あおぞら財団 第三次環境基本計画に対する意見
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第三次環境基本計画に対する意見

2006年2月28日
第三次環境基本計画に対する意見
あおぞら財団(財団法人公害地域再生センター) 鎗山善理子

※印の数字は第三次環境基本計画案本文左側の整理番号

環境基本計画に「環境再生」の理念を

※10002
・環境基本計画に「環境再生」の理念をしっかりと位置づけるべきである。公害や環境破壊によって被害を受けた地域は、自然環境の再生だけではなく、人々の暮らしやコミュニティ、アメニティの再生が必要であり、そのことは環境の世紀といわれる21世紀の重要課題の一つである。
・公害地域における住民たちの再生活動は、大阪・西淀川をはじめ、川崎、倉敷、尼崎、名古屋と全国的に展開してきている。しかし、それらの取り組みが一層前進するためには、環境や地域の再生が環境基本計画や環境政策に正しく位置づけられるとともに、行政、企業、市民などさまざまな主体の協働した取り組みが不可欠であり、そうした参画の仕組みづくりが必要である。
・※21826「地域に存在する資源の保全と活用」の項目に「過去の環境問題を踏まえ、環境保全を通じて地域を再生する環境再生という視点を持つことも有益です」とあるが、この「環境再生」の視点はもっと大きな概念として捉えられ、位置づけられるべきである。そして「都市再生」として現在、都市部でおこなわれている事業は、従来からの開発型の事業となんらかわりがない。よって、環境基本計画では、本来の意味での環境再生が各地で促進されるよう、理念の位置付けとそれに基づく計画の具体化をはかるべきである。

過去に学ぶ姿勢

※11102
・「今日の環境問題の態様は、産業公害と開発に伴う自然の減少が課題の中心であった高度経済成長期までの環境問題とは大きく変化しています」とあるが、そうであるならば、なぜ、いまだに公害問題がなくならないのか。なくならないどころか、アスベスト問題などあらたな公害問題が表面化している。それは、過去に学ぶ姿勢がないからではないか。公害問題がなぜおこったのか、どう対策をとればあれほどの健康被害、自然破壊を出さなくてすんだのか、といった、公害発生のメカニズムやそこから導き出される教訓に学ぶことの重要性を環境基本計画でも最初にしっかり位置付けるべきである。
・経済優先の社会システムや行政や企業の責任があいまいであるといった社会構造が、今日の環境問題の背景にあるという点では、産業公害の時代の公害問題と根幹の部分では変わっていない。にもかかわらず、地球温暖化、都市におけるヒートアイランド減少、自動車による大気汚染などの環境問題が、すべて日常生活やライフスタイルの変化に起因する問題として現状認識がなされている(※11104)。これではいつまでたっても環境問題の解決は困難なのではないか。

負の遺産とは

※11115
・「負の遺産」としては、土壌や地下水汚染、不法投棄された廃棄物、アスベストなどがあげられているが、「負の遺産」の概念にはそういった物理的な問題だけではなく、地域コミュニティの破壊や人々が今も公害による健康被害に苦しみ続けている、といった問題も含まれるべきではないか。その上で「負の遺産」を解消していくためには、環境再生の考え方が大事である点を盛り込むべきではないか。

人と環境にやさしい交通

※21319
・「環境的に持続可能な交通システムの実現」に、環境道路等幹線道路ネットワークの整備とあるが、これでは、環境対策の名のもとに新たな道路建設の推進を可能とするものである。新たな道路建設は、さらなる交通量の増加をまねき、都市のアメニティを喪失させるなど、都市環境を悪化させてきたことは、過去の事実を見れば明らかである。
・そもそも、対策については、単体規制も大事であるが、同時に自動車交通の総量をどうやって削減していくかも最優先課題であることを環境基本計画で明確にすべきである。基本的な発想を「自動車交通優先から人と環境に優しい交通に」大きく転換することが必要である。

※21325
・「エコドライブの実施」が国民、民間団体の取組の一つとしてあげられているが、これではエコドライブ推進を一個人や一事業所の努力に期待する程度の対策になりかねない。とりわけ中小の運送業者がエコドライブに取り組む意義は大きいが、それぞれの事業所の努力に頼るだけでは実施は困難である。また、エコドライブは単なる器具の普及ではなく関係者、団体、行政間のパートナーシップで行うことが必要である。現在の自動車交通対策における単体対策は、単体規制と車種規制であるが、これにソフト面の対策としてエコドライブを位置づけるべきである。
・よって、環境基本計画には、自動車交通対策、引いては都市環境対策の一つとして、エコドライブの普及などソフト面での対策を正しく位置づけるとともに、こうした取り組みをさまざまな主体が協働して実施する仕組みづくりも積極的に位置づける必要がある。

公害・環境問題資料の保存と活用

※22232
・「環境情報の体系的な整備」の最後に「公害・環境問題に係る資料を適正に保存し、散逸を防ぐよう努めます」とある。これは第二次環境基本計画でもまったく同じ文言で記載されている。しかし、第二次環境基本計画以降、この点に関して具体的にどのような取組がなされ、どのような成果があったのか、そして現在、何が課題になっているのか、もっと言及しなければ、具体的な施策が進まないのではないか。「努めます」といっても、誰が何をどうするのか、記載すべきである。一口に資料といってもその所蔵者は行政だけではなく、住民運動団体、科学者、弁護士、企業など、多岐にわたっている。これらの資料は一堂にまとめてしまうのではなく、各主体、各地域で所有しながらも資料情報を一元化できるネットワークを構築することによって、有用な手立てを講じることができると考えられる。
・上記で述べた「過去に学ぶ」という視点を基盤にするためには、日本の公害・環境問題を歴史的に正しく認識し、その知見を今そして未来にいかしていくために、歴史の証人である記録資料を適切に保存し、活用していかなければならない。これら記録資料は国内だけではなく、アジアをはじめ海外でもいかされていくべきものである。そういったグローバルな視点をもつことも大事である。

公害被害者の救済

※22247
・「被害者の救済」で述べられている「被害者」は、公害健康被害の補償等に関する法律で認定された被害者に限定された記述がされているが、実際には公害によって健康に被害を受けている人々は認定患者以外にも大勢いるという現状認識がいるのではないか。
・一方、認定されている公害被害者は高齢化が進むにつれて、生活上の新たな困難が生じてきている。こうした被害者のケアを対策として実行することは、環境省の役目であり、環境基本計画では、重点事項としてしっかり位置づける必要がある。

環境学習・教育の公害被害者の視点を

※22278
・「環境教育・環境学習等の推進」では「公害」の問題は一言も触れられていない。地球環境問題をはじめ、さまざまな環境問題が課題として山積する今こそ、過去に学ぶ姿勢や、被害者の立場にたった思考を育むことが、教育の現場で重視されるべきではないか。公害の被害の実態をありのまま知ることが、子供たちが環境の大切さ、資源の大切さ、人権の大切さに気づく大きなきっかけとなる。

以上