あおぞら財団 台湾環境調査およびAPNEC-6へ参加して 道端 達也(玉島協同病院 内科医師)
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台湾環境調査およびAPNEC-6へ参加して 道端 達也(玉島協同病院 内科医師)

1.はじめに

①自己紹介

私は、2000年6月より玉島協同病院という岡山県倉敷市にある病院に勤務している内科医です。それ以前は、同じ経営母体である倉敷医療生活協同組合の水島協同病院で呼吸器科医として働いていました。水島と言うところは、巨大なコンビナートのある地域で、大気汚染の激しいところであり、公害健康被害補償法の指定地域でした。

私が就職した1983年に倉敷公害裁判がはじまりました。倉敷公害裁判の原告で私が日頃診察をさせていただいている患者様の診断書や病状の意見書を書くことで公害裁判に参加するようになりました。あおぞら財団との関わりもそこからできたものです。

②私の問題意識その1

私の好きな言葉に、think globally, act locallyと言うフレーズがあります。環境問題も然りで、世界的な視野を持ちながら、地元で環境問題に取り組みたいと考えています。今回縁あって、この企画に参加させていただきました。最初に、全国公害患者の会連合会、あおぞら財団、環境事業団等関係諸氏、諸団体に感謝いたします。

余談ですが、現在私の所属する生協法人はISO9000の認証をとることを目指しています。think globally, act locallyという立場からは、その後ISO14000の取得を目指したいと考えています。 実はそのために、ISO14000の通信教育も受けました。(ただ、9000と14000が統合されればその必要がなくなりますが)

③私の問題意識その2

今回のツアー参加の問題意識ですが、日本は良い意味でも悪い意味でも公害先進国です。悪い意味というのは、当然様々な公害を発生させてしまったことです。良い意味というのは、それに対する対応がなされてきているということです。対応というのはテクノロジーや法律・制度の整備といった問題もそうですが、一番誇るべきところは、公害被害者・地域住民と研究者、弁護士、医師等専門家が協力しながら公害に取り組んだことだと考えます。日本の悪い事例を世界に知らせて、同じような間違いを他の国で起こらないようにすること、また、被害者と専門家の協力といった形を知らせることが、大げさに言えばミッションと考え、参加しました。

2.APNEC6に関して

実は、私は、APNEC4、5と参加しており、今回が3回目となります。最初APNEC4に参加したとき、どこの国も環境教育に力を入れおり、日本は遅れていると感じたのですが、今回もそういう印象を受けました。ただ今回は単に印象を持つのみでなく、何らかの形で自分の地域でも環境教育を行わなければならないと強く感じて帰ってきました。

前置きが長くなりました。APNEC6で印象に残った点を二つ書きます。

①RCA

なんと言っても一番印象に残ったのは、「Video Program: RCA Pollution Case in Taiwan」でした。RCAというアメリカの環境汚染問題のVIDEOでした。とても字幕が早く流れたので100%理解できなかったのですが、国策で誘致したRCAの廃液で地下水が汚染され、労働者、地域住民が様々な健康被害にあったと言う内容でしたが、その癌の発生率の多さに驚きました。VIDEOでは、特に地下水汚染に焦点があてられていましたが、塵肺や職業性喘息、化学物質過敏症と思われるような疾病も発生していると思わせる内容でした。これほど環境を破壊して、労働者・住民の健康を破壊するものかという、ダーティーな部分を見せつけられた思いです。現在RCAはGEに合併されてしまい、きちっとした補償がなされていないということでしたが、これにも強い憤りを感じました。また、こういった問題を解決する法整備が台湾では遅れているという印象ももちました。とてもインパクトが強く、問題提起をしているすぐれたVIDEOだと思いますので、ぜひあおぞら財団で手に入れて普及してほしいと思います。

