環境省職員研修 西淀川公害フィールドワーク
日 時=2014年2月26日(木)13:00~17:00 27日(金)9:30~17:00
参加者=環境省職員12名
環境省職員の西淀川フィールドワークの受入を行いました。一日目の26日はビデオ「西淀川公害裁判を闘う」「公害被害体験を語りつぐ」を見た後、患者さんのお話で、和田美頭子さん・森脇君雄さんの話を聞きました。休憩を挟んで村松昭夫弁護士の話がありました。
和田美頭子さん
公害病は他人ごとでした。しかし周りからドンドン患者さんが増えていきました。そして何人もの方が亡くなっていきました。私は歌が好きだったけれど、以前ほど咳は出なくなりましたが、歌うことができなくなりました。わずかな楽しみが奪われた思いです。子供の頃は淀川にヨシがいっぱいありました。節句の頃には、それで粽を作ってもらいましたが、今はヨシがなくなってしまいました。この前、中国から来た人の中でゼンソクの苦しみを訴えている方が居ましたが、私は子どもがゼンソクで苦しんでいるところをみたくないと、しみじみ思います。
薬が怖くて、本当は薬を飲みたくはありません。発作が続いてとても辛かったです。何でこの公害が防げなかったのかとつくづく思います。
和田美頭子さん
交渉に行っても確たる答えがないのが残念です。いつも「聞き置く」だけですから。
環境省職員から
患者さんの中には60歳くらいの方も多いのですか?
上田敏幸事務局長
患者会のメンバーで、この地域の一番若い人は38歳で、最高齢は93歳です。
環境省職員から
嫌だったことや困ったことはありますか
和田美頭子さん
患者は差別的な目で見られるときがありました。「公害病の手当てで家を建てた」などと言う人がありました。妬みでそんなことを言われたことがありました。「あなたも先生の所へ行って調べてもらいなさい」と言い返すことにしていました。検査してもらうだけで大変でしたから。
環境省職員から
患者になったら、自分の住んでいる場所から出て行こうとは思いませんでしたか?
和田美頭子さん
先ず家族が居て、仕事があります。他の場所へは行けませんでした。
上田敏幸事務局長
出て行けない理由が3つあります。①仕事が出て行ってあるか。②今のような収入があるか。③患者に寄り添ってみてくれる医療機関があるか。それらが理由になって出て行く人が少なかったようです。西淀川では医師会の協力があり、患者と共に歩んでくれる先生が居ました。
和田美頭子さん
生活していくわけですから「汚れ」は見えています。でも「汚れた空気」で肺をいためるとは思い至りませんでした。
森脇君雄さん
「西淀川」を感じ取っていただきたいと思います。現地を是非見てください。
西淀川裁判を考える場合、なぜ患者会が「割れなかった」かという問題があります。
「カネミ油症」裁判では、労働組合が絡んで(患者会の)身内から分裂しました。
「新潟水俣病」裁判では、1次と2次で分裂し、弁護団も割れました。
「水俣病」裁判でも割れました。我々もそれを見てきましたので、患者自身が中心になって運動を進めるべきと強く思いました。弁護士中心でもだめなのです。
西淀川では患者が金を出し合って「街づくり」を提案していきました。高齢者のディケア施設「あおぞら苑」も喜ばれています。
患者が最初に怒った先は「煙り」を出す企業でした。「蒲焼のにおい」と工場からの煙を言ってのけた企業もありました。その被告を謝らせるかどうかが大事なところでした。千葉の大気汚染裁判は企業が頭を下げ、それによって患者が納得した姿を見て学びました。「西淀川では被告に全員そろって頭を下げさせたい」という思いがありました。
環境省職員から
裁判官は「大気汚染問題」を分かっているのかと思いますが。
森脇君雄さん
企業相手なら簡単に勝てる。しかし、国を相手にする場合、税金を使うわけですから、原告に勝利判決を出すことはとても勇気の居ることです。
村松昭夫弁護士
現状の知見をもとにしながら、原告に勝たせようと思う裁判官は、とても勉強しています。
国に負けさせるためには、だれもが納得できる判決を出してきていると言って良いと思います。
①大気汚染裁判を考えると、被害はピラミッドの形をしている。頂点は激症型であるが、広汎な最底辺部の改善がなければならない。
単にお金をもらってそれで終わりではないのです。
交通事故は、被害・加害の相関関係で成り立っている。公害は一方的な被害者のみであることに注目します。
②行政の役割に関し、道路の公害と発電所の煙は違う。発電所の煙はそのものに責任があ。道路は設置をし、それを管理する国の責任の問題になるが、「大きな公共性の前に、しかたがないのではないか」との論に対し「公共性があればこそ、一部の人間に被害を押し付けるべきではない」と主張してきたました。
③泉南アスベスト裁判では、戦前から石綿関連工場で働いていた人は50年働いてきたら100%発症すると言われている。「国は外国の例も知っており、規制する技術もあったにもかかわらず規制しなかった」その責任を追及しています。
④「人の命と産業の発達」の関係に国は向き合っているのです。国は「適時、適切に行為」しなければなりません。
⑤世界中探しても「あおぞら財団」のような、こんな財団はありません。公害を無くすためには、最後は「人」の問題になる。市民レベルの連帯こそ最終的な解決になるのではないかと考えています。
環境省職員から
なぜ、西淀川公害裁判はこのように長い裁判になったのですか?
村松昭夫弁護士
企業や自動車の排気ガスと疾病の因果関係の立証。さらにコンビナート型ではない工場群の協同不法行為責任の認定。排ガスが西淀川に到達している気象的な立証という困難な問題を抱えていたからです。
以上の話を聞いたあとは「西淀川・公害と環境資料館」を見学し、裁判資料を見学してもらいました。
環境省の職員の皆さんには、担当する仕事の意味を西淀川の事例を基に、考えていただく機会になったことと思います。
*2日目はフィールドワークです。その様子はコチラ
天野憲一郎