阪神地域における貨物自動車・環境TDMの提案(2001年5月)<提言Part5>
2001年5月8日
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提案する社会実験の概念図
はじめに
阪神地域においては、阪神工業地帯の物流を担う幹線道路網が集中しており、深刻な沿道公害被害が発生しています
1995年7月、西淀川公害訴訟・大阪地裁判決が、自動車排ガスと健康被害の因果関係を認め、国・阪神高速道路公団に賠償を命じました。そして昨年1月には尼崎公害訴訟・神戸地裁判決が現在進行形の健康被害を認定し、大型車によるディーゼル排ガスの差止めを命じました。両訴訟は、原告側が賠償金を放棄して、国及び阪神高速道路公団との連絡会を設置し、対策を進めることで和解し、今日に至っています。
しかし現実には、このような原告・公害患者らの尊い決断にもかかわらず、省庁再編後も縦割り行政の弊害は著しく、円滑化対策や構造対策のみが先行する対策のあり方に、公害病患者らは不信を募らせています。
あおぞら財団は、阪神地域の道路公害対策に関わる調査・研究や提言の活動を取り組んでいます。1998年7月に『地域から考えるこれからの日本の道路〜西淀川道路環境再生プラン〜』を発表して以来、提言Part2(1999.6)、提言Part3(2000.3)を昨年8月7日には平成13年度政府予算における「日本新生枠」を念頭にした『阪神地域・環境TDM社会実験のご提案』を関係5省庁などに提示してきました。
これらの提言においては、一貫して以下のことを指摘してきました。
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- 阪神地域における交通総量の削減が必要であり、交通流の円滑化対策は交通総量削減とセットで行うべきこと。
- 貨物自動車に焦点をあてた対策が必要であること
- 府県域を越えた広域連携の対策を、各省庁バラバラではなく、各種施策をパッケージ化された統合的施策とその実行体制を確保する必要があること
- トップダウン方式ではなく、地域社会のさまざまな主体が参加し、学習しあう中から地域特性にみあった対策を構築していくこと。
現在、公害裁判運動の進展を受けて、ロードプライシングをはじめ各省庁・機関それぞれに対策が検討・試行されています。しかし、個別対策がバラバラに実施されたことで、結局は「効果なし」の結論に落ち着いてしまうことを危惧しています。
そこで、あおぞら財団では、これまでの提言をより具体化するための調査・研究を進めてまいりました。本日、その概要をご紹介するとともに、当面する対策のあり方について提言させていただきたいと思います。この間、この調査活動にご協力いただきました関係機関や事業所の方々に心よりお礼を申し上げます。
研究主任 傘木宏夫
提言の性格
本提言は、『地域から考えるこれからの日本の道路〜西淀川道路環境再生プラン〜』(1998.7)をマスタープランとして、その後に積み重ねてきた調査・研究や提言等を具体化し、環境NGOとして政府や関係機関、関係団体に提起するものです。
本提言では、貨物自動車に焦点をあてて、交通需要の管理と低公害化を統合した対策を関係各機関や団体、関係者の方々にお示しし、議論の進展とよりよい政策が得られることを期待します。
目 的
人の健康や生活への被害をなくし、環境への負荷が少ない、持続可能な交通体系の確立を長期的な目標とします。その実現のために、阪神地域のさまざまな主体が参加する社会実験を通じて、地域特性にあった対策や取組みを構築していきます。
基本方針
環境対策としての交通規制・誘導システムの確立を促す取組みであること。
中小・零細企業の低公害化や物流の効率化に向けた努力を促し、支援する取組みであること。
汚染者費用負担原則(PPP)に基づき、通過交通に対しては地域の環境改善に係る費用の適正な負担を課すものであること。
阪神地域のさまざまな主体が参加し、対話と相互理解を促す取組みであること。
目 標
本提言が提唱している社会実験の実施期間中に、兵庫県西宮市から大阪市此花区の区間における国道43号及び国道2号の沿道にあるすべての自動車排ガス測定局において、以下の環境目標を達成することを目標とします。
○NO2(二酸化窒素)、SPM(浮遊粒子状物質)の大気中濃度が、日平均値の環境基準を上回る日がないこと。
○騒音・振動においても環境基準を上回る日がないこと。
本実験での検証後、恒常的実施により、大阪オリンピックが想定されている2008(平成20)年度までに安定的な環境基準の達成をめざします。
社会実験案の検討に際しての論点
1.現状認識
○阪神地域の幹線道路沿道においては、NO2やSPM、ベンゼンなどが環境基準を満たさない状況が続いており、騒音・振動や低周波の被害も依然深刻である。
