あおぞら財団 高雄市・美濃鎮の環境NGOと交流して 森 晶寿(滋賀大学経済学部・京都大学大学院地球環境学堂助教授)
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高雄市・美濃鎮の環境NGOと交流して 森 晶寿(滋賀大学経済学部・京都大学大学院地球環境学堂助教授)

今回、「全国公害患者の会連合会」の国際交流事業で、6年ぶりに高雄市を中心とする台湾南部を訪れた。6年前(1996年2月)の訪問時の焦点は、内陸部に立地する大社工業地区(コンビナート)と一般廃棄物の埋立処分地が原因と推定される大気汚染及び悪臭であった。そして健康被害に苦しむ住民は、グループを結成して、健康影響、特に近隣に立地して悪臭や自然発火による大気汚染を起こす等、管理を十分に行っていない埋立処分地を相手として、裁判を起こそうとしていた(この現場の状況は、あおぞら財団の海外視察写真集のページに掲載されている)。

今回の訪問でまず感じたのは、活動の焦点が一般廃棄物の焼却と有害産業廃棄物の不法投棄・違法処理という、先進国と共通する問題となっていたことであった。「教師会生態教育中心」によると、台湾南部(?)では、産業廃棄物が年間140万トン排出されているが、処理能力は年間50万トンしかなく、その差の90万トンは行方不明になっているとのことであった。そのうちの一部はカンボジア等の規制の緩い国に「輸出」され、他の部分は台湾国内で容量に余裕のある一般廃棄物の焼却施設で処理されたり、不法投棄されたりしている。産業廃棄物の焼却処理は住民への説明なしに行われていないため、焼却灰中に重金属やダイオキシンが含まれていることが懸念されている。しかも焼却灰の適切な管理が行われておらず、洪水時にたびたび流出していることから、河川や土壌を通じた悪影響が懸念されている。また不法投棄も、民間調査では2000カ所以上と政府発表(140カ所)とは比較にならないほど多く、住民が不法投棄を見つけたときには既に土壌が汚染されていることが多いという。しかし住民が不法投棄を行っていた業者を見つけて補償や原状回復を要求しても、裁判では住民の要求は認められていないという。

もう1点変化を感じたのは、環境NGOの間でのネットワーク化が確実に進んでいたことである。6年前の訪問時には、それぞれの団体は、自らの直面する問題を解決する活動に専念していた印象を強く受けた。しかし今回訪問した高雄市の「教師会生態教育中心」では、1998年に設立された際には高雄市内の自然保護や自然公園整備のための活動が中心であったが、次第に郊外の高屏渓の廃セメント鉱山での緑化や生態系保全、文化遺産保護のための活動も行うようになり、そして美濃鎮の環境NGOとも一緒に活動を行うようになってきた。また美濃鎮の「美濃愛郷協進会」も、1992年に設立された際には美濃鎮に建設が計画されていたダムに対する反対運動が中心であったが、次第に美濃鎮の自然と文化の保護(美濃鎮は、美しい黄蝶が多く生息し、客家の文化的伝統を色濃く残すことで有名な地域でもある)、そして小規模焼却炉の問題にも目を向けるようになった。そして台湾で開催された国際会議に参加し、国外の環境NGOと交流して国外での経験を学んだり、他の環境NGOと連携してダム建設の代替案の検討や全国の水資源政策の見直しを行ったりするようになっている。この変化の背景には、国外や台北の大学で学んだ若い人たちが地元に帰ってきていること、そしてその人たちが持っているネットワークを活用しながら反対運動を行っていることが挙げられており、興味深く感じられた。

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黄蝶で有名な樹木園。希少な種も数多くある

とは言え、焦点の変化は、必ずしも6年前に視察した工場からの汚染が解決されたことを意味するわけではなかった。台湾南部では、石油化学、鉄鋼、電力等の産業の比重は依然として高い。その一方で、健康被害の実態調査は、政府は行っているようであるが詳細は公表されず、また疫学調査は全く行われていないという。

また、「全国公害患者の会連合会」のような、被害者に加えて、弁護士や医者、専門家が参加して一緒に訴訟や代替案の提示、環境保全活動を行う環境NGOやそのネットワークが形成されたわけでもなかった。6年前に高雄の上流で工場が排水汚染を起こした際に、弁護士数十名が団体を結成して裁判で汚染の責任を追及しようとしたこともあった。しかし弁護士が必ずしも専門的知見を勉強したわけではなかったこと、必ずしも被害の実態調査や救済を目的として組織が結成されたわけではなかったことから、協力者は次第に減ってゆき、裁判も勝てなかった。この経験もあって、弁護士や専門家は、森林保護や環境教育では環境NGOと一緒に行動するけれども、水や廃棄物の問題では、たとえ調査に協力したとしても、一緒に行動をしようとしなくなっているとのことであった。

最後ではあるが、今回の国際交流事業をアレンジし、また通訳もして頂いた、山口大学の陳禮俊先生に感謝の意を表したい。わずか2日間ではあったが、陳先生の協力がなければ、交流事業は成立しなかったことでしょう。