交通対策、引いては都市環境対策の一つとして、エコドライブの普及などソフト面での対策を正しく位置づけるとともに、こうした取り組みをさまざまな主体が協働して実施する仕組みづくりも積極的に位置づけていただきたいと思います。

日本の公害経験を21世紀にいかしていくために

■公害・環境問題資料は人類の共有財産
・日本の今の環境行政は、それまでおこなわれてきた公害行政の上になりたっているはずです。私たちが「公害」という過ちを二度と繰り返さないためには、過去に学ぶことが大切であり、それは、環境政策の重要な原点の一つです。
・ところが「中間とりまとめ」では、過去そして現在の公害問題がまったく取り上げられていません。ぜひ、この点はしっかりと明示してほしいと思います。
・過去に学ぶという点では、日本の公害・環境問題を歴史的に正しく認識し、その知見を今そして未来にいかしていくために、歴史の証人である記録資料を適切に保存し、活用していかなければなりません。
・現行の環境基本計画では、「環境情報の整備と提供」のところで「公害・環境問題に係る資料を適正に保存し、散逸を防ぐよう努めます。」とあります。しかし、一口に資料といってもその所蔵者は行政だけではなく、住民運動団体、科学者、弁護士、企業など、多岐にわたっています。これらの資料は一堂にまとめてしまうのではなく、各主体、各地域で所有しながらも資料情報を一元化できるネットワークを構築することによって、有用な手立てを講じることができるのではないでしょうか。

・リベラNo.81では、水俣病関連資料の保存について紹介しておりますが、この点、大気汚染公害については、まったく手付かずになっています。資料は失われてしまうと二度と戻りません。時間がたつにつれて、資料の散逸、滅失の危機が迫ってきますので、早急な対策が必要です。
・あおぞら財団では、「西淀川地域資料室」を開設し、西淀川大気汚染公害に関する住民運動や裁判記録を中心に、地域の資料などを保存し、整理しています。来年には「西淀川・公害と環境資料館」と名称を変更し、あらたに発足させます。より多くの人が資料を活用できるよう、準備を進めています。しかし、これはすべて自主事業のため、財政的な限界があります。本来、こうした公益性の高い事業は、国や地方自治体が民間の力を支援する形で実施されるべきだと思います。

■公害から学ぶ姿勢を環境学習に
・さらに、公害の経験を伝えるのは資料だけではありません。あおぞら財団では、西淀川公害患者と家族の会と協力して、公害被害者の語り部活動を区内の学校などで実施しています。実際に公害によって、家族をうばわれ、仕事をなくし、子どもを失った人たちの生々しい語りは、子どもたちの胸に響いていることが、子どもたちの表情や感想文などからわかります。公害の被害の実態をありのまま知ることが、子供たちが環境の大切さ、資源の大切さ、人権の大切さに気づく大きなきっかけとなっています。
・ですから、環境学習、環境教育の推進といった分野においても、過去に学ぶ姿勢がまず示されなければならないと思います。

■世界の人々とともに公害・環境問題に取り組むことは日本の役目
・また、日本の公害経験は、いま、中国や韓国をはじめとするアジアの人々から強い関心が寄せられています。あおぞら財団では、被害者団体と一緒にアジアの環境NGOとの交流活動を重ねてきましたし、最近では、韓国の司法修習生の受入や、中国で市民のための法律援助をしているNGOとの交流があります。みなさん、日本が公害をいかに克服してきたのかを、たんに技術的な側面からではなく、むしろ、住民運動や公害裁判が果たした役割や、科学者や医者、弁護士、被害者の連携のあり方、といった側面から大いに学ぼうとされています。
・こうしたニーズの高まりに、日本としては応えていく役目があるはずです。このことは「中間とりまとめ」での「国際的な戦略を持った取組の強化」で述べられていることを具体化するものです。

・「中間とりまとめ」では「環境に関わる情報が豊富に存在し、十分に活用される必要がある。そのためには、国民や民間の各種組織が有する情報と行政が有する情報がお互いにとって活用しやすい状態にある必要がある」とあります。まさにこのとおりですが、ここで言う「情報」の中には、環境の現況を示すデータだけではなく、公害問題資料のような歴史的に重要な記録資料や人びとの体験、記憶、語り、など、次世代や海外に伝承・発信していくべき資料や情報も含まれていると思いますので、そのことについては、きちんと明記してほしいと思います。

公害による健康被害者の救済と公害の予防は環境行政の原点

・最後に、公害による健康被害の問題について述べます。公害によって被害を受けた人たちは、一生、その被害と付き合っていかなければなりません。公害被害者の救済と公害の予防は、環境行政の原点です。
・「中間とりまとめ」では、こうした環境保健対策や公害予防はどこに位置づけられるのでしょうか?これからの議論なのだと思いますが、公害被害を受ける前のもとの生活に戻れない人は日本中にたくさんいます。それは補償法において認定を受けた人という狭い意味ではなく、認定を受けていなくても、都市の大気汚染という公害によって健康に被害を受けている人たちも含まれます。
・また、公害被害者は高齢化が進むにつれて、生活上の新たな困難が生じてきています。こうした被害者のケアを対策として実行することは、環境省の役目であり、環境基本計画では、重点事項としてしっかり位置づける必要があると思います。

以上