○環境負荷がとりわけ大きい貨物自動車に焦点を絞った対策の確立が急務である。
○景気低迷により需要が抑えられている状況のうちに、物流の効率化・低公害化に向けたルールとシステムの確立を図ることが重要である。
2.アンケート設計過程でわかったこと
○阪神地域における貨物自動車による交通や物流の実態を示すデータが不足しているか、関係機関により出し惜しみされていること。
○関係機関によって大型車の区分が違うため、具体的な対策を考える際にも考慮に入れる必要があること。
3.アンケート結果より注目したこと
○阪神地域に立地する事業者は、同一地域内及び隣接地域との交通が大半を占めており、そのような状況の下、国道43号は必要不可欠な動脈となっている。その実態を無視した対策は現実性に乏しい。
○阪神地域に立地する事業者のほとんどは昼間の時間帯のみ貨物自動車を運行している(夜間の貨物自動車の多くは通過交通であることを示唆)。
○ロードプライシング対策の認知度は高く、4分の3程度への減額でも相当規模の転換が見込める。ただし、設定方法によっては国道2号を含め、内陸部への負荷を高める恐れもあり、交通規制とのセットが不可欠である。
○小規模事業所では自社集配送の形態が多い中で、製造業や建設業では物流の共同化や低公害車共同利用の提案に対する関心が高い。
○環境問題への関心が高い事業所ほど環境対策への関心や協力意識が高い。
○低公害車普及では一定の公的支援と自動車メーカーの努力を求めている。
4.ヒアリングや懇談会などから注目したこと
○中小・零細事業者の多くは、厳しい経営環境下にありながら、貨物自動車による環境負荷について敏感に対応している。
○有害排ガス車を無作為に大量生産する自動車メーカーと、それを放任ないし税制面等で支援してきた政府に対して厳しい意見を持っている。
○トレーラーの運行に対する杓子定規な規制より、同車種の環境負荷が高いことを踏まえた効率的運行の促進と低公害化への支援を求めている。
○USJによる交通網の混乱が営業に影響をきたすことを懸念している。
実験案の構成
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- 内陸部における貨物自動車の通過交通を規制し、湾岸線に誘導する。
- 中小零細事業者が利用する貨物自動車の低公害化を支援する。
- 事業者やトラック運転手向けの交通環境学習プログラムにより啓発を進める。
- 上記の対策による環境効果をモニタリングし、さまざま主体の参加により評価する。
社会実験の位置付け
○実験に終わらせずに、恒常的施策に発展させるもの。
○線から面へ、阪神地域の環境改善の取組みを広げていくきっかけとする。
○実現可能性のあるところからはじめ、モデルを生み出しながら、段階的に対策を広げていく。
社会実験の実施時期
2001(平成13)年度中に交通シミュレーション実験を含めた検討に着手され、2002(平成14)年度に本格実施されることを期待します。
実験の実施期間はそれぞれのメニューにより違いますが、「1.交通規制と誘導」を実施する期間(少なくとも3ヶ月間を想定)に連動させて、他の項目も集中的に実施することを想定しています。
第1段階の実験終了後、そのモニタリング結果を踏まえて評価し、2003(平成15)年度から第2段階に進みます。そして、2004(平成16)年度からの恒常的実施をめざします。
実験メニュー
1.交通規制と誘導
メニュー | 第1段階 | 第2段階 | 備考 |
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国道2号及び43号の夜間大型車通行禁止 R2:神戸市中央区〜大阪市域間 R43:全区間 |
平日の夜10時〜朝4時までの6時間、指定許可車(低公害車、DPF装着車を含む)以外の大型貨物車の通行を原則禁止する。なお、指定許可車の識別についてIT技術の活用を検討する。 | 夜間規制に加え、R2は昼間規制を、R43は料金徴収を検討(地元事業者は減免)。 | 国道2号には既に大型車規制あり |
環境ロードプライシング | 阪神高速5湾岸線の国道43号通行規制区間に対応する料金所を通過する自動車(普通・大型)を対象に、夜間(夜10時〜朝4時)を半額程度、3号神戸線は5割増程度にする。 | 上記にあわせて、昼間の時間帯においても実施する。 | 夜間実施の場合はUSJ利用車には関係なし |
2.低公害車利用促進モデル事業(中島地区を想定)
メニュー | 第1段階 | 第2段階 | 備考 |
---|---|---|---|
特殊車両の低公害化支援 | 00人未満事業所の特殊車(トレーラー)の低公害化を支援する 1. 平成元年規制以前のディーゼル車(推計10台程度)は、既存制度の活用で最新規制車への買い換えを促す。CNG車など低公害車への買い換えには上乗せして助成。 2. 短期規制車(H2〜8年、推計40台程度)はDPFを無償貸与し、順次CNG車などの低公害車への買い替えを促進する。 |
