あおぞら財団 台湾調査に関する1つの印象 植田 和弘(京都大学大学院経済学研究科教授)
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台湾調査に関する1つの印象 植田 和弘(京都大学大学院経済学研究科教授)

2002年10月31日に出発し11月4日に帰国するという、しかもその間にアジア環境会議に出席するということだったので、実質的にはほんとうに短い期間の調査だった。そうではあったが、今回の台湾調査(私は1989年以来、何度か環境調査や環境NGO交流のために、台湾を訪れている。)においても、今後より解明されるべき課題が新たに明らかになったり、ますます台湾と日本との環境問題・環境運動・環境政策に関する交流が必要と思われる出来事にぶつかるなど、印象に残ることが少なからずあった。

第1に、環境保全のための土地利用の問題である。今回の環境NGOおよび住民団体との交流で最初に見学したのは、高雄県美濃鎮にある廃棄物処理施設であった。私の第1印象は、なぜこんな場所にこんな施設が立地しているのか、という疑問である。というのは、施設の周辺は田園地帯といってもいいようなところで、施設には強い違和感を覚えざるを得なかったからである。この施設が実際に環境汚染源になっているかいないかーー地元の環境NGOや住民団体からは強い抗議が寄せられていたーーは科学的な調査をしてみなければわからないが、そもそもこの場所に立地する合理的根拠はまったくないように思われた。工業地や住宅地から近いというわけでもなさそうなので、輸送的に見ても効率的に廃棄物処理ができるということでもない。なによりも、廃棄物処理施設の立地に関するルールが未成熟なのである。

第2に、環境技術移転のあり方に関することである。問題になった廃棄物処理施設は日本企業が製造した施設であった。近代的な技術は一面で普遍的な性格をもっており世界に普及していくものであるが、同時にその技術が活用される地域の実状に適していなければ有効なものにはなりえない。そのためには地元のニーズと技術とを適切に結びつける仕組みが必要であろう。ところが世界各地の環境技術移転の実例を見ていると、本来は地元のニーズにこたえるはずの技術移転が、現実には地元の地域環境を破壊する、あるいはそこまでいかなくても地元の土地利用とはあわない技術移転になっていることがしばしばである。今回の台湾のケースもその一例のように思われた。どうすれば地元に喜ばれ環境の保全につながる技術移転になるのか、そのための制度的枠組みのあり方を検討していかなければならない。

第3に、廃棄物問題・廃棄物処理技術・廃棄物政策等に関する日本と台湾との間の情報と経験の交流をもっと日常化する必要があるということである。このことはすでに述べた廃棄物処理施設の見学の後、環境NGOおよび住民団体との交流会に出席して強く感じた点である。交流会では、主として廃棄物処理施設に対する反対運動を中心的に担っている人々からたくさんの質問がだされた。その多くは、たとえば「日本ではこの物質についてはどういう規制をしていますか」、「日本では廃棄物処理施設の立地についてどういう規制がありますか」、「日本では廃棄物政策は誰が決めていますか」、「日本では廃棄物政策における国と地方の分担はどうなっていますか」といった質問にみられるように、地元で問題になっていることについて日本ではどうしているのか、ということである。また、ガス化溶融炉やRDFといった最先端の技術に対する評価も問題になった。さらに、台湾でも廃棄物の減量やリサイクルを進めたいので、日本での経験を知りたいという質問もあった。いずれも簡単に答えられる質問ではないので、交流会はあっという間に終わってしまったが、より系統的で日常的な交流が必要であり、そのために日頃から準備をしておかなければならないと感じた。

台湾ではさまざまな環境問題が発生し、それに対する環境NGOや住民団体による環境運動も活発化している。そして、環境政策上もさまざまな取り組みがなされてきている。その全体像を把握することは容易ではないけれども、今回の調査だけからでも日本とかかわる問題や交流が必要な問題が少なくないことは明らかである。個々の具体的なケースにおいても環境の保全が進むことに資するような日本と台湾の交流が進むことを願ってやまない。