10月20日、司法修習生研修を実施しました。参加者は10人でした。
地域再生マップとまちづくりの要求について説明する森脇さん、上田さん、藤江事務局長
毎年実施している研修ですが、新型コロナウィルス感染症対策として、原則、マスク着用の上、講義会場では密を避けて座れるようにして、実施しました。
フィールドワークでは、阪神出来島駅に集合した後、国道43号線の沿道対策の説明をはじめ、公害に関わるポイントを中心に、西淀川区内を歩きました。
国道43号線にて環境対策を栗本・谷内から説明
千北診療所前で、公害病についてと現在の呼吸ケア・リハビリの取り組みなどを紹介
地盤の低い西淀川で取り組む防災活動を紹介
大野川緑陰道路を歩く頃には暑さを感じるほどの好天でした
あおぞらビルに到着後、まず資料館を見学しました。午前中に、村松弁護士から西淀川公害訴訟に関する講義を受けた直後だけあって、みなさん、熱心に裁判資料をご覧になっていました。
実際の裁判資料に見入る参加者のみなさん
その後、公害患者の語り部として、池永末子さんのお話を聞いていただきました。
密を避けてスペースを確保して着席
池永さんのお話にたくさんの質問が出されました
池永さんのお子さんが公害患者で、学校で運動部の活動を休みがちだったため、周囲から誤解を受けたといった話に対し、参加者からは「子どもさんだけでなく世間一般でも、公害病への理解を得ることは難しかったのでしょうか」「他に知り合いでも公害病の方はおられましたか?」といった質問が出ました。
池永さんからは、「娘はぜん息と知られないよう、隠すことが多かったよう」「もう80年代に入っていた頃で、公害病というと特別な病気みたいで、隠す人も多かったと思う」「私は患者会に入って、同じ苦しみを持つ者同士で『こういうときは、こうしたらいいいよ』と話ができてとてもありがたかった」といった応答がありました。
西淀川公害患者と家族の会事務局長の上田敏幸さんから補足説明として、池永さんの娘さんが公害病に認定された頃、西淀川区の人口約9万人のうち、20人に一人の割合で公害患者だったこと、そういう状況を明らかにしたのは弁護士による調査。裁判を起こす前にアンケートが実施してくれたが、当時の弁護士はそれほどの関わりをしてくれていた、といったエピソードが紹介されました。
その後は、藤江事務局長による、あおぞら財団の地域づくりの活動と大気汚染の現状に関する講義です。
西淀川の現状をデータを示して説明
参加者からは「大気汚染物質の排出源はすべてディーゼル車なのか?」「道路連絡会の役割についてもう少し詳しく知りたい」といった質問が出ました。
藤江からは、「季節や場所によって、中国などから流れてきているものもあるが、日本の排出源は主にディーゼル車。いずれにせよ、もともとは人工物。対策については研究が続けられている」「道路連絡会で毎年、議論を重ねてきている。20年以上経って、2019年度にようやく西淀川区内の測定局全てでPM2.5の環境基準値を下回ったというのが現状」という説明がありました。
最後に、西淀川公害患者の会会長で西淀川公害裁判弁護団長の森脇君雄さんと、上田さんから、西淀川公害裁判に取り組んだ当事者の立場からお話がありました。
冒頭、コロナ禍の中オンラインで行われた環境大臣交渉の様子を紹介される森脇さん
質疑応答では、参加者から「そもそも裁判をしようとした思い、そして20年を経て和解にいたった思いを聞かせてほしい」「和解をすると決まったとき、反対をする原告はいなかったのですか」といった質問がありました。
森脇さんは、「西淀川の患者は団結していたので、反対派一切なかった。一番重症の患者が、一番先頭に立つので、その姿をみたら一緒にやらざるを得ないというのがうちのいいところ。それと、よく動くのは女の人。被害の訴えをしたり、ビラを配ったりしながら、患者は経験的に学んでいく。今の役員会でも新しい人が入っても一年経てばすごく成長している。裁判当時に活躍した3人の女性がいたけど、彼女たちは患者会の役員だけでなく、地域振興会や町会の役員もしていた。裁判の署名活動では、西淀川区住民の8割は署名をしてくれたと思う。一時はすごかった。それを大阪中に広げたのは、上田さん」と応答がありました。
それを受けて上田さんからも「女性は物おじしない。署名を広げるために様々な集会に行ったが、被害を訴えるときに聴衆が1000人、2000人いても、女性はさっと話し始めたものだ。粘り強さも含めて、桁が違うとでもいうような」「大気汚染公害の認定患者は現在、約3万1000人。そのうち大阪市には1万人いる。今も患者は忙しい。アスベストや福島の裁判の傍聴にも行っている。大阪地裁の近くで患者をみかけたら、ぜひ声をかけてほしい」といったお話がありました。
活発な質問に応答いただき時間が足りませんでした
幸いお天気にも恵まれ、充実した研修となりました。
参加者の感想をいくつかご紹介いたします。
・西淀川公害については全く知識がなかったため、詳しいお話を聞くことができ、また実際の訴訟資料も見ることができ、とても勉強になった。法律家は、社会の中で苦しんでいる人、弱い立場の人に目を向け、一緒に戦うことができる仕事であることを忘れないようにしたい。
・患者の方々、原告団だった方々が、想像以上にパワフルでした。全体として一致団結して、和解にあたって反対がなかったというのが、とても印象に残りました。法律家として、何より現地を知ること、依頼者をよく知ることを大切にしたいと思いました。
・お話がとてもわかりやすく、面白かった。とても苦労をされたと思うが、それを感じさせず、笑いに変えてお話されるところが、大阪人の心意気だなぁと思い、尊敬した。患者会内の班活動がどのようなものか、もう少し知りたかった。
・苦しむ原告も命をかけて闘うのだから、法律家として、他人事とは思わず自分事として行動したい。今後、未認定の患者さんのためにできることも考えたいと思う。