10月12日(土)、日本弁護士連合会公害環境委員会の主催で「西淀川大気汚染公害被害地域現地研修」を受け入れました。法科大学院生や若手弁護士が参加し、「西淀川の過去の公害の痕跡と公害対策をめぐる」をテーマにフィールドワークを行いました。参加者5人、引率3人の計8人でした
午前中は、大阪弁護士会館にて村松昭夫弁護士(あおぞら財団理事長)の「公害・環境訴訟を闘って」という講義が行われました。
講義で、西淀川公害訴訟について理解を深めた後、実際に西淀川へ移動し、阪神出来島駅からあおぞら財団までの間、公害にまつわる各所をまわり、街の様子を肌で感じていただきました。
<フィールドワーク>
●国道43号沿道
土曜日ながらも大型車が多い国道43号。交通量の多さや騒音、騒音壁やPM2.5の測定、阪神高速湾岸線への誘導策(環境ロードプライシング)といた環境対策を確認しました。
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国道43号の出来島小学校前
●淀中学校
1966年に一般環境大気測定局が設置され、二酸化窒素や一酸化窒素などの大気汚染物質が常時測定されていましたが、2000年の校舎建て替えに伴い撤去されました。その後も再設置されていません。
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4年前まで一般環境大気測定局があった淀中学校
●千北診療所(公害患者さんの組織化の原点)
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かつて西淀川公害患者会の事務局があった千北診療所
●あおぞら苑
デイサービスセンター。公害患者の高齢化に伴う日々の生活の援助を目的として、西淀川公害裁判の和解金を活用して、2006年にオープンしました。施設前には大気汚染公害を伝える石碑が立てられています。
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デイサービスセンターあおぞら苑
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「公害と闘い環境再生の夢を」
●大阪マスジド
高度経済成長期には全国から「金の卵」と呼ばれた若年労働者が集まり、多くの人が公害病になりました。現在は海外から多くの人が働きに来ていて、地域コミュニティとの共生、災害時の対応など様々な課題もあります。
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西日本最大級のモスク「大阪マスジド」
●大野川緑陰道路
1960年代にはドブ川であった大野川を埋め立てて自動車道になる計画がありましたが、住民の反対運動により緑の道に生まれ変わりました。
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かつてドブ川、今は緑生い茂る歩行車自転車専用道路
<あおぞら財団の紹介、公害語り部>
フィールドワーク後、あおぞら財団に戻り、西淀川公害の歴史や財団についての説明を谷内より行いました。
続いて、公害患者の岡崎久女さんが体験談を語ってくださいました。
岡崎さんは、ご自身だけでなく、息子さんも公害患者でした。今では医学が進歩して薬で公害病とうまく病状と付き合うことができていますが、当時は、あまりにも苦しかった病状のせいで、息子と無理心中をしようとしたことや、出産を諦めたことなど辛い体験を語ってくれました。
西淀川裁判に原告のひとりとして参加したことについて、こんな境遇にさせられたことに対して企業や道路管理者にとにかく謝って欲しかったという岡崎さんの強い想いを話していただきました。
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西淀川公害およびあおぞら財団の紹介:谷内
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公害患者のお話:岡崎久女さん、上田敏幸さん(西淀川公害患者と家族の会)
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真剣に話を聞く参加者たち
西淀川・公害と環境資料館 エコミューズも見学しました。
エコミューズには、公害裁判資料や公害反対運動等に関する資料が6万点以上あります。
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裁判資料を見る参加者たち
法律家の仕事は条文や判例など文字でのやり取りが多いと思います。公害の被害を受けた頃から終わることなく、ずっと続いている日々の想いを患者さんの口から伝えていただいたことは、すごく貴重な体験になったのではないでしょうか?
また、参加者の中には、これから法律家を目指す法科大学院生の方もおられました。このフィールドワークでの経験を活かして、当事者に寄り添う法律家になっていただけることを祈っています。
<参加者のみなさんの感想>
・岡崎さんの「とにかく謝って欲しかった。」という発言を聞いて、原告当事者の一貫した思いを受け止めることは大事にしたいと思った。
・公害被害者の方も高齢になられたり、亡くなったりと、次の世代に伝承していくことが急務だと思った。
・現場を見る事、当事者の話を聴くことが弁護活動の出発点と、再認識した。
・和解的解決の重要性を学んだ。PM2.5の測定を和解条項に盛り込み、それがその後の環境基準の制定につながるなど、西淀川訴訟はその後の環境政策に大きな影響を与えたことを改めて学びました。
(アルバイト 岸本景子、スタッフ 谷内久美子)