高齢患者のための園芸教室
あおぞら財団の活動が書籍で紹介されています
【1】書籍の紹介:日本における園芸療法の実際 30の実践例を中心に
目次
発行日:平成14年11月10日 編集・発行:㈱グリーン情報(Tel:052-835-7022) 定価:4,800円+税
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【2】掲載内容紹介:以下の原稿が掲載されています。ご参照ください。
園芸療法を活用したまちづくり-あおぞら財団の取り組み- 財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)矢羽田 薫 はじめに (財)公害地域再生センター(愛称:あおぞら財団)では、設立当初1)より、身近な自然とふれあったり、花や植物を育てるなど、自然環境との積極的な関わりを通じて、大気汚染による公害病認定患者やぜん息児童の健康回復・生きがいづくりにつながるような取り組みをすすめようと、園芸療法を活用したリハビリテーション活動についての研究や実践をおこなってきた。活動の検討・実施にあたっては、大阪府立羽曳野病院、保健・医療・福祉関係者やセラピスト、造園などさまざまな領域の専門家や多くのボランティアのご協力を得た。 5年間の調査研究(環境省委託)を経て、現在は、大阪市西淀川区にあるミニデイサービスハウスの庭の一角にて、園芸療法を活用したリハビリテーション活動を実施している。以下では、これまでの取り組みを紹介し、園芸療法を活用したまちづくり活動における課題と今後のあり方を述べる。
1.活動の背景 この取り組みでは、主に公害病患者や施設入院療養中の難治性気管支ぜん息児を対象としている。公害病の現存被認定者(2001年3月末現在、59415人)のうち、60歳以上が占める割合は39.6%(同年3月末現在)となっている。こうしたことから、今後加齢する患者がかかえる発作の不安を和らげ、少しでも生きる喜びを享受できるような療養生活のあり方を検討し、リハビリテーション及び福祉面での対応、生きがいづくりなどを踏まえた保健福祉施策を構築していくことが求められている。 また、気管支ぜん息は治療論的には多因子性疾患であり、環境整備、鍛錬、心理的配慮を含めた総合治療が必要である2)。とりわけ難治性ぜん息児の治療においては、自信(生きがい)の回復がきわめて重要である。この点で植物の栽培、収穫など「生命」の過程と直接関与を持つ、園芸作業が難治性気管支ぜん息に治療的に有効であることが強く推測される。
2.活動の概要 (1)園芸療法の活用条件等の検討、導入のための基礎調査(1996年度実施) 調査研究の実施にあたっては、年度別に重点目標、実施内容および評価方法を設定した(表1)。 専門委員会からは、実施に呼吸器患者がそのような活動に従事した場合の問題点(植物によるアレルギーなどの阻害要因)や課題、臨床上の所見などを整理し、セラピストや医療スタッフ、ボランティア等の関わり方などを実証的に検討する必要があるとの提起をうけた。 表1 「園芸療法を活用した環境保健事業に関する調査研究」の年度別事業概要
※注)院内:大阪府立羽曳野病院内、地域:大阪・西淀川地域
(2)各プログラムの実施概要 ①小児対象園芸療法プログラム(1997~2001年度実施) 調査研究初年度(1996年)の成果をうけて、呼吸器疾患の治療・研究では広域的な拠点となっている、大阪府立羽曳野病院(以下、羽曳野病院)に長期入院療養中の難治性気管支ぜん息児(小学生および中学生グループ)を対象に、同院敷地内を使用して園芸療法プログラムを実施した。 ②成人対象園芸療法プログラム(1997年度実施) 羽曳野病院において、成人の呼吸器疾患患者を対象としたプログラムの立ち上げ方法を検討し、プログラムを実施した。患者の作業条件を考慮して、病棟ロビーを使用した。記録・観察方法については、共同研究者である看護大学生が、各自の受け持ち患者の言動について記録をおこない、療養生活に及ぼす効果を具体的に把握した。 ③公害病患者対象園芸療法プログラム(1999年度~現在) 西淀川区内在住で、歩行等、日常生活動作がある程度可能なものの、通院治療が生活の主となっている公害病患者を対象とし、週1回約90分の園芸活動(表2)を、地域内の児童遊園「ふくの庭」3)で実施した。 表2 公害病認定患者対象園芸療法プログラムの活動内容(2000年度後期に実施)
