中国/北京 訪問記(2016.3)その2 環境NGO 趙氏に聴く ~「好空気保衛侠」プロジェクトとは?~
続いて、訪れたのは北京を拠点に活動する趙亮氏の事務所です。マンションの一室では、学生スタッフ2名がパソコンに向かいながら、熱心に仕事を行っていました。ここの代表である趙氏とは、3年前(2013.2)に、天津にて、活動についてのお話を伺っています。
今回は、趙氏を中心としてNGOの連携・協力によって実施されている「好空気保衛侠」プロジェクトについて伺いました。この取り組みは、各地で①大気汚染源のモニタリング調査、②環境保護機関への情報公開請求や意見交換、③SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した情報公開・交流を行うプロジェクトです。
中国国内各地に存在する深刻な大気汚染源(鉄鋼企業、発電所、石油化学工場など)への現地調査を行っています。調査を通じて、違法行為を確認した場合、すぐに当地の環境保護機関に通報します。こうした調査後に改善したとみられる企業、現在対応中の企業がいくつかでてきています。
また、行政とNGOが対立する立場で開かれる会議ではなく、NGOが環境行政担当者と率直に意見交換する対話の場として活用される会議(約会)を開催しています(現在まで、中国各地で36回実施)。
今後は、更に活動範囲を広げ、中国各地(東北・華北・華東・西南)に「フィードバックセンター」を作っていく構想をもっています。
ここのメンバーは、80、90年代以降生まれの若い人が多く、微博(中国版ミニブログ)、微信(中国版ツイッター)などSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を積極的に活用しています。活動資金については、基金会等からの補助金、事業活動・調査へのクラウドファンディングを活用しています。
北京での大気汚染の状況について尋ねたところ、「北京オリンピックの後、また大気汚染がひどくなった。一時的な改善措置に過ぎなかったことが原因。しかし、以後に関心が高まり、対策が徐々に強化される一つのきっかけにはなったのではないか。」と話し、現在については「最近は、大気汚染改善への兆候が見られるようになってきている。例えば、鉄鋼生産能力が余っている。河北省でも、中小の鉄鋼企業が生産停止になっている。鉄鋼生産や石炭使用量の減少傾向は、大気汚染の改善には効果をもたらす。特に、石炭燃焼は大気汚染の60%の要因となっているので、効果は大きいだろう。他にも、エネルギー効率の改善、新環境保護法による企業への取り締まり強化、公衆参加が無視できなくなっていること、環境保護関係の投資が増えていること、など大気汚染改善に向けた流れは確かにある」。さらに、今後は「2022年に冬季オリンピック(北京市・河北省張家口市共催)があるので、そこまでにはなんとかしたいと政府も対策を一層強化するのではないか。しかし、実現のためには様々な部門が協働していくことが重要だろう。」と話した。
今回の訪問で、3年前と比べて、趙氏をはじめとする環境NGOの大気汚染問題に対する活動については、大きく進展していることがわかりました。当時は大気汚染問題への関心が高まり、簡易測定器による大気汚染測定がスタートしたばかりでした。現在は、現地調査と現地の環境保護機関との「約会」を中国国内で積極的に頻繁に実施し、その情報をSNSを用いて広く市民に知らせることで、より正確な情報公開と対策を促しています。これらの活動は、公衆参加のために有用なSNSという手段を用いて汚染源を監督し、政府との連携による対応を促す新たな環境ガバナンスへの実践となっています。
趙氏は、日本・西淀川地域での大気汚染公害対策の取組みにも強く関心を持っており、自身の微信(We Chat)でも紹介してくれています。日中環境NGOで、互いに協力して、青い空を取り戻しましょう。
(当日の微信We Chat)
参考:中国・北京・天津訪問記(2013冬)(ブログ)
・中国/石家荘 訪問記(2016.3)その1 環境弁護士 馬倍戦事務所を訪ねる
(記:藤江徹)