先日、日中環境問題サロン2017(第三回):「中国で活動する環境NGOの現状」(2017/10/27)を開催しました。
今回は中国から環境NGOの方を3名お招きし、それぞれの団体の活動や、活動を始めるに至った経緯についてお話をお聞きしました。
■日 時:2017年10月27日(金)18:30~21:00
■場 所:公益財団法人 公害地域再生センター(通称:あおぞら財団)3F
■主 催:あおぞら財団(公益財団法人公害地域再生センター)
■プログラム
① はじめに「中国の特色のある環境NGO」(相川泰氏:公立鳥取環境大学准教授)
②「環友科技の活動紹介」(李力氏:北京市朝陽区環友科学技術研究センター)
③「武漢における水汚染と環境NGOの活動」(鄧青氏:武漢行澈環保公益発展中心)
④「西安における大気汚染と環境NGOの活動」(韋涛氏:西安市同大環境汚染防治研究所)
⑤質疑応答
【講演者・内容】
① はじめに「中国の特色のある環境NGO」(相川泰氏)
まず初めに、中国のNGOの種類と相川氏から「草の根」環境NGO発展史について解説いただきました。
写真:講演をする相川氏
中国のNGOは主に、政府系と、「草の根」、外国のNGO系の3つに分かれ、「草の根」環境NGOの発展史は4段階に分かれています。
第1段階1993年~2002年の前半は、北京の高学歴・知識層を中心に環境問題全般を扱うNGOが多かったのですが、その後、各地で専門性の高いNGOが登場しました。
第4段階にあたる近年は、政府の制約により活動を制限されるケースも少なくありませんが、情報公開政策を提言しながら公開情報を活用して、汚染企業を直接・間接に追及などの活動を行っているのが特徴です。
最後にまとめられた目下の研究課題中でも、日中環境NGOの関係性の変化が印象的でした。
かつては日本のNGOが進んでいて、中国のNGOにアドバイスをする関係性でしたが、SNSやメディアの活用など、今では中国のNGOが日本のNGOより進んでいる部分があり、互いに学ぶ対等な関係しています。
今後、日中の環境NGOの関係がより一層発展していくことを期待したいです。
②「環友科技の活動紹介」(李力氏)
昨年12月、第四回日中環境サロン2016でも講演していただいた李力氏。前回同様、今回も李力氏がこれまで尽力してきた活動について紹介していただきました。
写真:報告される李力氏
まず、李力氏はこれまで従事してきた主なプロジェクトを紹介されました。
2014年から気候変化教育プログラムと題して、環境教育用の教科書を作成し、今では中国の9省で教科書が採用されています。今後も日本と韓国と協力して教材の普及に努めていくそうです。
続いて、現在取り組まれている「楚源モデル」という染料工場の汚染改善プロジェクトを紹介されました。
工場から汚染源を出さないよう、NGOの環境活動家のモニタリングや、地域住民の委員会づくり、メディアの協力を仰ぐなど、情報公開を徹底した結果、プロジェクトを始めて1年余り汚染基準を超えたことがないと、その成果を報告されました。
写真:楚源モデルの成果を表すPPT
また、あおぞら財団や神戸市外国語大学との関わりを紹介された上で、最後に、「今後日本の経験を更に中国に普及して、中国の環境を良くしていきたい」と笑顔で締めくくられました。
③「武漢における水汚染と環境NGOの活動」(鄧青氏)
鄧青氏は2014年度に武漢行澈環保公益発展中心という、湖北省を中心に水汚染問題の改善に取り組むNGOを設立し、現在は代表として活動されています。
今回は、組織を立ち上げるまでの経緯やこれまでの活動について報告いただきました。
写真:自己紹介をする鄧青氏
鄧青氏は湖北省武漢市の工業地帯出身で、幼い頃、工場からの排煙で呼吸器の病気を患いました。大学時代には環境保護サークルを立ち上げ、卒業後は地元の鉄鉱企業に就職した後活動から離れましたが、工場で働く中で汚染が身近にあることを実感したことをきっかけに、2014年に湖北省で環境保護活動に再び従事し始めました。
武漢行澈環保公益発展中心の具体的な活動としては、湖北省の工業生産が環境に与える影響を調べ、企業や行政への改善提案を行っています。昨年は、同組織の取り組みだけで、3800万件の企業に対する行政の環境改善指導、7200万件の環境改善を達成したそうです。