表3 活動記録の一例(1999年度公害病認定患者対象園芸療法プログラム)
表4 個人活動評価シート(1999年度以降の公害病患者を対象としたプログラムで使用)
(3)実践者育成講座の開催(1998~2000年度実施) 地域において園芸療法を活用したリハビリテーション活動をおこなう場合、保健・医療・福祉・環境教育・園芸といった様々な分野の専門家および関係者の協力が欠かせない。こうした環境保健活動の担い手を育成し、事業への協力者及び理解者を増やすことを目的として、将来活動に携わる実践者のための育成講座を開催した。講座は、羽曳野病院における園芸療法の実践の場を活用しながら、専門家による講義と、園芸療法を実践するうえで最低限必要な園芸に関する基礎知識を学ぶための実習を柱とした内容とした(表5)。 また、講座終了後には、研修会の講義録を元に、呼吸器疾患患者を対象にした園芸療法プログラム実践者育成のためのテキストを作成した。 表5 「園芸を通じて人と自然を考える」園芸療法を活用したリハビリテーション活動の実践者育成講座 (全6回)カリキュラム(1998年度実施)
3.活動の成果等 (1)「場」の持つ意味について 本活動では、場所の確保とその維持管理が前提条件であり重要であったため、多くの労力や資金を費やしたが、活動回数を重ねるにつれてその割合は減少した。事業が知られ定着するにしたがって、協力関係が広がってきた背景がある。 また、対象者が、時間外にも園芸作業の場所を気にかけているようすが報告された。対象者にとってその場が特別の意味を持つことを示唆している。プログラムが定着し、そこで人が集うことで、土も育ち、花・木がいきいきとし、そのことがまた人を引き寄せ、感化して、場を育てる。このような過程を確認することができた。園芸療法を活用したリハビリテーションを進める上で、「場」の持つ意味は、プログラム用地という前提条件としてだけではなく、場の成長(自然環境の回復・創造や自然環境を介在させた人と人の関係など)にともなって、公害病患者やぜん息患児と自然環境の豊かな交流を育てるという意味でも重要であることが認識された。 (2)プログラムについて プログラムの設計については、病院というサポート体制の面で安心できる環境において予備調査をおこなえた結果、次の2年間の地域展開において周到な準備が可能となった。また、経験を積んだ園芸療法士によるプログラム設計と運営により、当初阻害要因として懸念した作業環境や植物アレルギー等の問題は特に発生しなかった。 プログラムの記録については、今後様々な地域や施設で実施する際にも参考となる記録方法として定着しうるものになったと考えられる。特に、(特)公害健康被害補償予防協会発行の『包括的呼吸リハビリテーション~チーム医療のためのマニュアル~』を活用したことが有益であった。評価会議においても、有効な記録方法であり、評価する際に多いに参考になるとの意見を得た。 (3)人材育成について 担い手育成講座のカリキュラムは、呼吸器専門医やケースワーカー、福祉関係者、環境問題やまちづくりの専門家などを交えたユニークな内容となった。今回のような健康づくり・生きがいづくり・地域づくりの分野に関わって、人と自然の豊かな関わりの意義とその進め方をコーディネートする担い手を育成する講座は、今後の実践においても大いに役立つものと考えられる。 (4)園芸療法士の確保について 園芸療法とは、たんに人が園芸を楽しめば癒されるということを言うのではなく、セラピストの介在によってはじめて成立し、患者らの療養生活にプラスの効果を発揮するものである。本事業では、園芸療法士や優秀なボランティアスタッフに恵まれて成功することができた。しかし、このような取り組みが各地に広がっていくためには、その担い手となる人材の育成が欠かせない。また、専門能力を持つスタッフに対して正当な報酬を確保することも重要な案件である。 さらに、このような取り組みにおいては、医療機関や公害患者、地域関係者などと調整し、資金と人材を調達できるコーディネーターが必要である。 (5)各プログラムの評価について ①小児プログラム 入院患児のプログラムは、病棟や養護学校の積極的な協力により、運営とデータ蓄積の両面で順調に進行できた。