日中環境問題サロン2016(第二回)
「中国における環境訴訟の現状と今後の展望」
中国の公害・環境問題に関する研究者、中国で活躍する専門家・環境NGOメンバー等を講師に迎え、中国の公害・環境問題についての報告や参加者との意見交換をおこなう「日中環境問題サロン」の今年度第二回目を8月5日に開催しました。
日時=2016年8月5日(金)17:30~20:00
場所=大阪弁護士会館920号室
主催=あおぞら財団、日本環境法律連盟、神戸市外国語大学
講演者=王燦発氏(中国政法大学教授/公害被害者法律支援センター(CLAP))
参加者数=43人
内容=
①「環境訴訟の現状と今後の展望」
②「改正環境保護法の評価」
③質疑応答・意見交換
①「環境訴訟の現状と今後の展望」
ⅰ)現状
王氏は中国環境訴訟が抱える問題として環境紛争の増加に対して環境訴訟の案件数が少ない点、訴訟の形式に偏りがある点の2点を挙げた。前者については、それでも2012年からは環境訴訟案件数が大幅に増加しており、この背景として、党が第十八回全国代表大会において「生態文明建設・科学的発展観」を強調したという政治的要因や環境法廷の増加に伴い環境司法の専門性がより高められたという司法的要因等があると王氏は分析した。
ⅱ)今後の展望
王氏は、2014年の「〈民事訴訟法〉の適用に関する最高人民法院解釈」で立案審査制が廃止され立案登記制が導入されたこと等により環境民事訴訟は今後ますます増加するであろうと述べた。その他、環境公害病の訴訟及び環境公益訴訟も徐々に発展するであろうとの見方を示した。
②新「環境保護法」実施1年の成果と課題
王燦発教授を主任として新「環境保護法」実施状況評価グループが設立された。評価の結論は以下のとおりである。
ⅰ)成果
・多くの階層、多くのプロセスを通じた広範な宣伝によって新「環境保護法」は社会と大衆に良く浸透している。
・大量の関係規定と基準の制定、及び地方独自の政策の整理が新「環境保護法」の実施を促した。
・厳格な法執行と政府指導者の問責が汚染防止と経済発展スタイルの転換を促した。
・新「環境保護法」が規定した幾つかの重要な管理措置は効果的に実施されている。
(例)指定地域における環境影響評価の許可制限措置、環境違法犯罪案件の移送措置等
・企業の環境意識、及び法遵守の自覚が高まり、自主的に環境保護に関する研修を実施する企業もみられる。
ⅱ)課題
・保護優先と成長維持の矛盾が突出しており、環境法執行上の最大の阻害要因は今なお地方政府に由来する。
・幾つかの関係法規の制定の遅れが、関係する法律制度の実施に影響を与えている。
・環境法執行のキャパシティービルディングの遅れが、新「環境保護法」の実施効果に影響している。
・政府部門間の協調と情報共有の欠如が法執行の効果に影響している。
・環境情報公開の不徹底が法執行効果に影響している。
③質疑応答
Q1.生態文明の建設とあるが、生態文明とは何か。
A1.とても複雑な概念であり、学者の中では制度文明、物質文明、文化文明等様々な文明が含まれていると解釈されている。しかし我々のような環境法学者は生態の自然の規律にのっとって開発、建設をすることであると理解している。
Q2.環境訴訟が増えているというのは、具体的にどのような訴訟か。
A2.2012年以降環境訴訟の件数が増えていることについて、生態破壊、自然破壊、汚染など各種訴訟の増加がみられる。中でも最も顕著であるのは汚染訴訟である。
Q3.日本の環境保護法と比較して中国の環境保護法の特徴。
A3.70年代末から90年代末にかけての中国環境保護法制は日本の立法を模倣している段階であったが、90年代後半になると中国は米国から学ぶ方向に切り替えた。日本の環境保護法の発展には公害訴訟を通して環境保護法規を整備してきたという特徴がある。対して中国の場合は民事訴訟や公衆の力ではなく、政府・行政機関が環境保護を主導するという特徴がみられる。つまり中国の環境保護法は日本とは違う特徴をもっている。中国の場合は汚染の防治と生態破壊の減少を目標としている所があるが、日本はどうすればこの環境がより良くなるかという問題に対処しようとしている。もちろん中国も日本に学んで循環経済促進法などを制定してきたが効果は芳しくない。
Q4.環境NGOによる環境公益行政訴訟はどうなっていますか?
