環境アセスメントという制度をご存じでしょうか。
環境アセスメント制度とは、事業者が道路建設や発電所など大規模開発事業による環境への影響を事前に調査、予測、評価をするとともに、市民とのコミュニケーションを通じ、環境保全の観点からよりよい事業計画をつくり上げるしくみです。
制度が生まれて10年たちますが、多くの市民へ制度への理解と参加を広げるために連続講座を開催しました。
2月14日(土)、15日(日)、21日(土)、22日(日)の4日間、岡山で開催された今回のアセス講座には、定員の30人をはるかに超える、50名以上の方にお申し込み頂きました。
制度への興味・関心の高さが伺われます。
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2月14日(土)
【会場】ピュアリティまきび2階会議室
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講義① 環境アセスメントと市民の役割
【時間】13:00〜15:00
【講師】浅野直人 氏 (福岡大学法学部教授)
【報告】西平強 氏 (岡山県生活環境部環境政策課参事)
【参加者(スタッフ含む)】 46人
浅野氏
西平氏
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講義② 風力発電所計画とアセス
【時間】15:10〜16:40
【講師】馬場健司 氏 (財団法人電力中央研究所社会経済研究所主任研究員)
【参加者(スタッフ含む)】 45人
馬場氏
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2月15日(日)
【会場】岡山国際交流センター研修室
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ワークショップ 市民意見の形成
【時間】13:00〜16:30
【講師】傘木宏夫 氏 (NPO地域づくり工房代表理事)
【参加者(スタッフ含む)】 32人
傘木氏
ワークショップの様子
グループ毎に発表
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2月21日(土)
【集合・解散】林原モータープール
現地見学 海から見学アセスの現場
【時間】集合13:00〜解散17:00
【案内】みずしま財団研究員 塩飽敏史 氏
中川直巳氏((財)岡山県環境保全事業団水島管理事務所業務課 主査)
【参加者(スタッフ含む)】 30人
参加者の自己紹介と講義に参加した感想を発表し共有
船で、海上から水島コンビナート見学
案内をする塩飽氏
船内の様子
瀬戸大橋の開通で騒音被害が問題になった集落
海上からみる水島コンビナート
満杯になったゴミ処理場を埋立ててつくられたゴルフ場
説明する中川氏
ゴミ処理場予定地を見学
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2月22日(日)
【会場】岡山国際交流センター会議室(1)
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講義③ 廃棄物処理場とアセス
【時間】13:00〜14:30
【講師】田中勝 氏 (岡山大学大学院教授、株式会社廃棄物工学研究所代表)
【参加者(スタッフ含む)】 42人
田中氏
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講義④ 都市再開発とアセス
【時間】14:40〜16:20
【講師】梶谷修 氏 (株式会社ポリテック・エイディディ常務取締役)
【参加者(スタッフ含む)】 40人
梶谷氏
講座終了後に修了式を行い、全回参加をした14名に修了証を渡しました。
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今回、運営などにご協力を頂いた、環瀬戸内海会議の松本さんとみずしま財団の塩飽さんの感想を紹介します。
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環境アセスはアワスメントという認識がこれまでずっと、頭にこびりついていました。ダム建設問題、廃棄物処分場、ゴルフ場開発、原発建設、公有水面埋立て問題と、民間事業、公共事業に関らずこれまで関ってきた問題では、事業者は全てお手盛りのアセスに終始し開発を食い止める手立てにはなりませんでした。常に歯がゆい思いをさせられ通しでした。
今後もよほど住民がパワーを結集してしっかり取り組まなくては、開発の波には抗し切れないだろうと思っていました。アセス講座に参加させていただいて、環境アセス法により、少し光明が見えてきたのかなという認識を持てるようになったように思います。
振り返ると、講座の最後に講師をされた傘木さんのお話を聞いて、環境アセスメントへの取り組みの方向性が、光明となったように思います。そこには、傘木さんのこれまでの取り組みでアセスへの住民のパワーの結集に心血を注いでこられた熱意が感じられたからなのだと思います。
とはいえ、一方で九州環境管理協会の方のアセスの現場を踏まえた話からすれば、アセス自体極めて定量的なものにならざるを得ないのではないか、とすれば一定期間の一時期を捉えた「数値」が環境評価の基準になるのではないか。それがその地に暮らす住民の経験や実感といかにかけ離れないものにしていくにはどうすればよいのかという思いがつきまとうのが現実です。たぶん今後の課題として残る問題ではないかと思っています。
1999年に環境影響評価法の施行で、環境影響評価方法書への意見書の提出ができることになったことは、恥ずかしながら全く知りませんでした。それ程に私ども環瀬戸内海会議が直面した「開発」現場は「アワスメント」が横行していたとしかいえません。むしろ、法制定・施行前に事業計画を許認可してしまっている「開発」計画と直面したといえましょう。当然、法の適用は施行以前の事業計画許認可には遡及しませんから。
アセスメント講座に参加させてもらい、今後そして将来にわたって、アセス法が手立てとなって、アセス法に基づく意見書の書き方、方法書への意見書の提出には大いに学ばせてもらいました。
しかし、課題は残っているように思います。なぜなら事業計画の策定のイニシアチブは事業者であり、計画策定の段階では住民の参加は現実のところ不可能であり、事業計画の概要すら公開されないのが現状です。計画段階にまで住民参加の保障し、あらゆるデータを公開した上での議論の場を担保していくことが、とりわけ「公共事業」を主導する自治体には求められていると思われてなりません。
環瀬戸内海会議事務局 松本宣崇
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環境アセスメント講座に参加して
今回、「市民のための環境アセスメント講座」に参加して、印象に残ったのは、「アセスメントは、事業に反対したり、中止させるための手段ではなく、事業をより良いものにしていくための事業者と市民とのコミュニケーションツール」ということでした。
確かに、これまでの大規模開発事業などでは、事業者側が一方的に計画を立て、周辺地域への影響はほとんど考慮されることなく進められ、そのために公害のように大きな社会問題や多くの被害者を出すことにつながったという歴史があります。それに対して、アセス法ができたことにより、少なくとも事業着工前に事業者と市民が意見交換をできる仕組みが整備されたことは、前進であると言えるでしょう。
しかし、アセス法にもまだまだ課題は多く、最も大きな問題は、「まず事業ありき」でその中で環境への影響を評価するということ、そして評価するのが事業者であるということだと思います。講義の中でもありましたが、事業の計画段階から市民が参画し、環境への影響については第3者的な立場から分析をすることで、その事業の妥当性、環境への影響の大きさを評価し、ときには事業の中止・代替計画への変更も担保されてこそ初めてアセスメントの意義があると言えるのではないでしょうか。そのためにも、今年行われるというアセス法改正に向けたパブリックコメントの募集には、ぜひ意見を出したいと思いました。
みずしま財団 塩飽敏史