写真:鄧青氏の報告の最後のスライド
発表の最後に鄧青氏は以下の言葉で締めくくられました。「做环保不为指责,只为唤起希望!(責任をただすためではなく、希望を呼びかけるために環境を保護しよう!」
鄧青氏の人柄を表すとともに、中国の環境問題の未来に希望を持たれていることが伝わってきました。
④「西安における大気汚染と環境NGOの活動」(韋涛氏)
写真:報告する韋涛氏
韋涛氏は陝西省西安市にて、大気汚染を専門とする中国初のNGO「西安市同大環境汚染防治研究所」の代表を務められています。韋涛氏元職業軍人でしたが、退役後大学に進学し、子どもが呼吸器官の病気を発症したことをきっかけに現在の団体をつくりました。
今回は、これまで行われた主な活動について紹介していただきました。
活動1:写真展
韋涛氏は写真家でもあり、これまで、汚染地域で汚染が酷い日と青空の日を比較した写真を撮り、全国で写真展を開催してきました。
これまでハルビン、長沙、成都、フフホト、杭州などで展覧会を開催してきましたが、今後も中国各地、機会があれば日本でも行いたいとおっしゃっていました。
写真:汚染が酷い日と青空の日を比較した写真
写真:代表作「中国紅中国白」(紅は共産党のカラー、白は大気汚染を表す)
活動2:マスクキャンペーン
汚染地域の低所得者層(ホームレス、出稼ぎ労働者、重度汚染の地域の住民)に無料にマスクを配り、汚染から自分を守ることができない人を助ける活動を行っています。汚染地域や農村部では、北京など大都市の方が、汚染がひどいと誤解している人も多く、汚染から身を守る方法を知りません。そのため、同団体ではマスクを配り、マスクの選び方や効果、使い方を教える活動を行っています。
⑤質疑応答
今回は講演内容が長くなってしまったため、質疑応答を簡略化させていただきます。
ご了承ください。
Q1. 中国は安いものを買うことで環境問題が深刻化してきたのではないか?
A1.
(韋涛氏)人の意識が変われば、安いものを買わないようになる。
以前はコスパを意識して買い物をしてきたが、環境に対応した企業の商品を買うようになってきた。
(鄧青氏)中国はやっと貧困線から脱することができたが、依然として物価の高騰、不動産の価格の高騰によって、生活費にお金を回すことができず、社会責任を追及することを後回しにしてしまうのが現状だ。
写真:質問に答える鄧青氏
Q.2環境改善を進めることで、環境コストが上がり、他の農村などに汚染源が移ることで汚染が拡大していくのではないか?
(韋涛氏、鄧青氏)大気汚染は移転しやすい分野であり、実際、小規模の汚染企業が移転していくことで汚染源が移転するが、現在政府が規制を強めており、今後も強化されるだろう。
写真:サロンの様子
――――――――――――――――
今回のサロンを通して感じたのは、日本も公害を改善したように、中国の汚染地域でも青い空や澄んだ水を見ることができる日くるのだという「希望」でした。今回お話をお聞きした3名は「中国政府は環境対策を強化しておりここ数年で大きく改善されている。今後の政策にも期待したい」と口をそろえておっしゃっていました。中国の環境NGOはそんな「希望」を原動力に活動されています。この言葉を聞いて、日本も希望を持って互いに協力していかなければならないと気付かされました。
記・當間美波(神戸市外国語大学 中国学科4年)
■日中環境問題サロン
あおぞら財団の国際交流事業の一環として、中国の公害・環境問題に関する研究者、中国で活躍する専門家・環境NGOメンバー等を講師に迎え、中国の公害・環境問題についての報告や参加者との意見交換を行う日中環境問題サロンを2009年から開催しています。
本年度(2017年度)は、様々なテーマで4回程度の開催を予定しており、興味を持って頂ける方々に、ご参加いただければと思います。
•よびかけ人:櫻井次郎(公立大学法人神戸市外国語大学中国学科准教授)、知足章宏(フェリス女学院大学国際交流学部准教授)
【第一回】「中国の環境問題を考える~日中環境交流の現場から~」(2017/06/26)終了https://aozora.or.jp/archives/28827
【第二回】「アジアの経済発展と公害・環境問題~参加・訴訟の現在から~」(2017/08/29)終了
次回は1月19日(金)の開催を予定おります。