阪神地域において希望する工業団地に同様の施策を広げる。 | 国においてはグリーン化税制を導入する。府県レベルでの導入も検討する。 |
低公害車利用推進拠点の整備 | 1. 燃料供給施設の整備 天然ガスなどの石油代替エネルギー供給源を整備する。また、低硫黄分軽油の集中配分を行う。 2. 常設見本市の開催 2年間の低公害型業務用車(乗用車〜貨物車)の見本市を開催。 �共同利用実験 参加事業者は共同利用車を低公害車の自社保有率にカウントできる。 |
低公害車利用とセットにした地域共同受配送センターを整備する。 | 自動車メーカーや燃料供給事業者の協力を動員する。 |
自動車利用計画策定・点検モデル事業 | 上記事業に参加・利用する事業所に自動車利用計画の策定・公開を義務付け、実務を支援する相談員を派遣する。相談員は物流効率化・共同化のコンサルティングも行う。 | IT利用による共同受配送システムの整備を促す。 | 地域共同受配送センター整備と連動させる。 |
3.交通環境学習プログラム推進
メニュー | 第1段階 | 第2段階 | 備考 |
---|---|---|---|
事業所向け啓発活動の推進 | 1. 啓発用冊子の配布 2. 講習会の実施 (沿道公害被害者との懇談等を含め) |
阪神地域を通過して運行すう事業者に拡大する。 | あおぞら財団にて交通環境学習プログラムを開発中 |
ドライバー向け啓発活動の実施 | 1. 啓発用リーフの配布 2. トラック関係労働組合との懇談会やワークショップなどの実施 3. マスコミ等を通じたPRなど |
阪神地域における運転免許更新時講習に環境の時間を設定する。 | |
グリーン通勤推進事業の実施 | 特定事業所ないし工業団地でのグリーン通勤モデル事業の実施(マイカー通勤者の公共交通機関や自転車利用等の転換実験) | 左記の取組みを面的に広げる。 | あおぞら財団と神戸製鋼所の実験例がある。 |
4.モニタリングと評価
メニュー | 第1段階 | 第2段階 | 備考 |
---|---|---|---|
環境負荷削減効果の調査・評価 | 社会実験実施期間及びその前後を含めて実験の効果を補足する。 1. シミュレーション調査 想定される交通量、実際の交通量などに基づき、環境負荷削減効果などを予測する。 2. 実測調査 広域圏からの大気汚染常時測定局における各環境項目(PM2.5を含め)のデータを把握する。交通量、騒音・振動も観測員を配置して捕捉する。 |
恒常的実施に向けたフィジビリティスタディとしての内容拡充。 | 各種学会による調査研究を動員して、広域での社会実験にふさわしい体制を整備し、海外にも情報発信する。 |
関係者アンケート調査 | 事業所及びドライバー(一般を含む)を対象にした社会実験に対する意識調査 | ||
意見交換の推進 | 1. 公開検討会やシンポ等の開催 実験の検討経過を含めて、なるべく公開の場での議論を積み重ねる。 2. 報道機関の協力による討論の場 テレビや新聞紙上での公開討論、市民参加討論などにより、一般市民の関心と討論への参加を促す |
同左。 | 各自治体の議会における議論も重視する。 |
想定される経費と役割分担
項目 | メニュー | 担当機関等 | 想定経費 | 備考 |
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交通規制と誘導 | R2&43の夜間大型車通行禁止 | 警察庁、各府県公安委員会 | 2千万円 | PR費等 |
交通規制と誘導 | 環境ロードプライシング | 阪高公団 国土交通省 |
2億8千万円 | pm10-am4交通量 約5200台(H6OD) 割引額の半額相当を補助。 |
低公害車利用促進モデル事業 | 特殊車両の低公害化支援 | 国土交通省 経済産業省 |
5千万円 | DPFは1台120万円と設定 |
低公害車利用促進モデル事業 | 低公害車利用推進拠点の整備 | 国土交通省 経済産業省 |
1億2千万円 | 主にスタンド整備 |
低公害車利用促進モデル事業 | 自動車利用計画策定・点検モデル事業 | 環境省 経済産業省 |
1千万円 | 主にコンサル派遣 |
交通環境学習プログラム推進 | 事業所及びドライバー向け啓発事業グリーン通勤推進事業の実施 | 環境省、警察庁、 あおぞら財団 |
2千万円 | 編集・印刷費等 |
モニタリングと評価 | 環境負荷削減効果の調査・評価 関係者アンケート 意見交換の推進 |
環境省、関係省庁、 学会等 |
4千万円 | 調査委託費等 |
※2002(平成14)年度分のみ