②基地問題

日本では、沖縄の基地問題があり、私は主に平和の問題と考えていましたが、基地問題は環境問題でもあるということを改めて認識させられました。特にフィリピンの基地問題が印象に残りました。基地による汚染物質は、有機溶剤、殺虫剤、鉛、水銀、砒素、石綿等多岐にわたっていました。フィリピンの基地(ClarkとSubic)のあった周辺住民に、白血病、癌の発生が多発しているようです。また、子供の中枢神経疾患が報告されていますが、ひょっとしたら水俣病ではないかと疑われます。残念ながら、きちっとした医学のレポートをもらったわけではないので、詳細はわかりませんが、潜在的な公害病患者さんが救済されずに苦しんでいるのではないかと思われます。

3.NGOとの交流・現地視察

APNEC6に先立って、台湾のNGOと交流しました。主には、高雄市教師會生態教育中心、そして、美濃のダム、焼却炉に反対しているNGOs、川砂の不法採取へ反対しているNGOです。

①高雄市教師會生態教育中心

このNGOは学校の先生が中心となっているNGOです。焼却炉への反対や地域の山への不法建築問題、産廃へのとりくみ、檜の原生林保護、海岸への不法廃棄の監視、環境教育等多彩な活動をされていました。台湾の先生は、日本と違ってかなり社会問題に関わっているという印象をうけました。(日本の先生もそういう方は当然おられますが)興味深いのは、環境教育をそれを解決する社会運動と結びつけていることでした。学校の授業中にもそういった社会運動を教えているとのことです。日本では、なかなか考えられないことでした。私は、そういった活動に学校の上層部から圧力がかからないかと質問しましたが、そういった圧力はないとのことで、これも意外でした。今までの活動の総括として、生態・自然と実際にふれあって学ぶ教育の大切さ、そして、生態教育は社会運動であるといった理解が大切であるとまとめられていましたが、なるほどと感心しましたが、日本での環境教育は、なかなかこのレベルへは行っていないと感じました。交流後、高雄市の港をクルーズして見学させてもらい、細かく解説していただきました。とても良い社会勉強となりました。

②美濃

美濃という地方で、一つにはダム建設問題、もう一つは焼却炉の問題の交流、見学をさせていただきました。美濃地方でダム建設があったのを、住民の力で阻止していました。その運動がユニークでした。ダムの底に沈む地区に熱帯雨林の公園があるのですが、そこには、貴重な黄色い蝶々が分布しており、その黄蝶を守ろうと毎年お祭りをしているそうです。水資源の教育、国際会議への出席、出版活動、学校・メディアを通してのフォーラム等多彩に活動されていました。

もう一つ、ゴミ焼却炉の問題です。ちょうど大切な水系の上にゴミ焼却炉が建設されてしまいました。住民は反対していましたが、不正に作成された書類で建設が認可されたそうです。現在非常にナンセンスなことは、他の地方に大きな焼却場ができており、美濃の焼却場はそこよりもコストが高いこと、そして、美濃で焼却されてできた灰をまた大きな焼却場に持っていって焼いているとのことです。こういうのは失政というのでしょう。

③砂利採取

もともとは、砂利の採取業者が川砂利を不正に採取したため橋が落ちてしまったことから住民運動がはじまったそうです。砂利の採取は、河岸のみでなく、畑からもとっています。まず、空き地から砂利を採取し、そこへゴミ(産廃も)を捨てて埋め立て、その上を畑にして農作物を作っているとのことです。このような畑でとれた農作物はどのような有害物質がはいっているか。。。私は、改めて輸入農産物の恐ろしさを感じました。このようなことが問題になり、あるところでは、もう一回土地を掘り返してゴミを取り出し、また土で埋め立てていました。そこを見学したのですが、その埋め立てた土地の上に倉庫のようなものが建っていました。その中には、どこへも持っていけないゴミがおかれているとのことでした。

4.おわりに

やはり環境問題には様々なものがあり、現地に行かないと理解できないと言う実感と、各国のいろんな人々がその問題に取り組んでいるという連帯感を感じました。実際に見聞するのは、本やインターネットで得た知識と違うものがあり、自分の活動の動機付けにも大きな力になりました。こういう機会があれば条件が許す限り何度でも参加したいと感じます。ただ、こういったツアーへの参加者が結構年輩者になっており、もう少し若手(20代、30代)の育成も考えたらどうかと思います。(こういうと自分が除外されてさみしいですが)

最後にもう一度関係諸氏に感謝いたします。