A4.現在の法律ではNGOが環境行政訴訟を提起することはできない。ただし2015年全国人大常務委員会によって、人民検察院による環境行政訴訟が認められ、現在に至るまで10数件の訴訟が検察院により提起された。
Q5.環境NGOと政府との関係性について。
A5.中国のNGOは大きく3つに分けられる。政府が組織するNGOと政府とは関係ない草の根NGO、及び政府等の機関のもとに組織されたNGOである。草の根NGOは政府のコントロールは受けないが、活動を行うために政府機関での登記が必要であるため、多少の注意は必要となる。またほとんどの環境公益訴訟を提起しているのはこの草の根NGOである。政府等の機関の下に組織されたNGOは政府のコントロールこそ受けないが、属する組織に迷惑をかけることはできないので行動範囲は狭まる。
Q6.中国では公益訴訟には環境問題と消費者問題があると民訴法55条に規定されているが、消費者問題については原告が消費者協会という政府系組織に限定されているのに対し、環境問題については原告範囲を広げることに成功した。この成功は王氏などの働きで実現されたとの理解でよいか。また広げることができた理由は。
A6.民訴法にこのような規定を設けることができた点について、我々学者たちや支援者の共同の努力の結果だと考えている。
Q7.被害者の勝訴率、及び救済は改善されているか。
A7.公害被害者法律援助センターでの勝訴率は約30%、最近では勝訴率のさらなる伸びがみられる。また福建省のごみ焼却場案件のような、比較的困難な案件においても勝訴を勝ち取る例もみられる。
Q8.中国の正式な法律用語「公害病」という表記があるか。
A8.正式な法律用語にはない。一般的に我々や民間の組織などで使う言葉である。法律用語としては「環境健康訴訟」等の言葉が使われる。
Q9.汚染と病気の関係は誰がどのように判断するのか。また公開されている統計データはどのようにとられているのか。
A9.大気汚染と肺がんの関係において、医学者の間で多少の研究は行われており、北京のPM2.5の値が200を超えると病院を訪れる患者数が増える等の研究が報告されている。
以上
記・中條雄貴(神戸市外国語大学中国学科4年)
<日中環境問題サロン>
あおぞら財団の国際交流事業の一環として、中国の公害・環境問題に関する研究者、中国で活躍する専門家・環境NGOメンバー等を講師に迎え、中国の公害・環境問題についての報告や参加者との意見交換を行う日中環境問題サロンを2009年から開催しています。本年度(2016年度)は、様々なテーマで4回程度の開催を予定しています。
【第一回】どうなる?中国の大気汚染(6月10日(金)) 終了
■今後の予定
【第三回】湖南省における重金属汚染(10月7日(金)18:30~)
・中国・湖南省における鉱山開発による重金属汚染の実態と現地の環境NGOの実態について
【第四回】中国の公害・環境問題と環境NGOの取り組み(日程未定)
・中国で活躍する専門家、または、環境NGOメンバーを講師に迎え、中国の公害・環境問題の現状について
会場はいずれも、あおぞらビル内会議室
■申込:氏名、電話番号、所属をあおぞら財団までお知らせください。当日参加も可です。(定員30名)
※いただいた個人情報は本事業の目的以外には使用しません。
■問い合わせ・申込先
公益財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)
〒555-0033 大阪市西淀川区千舟1-1-1あおぞらビル4階 TEL 06-6475-8885 FAX 06-6478-5885
webmaster@aozora.or.jp http://www.aozora.or.jp/
よびかけ人代表:櫻井次郎(公立大学法人神戸市外国語大学中国学科准教授)
担当スタッフ:知足章宏(京都大学学際融合教育研究推進センター・アジア研究教育ユニット研究員、あおぞら財団特別研究員)
あおぞら財団の国際交流活動についてはコチラ
https://aozora.or.jp/katsudou/tsunagaru