2025年6月12日(木)、大阪医科薬科大学医学部の4年生15名と引率の先生1名が、あおぞら財団にて「公衆衛生学実習」を行いました。
■フィールドワーク
午前9:00、阪神なんば線「出来島」駅集合。
そこからフィールドワーク、かつて公害を経験した足跡を巡りながら、環境再生の取り組みがされている地域のスポットも訪ねます。

出来島駅周辺 多国籍なお店も多い
出来島は周囲に工場が多く、外国から働きに来ている人が多く暮らす国際色豊かな町で、近年では多国籍なお店もたくさん増えました。
◎国道43号
「環境対策でされていることは何だろう」

国道43号の公害対策を確認!
◎あおぞら苑
あおぞら苑は、西淀川公害裁判で闘った患者さんや家族の皆様の思いが、ひとつの形になったデイサービス施設です。あおぞら苑前の石碑には「公害と闘い環境再生の夢を」と彫られています。

あおぞら苑の前の石碑
◎千北診療所
西淀川区内の患者会運動の原点ともいえる「大和田生活と健康を守る会」が中心になって、千北病院(現:診療所)ができました。かつては公害医療センター、西淀川公害患者と家族の会の事務所もありました。
偶然にも通院中の西淀川公害患者と家族の会の語り部、須恵さんと遭遇!

公害病治療の拠点だった千北診療所
◎大阪マスジド
西日本最大級のモスク(イスラム教における礼拝のための施設)。金曜礼拝には近畿各地から300人あまりのイスラム教徒が集まり、まるで海外のような景色になります。

大阪マスジドとハラールレストラン
◎大野川緑陰道路
1960年代、ドブ川だった大野川を埋め立て、市民の要望により緑あふれる遊歩道に生まれ変わりました。

西淀川区民の憩いの場 大野川緑陰道路
■うえに生協診療所 院長 金谷邦夫氏による講演「臨床の場において公衆衛生的な課題に取り組む」
金谷先生は西淀川公害裁判で証人を務め、実際の患者の苦しみと命を見つめてきました。現在はPFAS汚染にも取り組まれ、公衆衛生的視点を持ち続けることの大切さを学生に伝えられました。
質疑応答では「金谷先生が西淀川区に来られた当時(1978年)の西淀川の空や水といった環境の様子はどう感じましたか?」という問いに対し「汚いとは思いませんでした。しかし患者さんの咳などの様子から見た目には分からないが、他の土地より随分汚染されているのだと感じました」とお答えいただきました。

金谷医師からのお話
■西淀川公害弁護団 弁護士、あおぞら財団理事長 村松昭夫氏による講演「弁護士からみた西淀川公害」
村松弁護士からは、西淀川公害訴訟で弁護士が果たした役割、西淀川公害の意義についてのお話がありました。弁護士は、被害実態の調査や立証、原告支援、世論形成まで多面的に尽力。法廷内外で真実と正義を訴え、被害者と共に勝利と地域再生を導いた重要な役割を果たしました。
質疑応答では「弁護士をしていた中で一番大変だったことは?」という問いに対し
「判決前の不安(期待もあるが)、それは生半可なものではありません。西淀川公害裁判の当時 原告団長だった森脇さんは判決のひと月前から下痢が止まらなかったそうです」などの当時のエピソードもお話いただきました。

村松弁護士のお話
■西淀川公害患者と家族の会 語り部 山下明氏によるお話、 同会事務局長 上田敏幸氏との懇談
患者会のお二人から、昔の西淀川と公害の様子、病気の苦しみ・生活への影響などをお話いただきました。
山下さんは1975年に30歳で公害健康被害補償制度の認定患者になりました。子どもの頃はガキ大将で健康のそのもの。中学校卒業後、「金の卵」として九州から大阪に働きに来ましたが、大気汚染により気管支ぜん息になってしまいます。仕事は建築現場で重機のオペレーター。公害病による被害は仕事や人間関係、家族にも及びました。
質疑応答では「裁判後、今でも怒りはありますか?」という学生さんからの問いに対し
「元の健康だった体に戻して欲しいことはある。
仕事も健康ならできたこともありました。今の人生も違うものになっていたかもしれません」と仰りました。
また、ある学生さんからは
「自分もぜん息を持っているので、軽はずみには言えないが自分事のように話を聞きました」との言葉もありました。

西淀川公害患者会 山下さん、上田さん
■振り返りワークショップ
1日の学びについて、「今日の学び・印象に残ったこと」を“KP法”(紙芝居プレゼンテーション法)で、各グループごとにまとめました。

グループで印象に残ったキーワードを抽出

紙芝居として、各グループで発表
『医師として公害裁判に関わること』
『町に馴染む公害対策』
『柔らかい成長』など 思い思いのキーワードと自らの気づきを共有しました。

各グループの発表内容
中でも心に残ったのは、語り部・山下さんのこの言葉です。
「若い人には、私のような苦しみは味わってほしくない。
空気を吸っても吐けない苦しみ、横になって眠れない苦しみ。
このまま環境が良くなってほしい。人を殺さない、柔らかい経済成長を…」
今回の研修が医師を目指す大阪医科薬科大学の生徒さんの心にも残り、柔らかい成長の思いが継承していくことを願います。
(2日目の研修に続きます)
(スタッフ s)