セラピスト及び臨床サイドの双方から、本プログラムに対してQOLの観点からの積極的な意義を認める評価が得られた。さらに症例を積み重ねていくことで、より具体的な療養上の効果、方法論などを明らかにしていくことができると考えられる。 なお、在宅の患児の場合、病棟で生活する患児とはさまざまな点において条件が異なることから、地域で展開する場合には慎重な準備が必要になると考えられる。 本プログラムでは、病院によるアンケート調査が実施され、患児の反応を具体的に把握することができた。この調査結果に関するポスター報告が、第17回難治性喘息アレルギー学会(2000年5月、盛岡市)において会長賞を受賞するなど、社会的な評価が広がった。また、第19回の同学会(2002年5月、大阪市)では、報告がおこなわれた(一般演題「長期単独入院の幼児に園芸療法を試みて」)。
②公害病認定患者対象プログラム 多くの公害病認定患者は、一人暮しが増え、身体機能の低下などによって周囲からの援護を求めている。社会一般の高齢者も同様の傾向であることは言うまでもないが、いつ発作によって命を奪われるかもわからないという不安を抱えながら生きている患者たちにとって、一人暮らしや身体機能の低下は非常に深刻な問題と受けとめられている。そのような中で、グループによる園芸活動の場は、参加している患者たちにとって大きな励ましとなったことは幸いであった。 4.今後の課題 現行の公害健康被害補償予防法(以下、公健法)に基づく環境保健事業は、1987(昭和62)年9月の一部改正の趣旨をふまえ、健康被害の未然防止に重点をおいた体系となっており、ぜん息予防などの健康回復事業も児童等を対象にしている。大気汚染による公害やライフスタイルの変化など、複雑な要因を背景に、わが国のぜん息児童は増えつづけており、大きな問題となっているといえよう。本プログラムにたずさわった医師らからの指摘にもあったが、子どもたちが自然との関わりを失ってきていることに、その背景があるといわれており、園芸活動や野外活動を取り入れた取り組みは大いに推進される必要がある。 一方、公害病認定患者にとっては、閉塞性慢性呼吸器疾患をかかえながら、加齢化する不安が大きい。そのため、一般の高齢者と同様に、高齢者を対象とした諸制度を活用できるよう、各省庁間や現場での調整をきめ細かく進めつつ、公健法において補足すべき課題を把握し、有効かつ可能な対策から事業化することが望まれていると言えよう。当面、以下の点について調査・検討を進める必要がある。 *公害病認定患者の病状や病態、生活実態などに理解のある園芸療法士を増やしていくこと。それに資するプログラムやテキストなどの整備を進める。 *各地で園芸療法を活用した活動を実施したいという要求があった際に、園芸療法士を紹介したり、活動の立ち上げに向けた相談に応じるなど、必要な援助ができる体制を確保する。 *公害病認定患者やぜん息などを対象としたこれらの取り組みに活用できる助成金制度などを整備する。 *地域のNPOとして、地域社会やボランティアグループと医療機関などとの連携をコーディネートし、公害病認定患者の健康回復や福祉事業、子どもたちの喘息予防などの活動を広げる。
注 1)都市型複合大気汚染の原因を問う裁判として、1978年に提訴した西淀川公害訴訟は、1995年に被告企業と、1998年に国・阪神高速道路公団との和解が成立した。和解にあたって、原告・西淀川公害患者と家族の会らは,和解金の一部を地域の再生を支援するまちづくり活動の基金として拠出することとした。その後、1996年9月に財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)が設立された(環境省所管)。 2)豊島協一郎:アレルギー児に関わる心身医学的問題、小児の精神と神経、36:37-45,1996 3)公害病認定患者対象の園芸療法プログラムを開始するにあたって、まず西淀川区内に園芸の場を確保することが必要であった。西淀川区内の振興町会管理による公園の一角を活動の場として借りることができたため、「ふくの庭」と名づけ1999年2月より整備を開始した(2000年12月、活動終了)。
参考文献
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