あおぞら財団 「交通基本法」の制定に向けた意見の募集について
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「交通基本法」の制定に向けた意見の募集について

2010年3月2日

国土交通省総合政策局交通計画課パブリックコメント担当 あて

「交通基本法」の制定に向けた意見

( 1)移動に関する権利の捉え方 ~第 2 条移動に関する権利

我が国では、これまで自らの移動の自由を最大限生かそうとして、より遠くへ・より早く移動できる交通手段整備に努めてきた。とりわけ自動車は、個人的に獲得可能であると同時に個別的な交通需要を最適に満たすものとして、この「移動の自由」に最も適合した交通手段として、道路政策はその可能性を最大限に満たすために推進されてきた。

 しかし、行き過ぎた車社会は、自らの「移動の自由」の実現によっては、他者の存在が邪魔になるような社会であった。我々は、自動車利用者同士の存在が可能になるための最低限の自由の制限(交通法規など)は受け入れてきたが、道路公害の防止や他の交通手段利用者の尊重などから必要とされた制限は、できるだけ回避ないし技術的方法による解決を望んできた。まして、コミュニティの維持や景観の保全などの価値は、自動車利用者の「移動の自由」という価値の前に、ほとんど顧られることがなかった。

  しかし、移動の自由の最大限の追求は、一方で「移動の不自由」や道路公害問題を生じさせ、他方では自動車利用者を個々バラバラに孤立させ、防衛的にし、社会全体を住みよく安全にするという公的な課題への関心を著しく後退させた。

  今回の交通基本法において位置づけられる理念としての「移動に関する権利」、「移動の自由」は、他者から移動を制約されまいと主張する「移動の自由( Liberty )」ではなく、自らとは異なる価値観や生き方を有する他者と交流し、協働するための「交通の自由( Freedom )」であるべき。

 また、交通基本法において、上記の理念を明確に宣言し、日本社会における交通の意義を確認し、車依存社会からの脱却を図り、持続可能な道路交通政策への転換を図るべきである。

(2)住民参加の位置づけを ~第 14 条 4 項、 15 条 4 項、 16 条 2 項について

高速道路や都市計画道路、まちの環境を大きく変えるような道路建設に際しては、情報公開やアセスメント実施、意見書提出・公聴会の開催、パブリックコメントなどの住民意見を反映させるための制度づくりが進められてきている。しかし、各地で繰り返される道路建設反対運動をみた時、こうした「参加の仕組み」には未だに多くの課題が残されているといえる。市民自身も道路や交通問題に対し関心をもつことも多くなく、身に迫った問題が生じた場合にのみ反対運動を繰り広げ、意見が対立した場合、裁判や公害調停という法的手段に訴えてきた。

 交通基本法の趣旨に沿って、多様な市民の「移動の権利」を保障していくためには、「住民の意見を聞く」に留まらず、交通計画への広範な住民参加が欠かせない。高齢化社会の到来に際し、地域住民の参加の下、地域交通のあり方について合意形成を図る仕組みを明確に位置づけるべきである。

  また、交通施策への市民参加を促すための仕組みとして、各地域における様々な交通問題(地球温暖化、大気汚染、交通事故、渋滞など)の解決を図るため、多様な主体(事業者、住民、行政、 NPO など)の参加の下、総合的な検討を行いつつ、問題解決のためのプロジェクト推進機関「地域交通マネジメント・センター」の設置を提案する。

(3)統合的な地域交通戦略を  ~第二章 交通計画について

現代においては、交通問題への対応として、道路交通円滑化のための諸施策に加えて、交通安全対策、道路公害防止対策、景観対策などのアメニティ向上策、地球環境問題への対応、高齢者・障害者など移動困難者のモビリティ確保など、安全・環境・福祉を柱にした総合的な対応が求められており、各対策を統合化して実施する段階に来ている。

  それには、各地域で、現在どのような移動が行なわれているのか?、潜在的なニーズ・課題はどのようなものがあるのか?、将来どのようにしていくのか?を明確にしていく必要があり、地域毎の交通計画においては、戦略的な計画目標に基づいた統合的な施策の位置づけを行なうべきである。

 さらに、交通計画との連携が不足しているとされてきた、土地利用計画、都市計画、環境計画等々と一体となって実施することが出来る法整備が必要である。そのことによって、大気汚染や騒音・振動などの道路公害をもたらしてきた道路・交通施策を転換し、各地域で、持続可能な将来像に向けて、道路空間を再配分し、自動車交通需要の抑制と自動車交通以外の交通手段の利用促進などを進める交通需要管理を進めていくべきである。

(4)低速交通の重視 ~第三章 交通に関する基本施策

徒歩(車椅子、電動カートを含む)・自転車・バス・路面電車に代表される低速交通手段は、環境負荷の少ない移動手段であり、持続可能な都市づくりに向けて、積極的に位置づけ、整備を図るべきである。

 また、身近な交通手段である低速交通は、日常生活における人々の機能(通院・買い物・用事・仕事・娯楽・交流など)の確保における機会の平等を保つ上で不可欠なものであり、高速交通が求めてきた利便性にとって代わる「文化」を生み出すということからも重要である。

(5)交通環境教育の推進~第三章 交通に関する基本施策

我が国の交通安全教育は、小学校から高齢者までの生涯教育の観点から構成されており、その意味で評価が高い。しかし、交通安全教育という分野に特化しており、総合的に交通に関して学ぶという視点がかけている。

  今回の交通基本法の制定に伴い、その理念の実現に向けて、交通安全教育だけでなく、環境教育、健康教育、社会教育といった多角的な視点から、各地域の特性に合わせた環境教育プログラムの開発を行い、年齢に応じて「交通」について学ぶことができるようにすべきである。

  交通環境教育の実施主体は、交通安全は警察庁、環境は文部科学省、健康は厚生労働省とそれぞれで進められており、連携がとられていない。これらを統合し、総合的な観点から交通について学ぶ機会づくりが必要であり、実践にあたり、市民・ NGO ・企業などの主体の参画も欠かせない。

  交通・運輸関係での大気汚染・温室効果ガスの削減を進めるためにも、エコドライブや自転車・公共交通の活用など、子ども・ドライバー・事業者向けの交通環境教育プログラムの開発・普及、買物から交通を考えるフードマイレージゲームなどわかりやすく学べる環境教育プログラムの開発・普及が重要であり、そのための支援体制を進めるべき。

参考: 交通基本法検討会について

「交通基本法」の制定に向けた意見募集の結果について