※「大阪でタンデム自転車を楽しむ会」の記事の転載です。
【連載】タンデム自転車体験記
「初めての海外旅行 台湾サイクリングに参加して」
阿佐 和幸
その1 旅行に行くことを決心するまで
わたしは現在40歳代後半の視覚障害者である。視覚障害者になったのは、いわゆる先天性と言われる生まれつきである。
今回生まれて初めて海外旅行に行くことができた。しかも、大手の旅行会社が企画するいわゆるパック旅行でなく、個人が内容をすべて企画した完全なオーダーメイドの旅行に、参加することができた。パック旅行のツアーでは体験できない貴重な体験を、たくさん得ることができたので、やや長期の連載とはなるが書いていくこととしよう。
今回わたしが参加した旅行は、「NPO法人サイクルボランティアジャパン」と言う団体が主催する、視覚障害者も参加OKの海外サイクリングツアーと言うものであった。サイクリングツアーと言うことで車やバスで移動しながらの観光でなく、基本的には移動は自転車を使い、自転車に乗りながら食事や観光・宿泊をするというものであった。宿泊はホテルで4泊とも違う場所で会った。もちろん全く車を使わないというわけでなく、坂の多いところや危険なところは車で移動した。
また我々視覚障害者は普通の自転車でなく、「タンデム自転車」と言うペダルとサドルが前後に二つ付いたものを使った。前のサドルに晴眼者が乗り、ハンドル操作とブレーキを担当する。後ろに視覚障害者が乗り、晴眼者とともに協力してペダルをこいで進むという自転車である。日本では走ることができる地域はまだまだ限定されているが、台湾は全国どこでも走ることができる。
わたしは以前から旅は好きである。しかし家族は電車に乗るのもいやだと言うくらい旅は好きではないので、なかなか家族での観光旅行をする機会は無いのである。まして海外旅行などは夢のまた夢という感じである。そのため、よくわたし一人で夜行バスや列車に乗り、全国あちこちに出かけている。しかし、やはりほとんど視力が無いので本格的な観光をするのは難しく、ほとんどが列車やバスに乗ることを楽しむ旅となってしまう。しかし、いつかは海外に行ってみたいというあこがれはずっと抱いていた。駅の近くから関西空港に行くバスが出ているが、いつかは大きな荷物をバスのトランクに預けて、あれに乗ってどこかの国に行くことをあこがれとしていた。
そういう中、今年の4月に「サイクルボランティアジャパン」のOさんから、「今年の8月に台湾でサイクリングを計画している。費用も約10万円くらいで大丈夫と想う。ぜひ参加してみないか。」との誘いを受けた。 普通の観光でなく、サイクリングと言うことでかなりしんどいのかなあ、などということを考えたが、10万くらいで海外に行くことができると言うことにすごく魅力を感じ始めた。また、台湾と言うことで時差も1時間しか無く、気候も大阪の夏とほぼ同じであるし、台湾の方はすごく親日と言う話も聞いている。飛行機に乗る時間も2時間半くらいと、東京に新幹線で行くのと同じであるので、そんなに疲れることも無いだろう。そしてしばらく考えた後、いったいどういう旅行になるのか想像も付かないが、とにかくあこがれの海外に行ける大きなチャンスである。これを逃すと本当にいつ行くことができるかどうか解らない。とにかく行く方向で動こうということとなり、旅行に参加したいことをOさんに申し出た。
家族にそのことを話したところ、「聞いたことも無い訳のわからない団体で、しかも外国で自転車に乗るというのか。大手を振っては賛成はできないが、まあ、あなたがどうしても行くというなら行っても良い。しかし、行ってどうなっても、すべて自己責任にして欲しい。」と言う、まあいつもの話であった。と言うことで一応家族の許可も取れたこととして、後は仕事の休みを取るだけということとなった。
では、なぜわたしがサイクリングツアーというものに参加することとなったのか、について簡単に記しておこう。
わたしのような重度の視覚障害者にとって、自転車というものははっきり言って好まれるものではない。放置自転車は歩行の妨げになるし、歩道を猛スピードで走るものはきわめて危険である。白杖を折られたという話も幾度と聞かされている。そう言うようなことから、マナー違反や無謀運転を取り締まって欲しいという運動はあちこちで行っているが、これに乗りたいという人はまずはいないものである。普通に生活をしているだけでは、乗ると言うことは考えないだろうし、ましてや今回お世話になった団体があることなども知るよしも無かったと思う。しかし、何年か前にわたしの友人が、大分県のサイクリングコースで、タンデム自転車という二人乗りが許されている自転車に乗せてもらって、すごく楽しかったという話を聞いた。また、いくつかの新聞でも、公園でタンデムに乗って楽しかったとか、しまなみ海道をタンデムで走ってすごく感動した、などの記事が掲載されているのを読んで、わたしも一度乗ってみたいなあと想うようになった。わたしも子供の頃は、淀川の河川敷に弟と出かけ、自転車に乗って遊んだことを覚えている。
そういうときに、わたしが所属している視覚障害者の団体で、なにか行事を考えないといけなくなり、では、このタンデム自転車が大阪の近くで乗ることができる場所などあるのだろうか。前に乗る運転手「パイロットという」などをやっていただける人などいるのだろうかと言うことを考えるようになり、いろいろ調べていただいた結果、「あおぞら財団」と言うところが、自転車を活用したいろいろなイベントをやっていて、またタンデム自転車についてもなにか活動していると言うことを知り、その会の集まりに参加することとなった。そして、そうこうしているうちに、大阪でもタンデム自転車を将来的には自由に使える町にしていこうという目的で、「大阪でタンデム自転車を楽しむ会」と言う団体が組織された。その団体員の中に「サイクルボランティアジャパン」のメンバーが多数おられ、タンデムに乗る体験会の時などにパイロットとして大変お世話になっている。その中に、副代表をやっておられて、しかも海外旅行やイベントの企画について高いノウハウを持っておられる方が、今回のツアーの代表をやっていただいた「Oさん」であった。と言うことで、「サイクルボランティアジャパンやOさん」を知ったのも半分は偶然と言えるかも知れない。出会いというものはいつどこで訪れるものか、本当に不思議である。 そして、幾度かのタンデムの体験乗車に参加している内に、これは今までに無い爽快な感覚を感じることができる。もう少し長い距離も乗ってみたいと想うようになった。その後、昨年この「サイクルボランティアジャパン」が主催する兵庫県の淡路島の公道を走るイベントに参加し、これまたすごく良かったので、また機会が合えば参加しようと想っていたところ、台湾サイクリングの話を聞くこととなったのである。 そういうことがあったため、思い切って参加することとなったのである。
次回は、出発までの苦労や心配したことなどを書くこととしよう。
寄稿者:阿佐和幸(大阪でタンデム自転車を楽しむ会会員/視覚障がい者)
「ウィズ東淀川のブログ」より転載(掲載日:2013年10月23日)
※あおぞら財団は「大阪でタンデム自転車を楽しむ会」の事務局です。
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